第23話 ディメンションスラスト

「……とにかくだ。先ずは自分にできることを確認しよう」


 俺はそう言うと、王牙が遺した槍を手に取る。


「泰三、ゴブリンに攻撃した時、何かスキルを使ったか?」

「えっ……う、ううん、あの時は怖くて、そんなことを考える暇はなかったから……」

「わかった。それじゃあ、この槍を使ってランサーの第四スキルを試してもらえるか?」

「それってディメンションスラストのことですか?」

「そう、それだ」


 技名までは思い出せなかったが、そんな名前だったなと俺は大きく頷く。

 泰三が扱うランサーの第四スキルは、破壊不能のオブジェクトすら貫いて攻撃することができるというゲーム内バランスを崩しかねない超威力を持っていた。

 どう見ても運動が得意とは思えない今の泰三がそのスキルを使った場合、どのような効果と不具合が起きるかを見ておきたかったのだ。


 俺は再びアラウンドサーチを使って周りの状況を確認した後、泰三にディメンションスラストを使ってもらう場所を指定する。


「それじゃあ、泰三。試しにそこの壁に向かって使ってみてくれ」

「わ、わかりました」


 泰三は俺から槍を受け取ると、腰を落として両手で槍を構える。

 手にした槍を、弓を引き絞るように限界まで引いた姿勢を取った泰三は「ふぅ……」と小さく息を吐くと、


「ディメンションスラスト!」


 スキル名を発しながら鋭く槍を放つ。

 放たれた槍は、非力な泰三が放ったとは思えないほど鋭く空気を切り裂き、目の前にある石でできた壁を易々と貫いて見せる。


「で、できた……」


 槍は石壁に半ばまで達したところで止まってしまったがランサーのスキルを問題なく発動した泰三は、安堵の溜息を吐く。


「あのゴブリンを攻撃する時も、こうしていれば簡単に倒せたのかな?」

「だろうな。俺たちは確かに弱いが、手にしたスキルは本物だからな」


 俺のスキルバックスタブの時もそうだったが、手にしたスキルに関してだけは、個人の能力を問わずにしっかりと発動してくれるようだった。

 スキル発動に関してまで、しっかりとした基礎能力が必要だったら、俺たちの冒険はそこで終了しているところだった。


 だが、


「あ、あれ?」


 スキル発動を確認した泰三が不安そうな声を上げる。


「こ、浩一君、どうしよう。槍が……抜けないよ」

「ああ……やはりか」


 こうなることが予想できたから、泰三の槍ではなく王牙が遺した槍を使ったのだが、この問題を事前に知ることができたのは大きいだろう。

 ゲーム内の知識だけではこれから先、思わぬところで足元を掬われてしまうことを覚えておかなければならない。

 どれだけ強力なスキルを保持していたとしても、俺たち自身は何の取り得もないただの一般人であることを常に念頭に置いておくぐらいで調度いいだろう。


 一先ずの収穫を確認した俺は、未だに槍を抜こうと奮闘している泰三に話しかける。


「泰三、とりあえずその槍のことは忘れよう。」

「えっ、でも……」

「壁に埋まってしまったら今の俺たちではどうにもできないから、そうならないように気をつけようという実験だ」

「そ……うなんだ」


 俺の言葉に、泰三は納得したように頷きながら名残惜しそうに槍を見つめる。


「あの、浩一君。少し気になることがあるんですけど……」

「何だ?」

「この槍……多分、城の外に出ているんですよね?」

「そうだな。その先は中庭だな。それがどうかしたのか?」

「外から見た時、不自然に飛び出している槍があったら、そこに誰かいるって怪しまれたりするんじゃない?」

「あっ…………」


 泰三の指摘に、俺は顔から血の気が引くのを自覚する。


 確かに外壁から槍がいきなり飛び出ている個所があったら、何かあるのではないかと思うのがゲーマーの性である。いや、ゲーマーじゃなくても普通に考えて壁から槍が生えているのを見たら、現場を見に行ってみようと考えるのが普通だ。

 そうなれば、俺たちが隠れているこの場所がゴブリンたちにバレてしまう可能性は大いにあり得る。


「マ、マズイ……」


 俺は慌てて壁に刺さったままの槍に飛び付くと、力の限り引き抜こうと試みる。

 だが、正に壁に縫い付けられたに等しい槍が、並の腕力しか持たない俺がいくら頑張ったところでビクともしない。


「ぼ、僕も手伝うよ」

「ったく……何やってんだよ!」


 慌てふためく俺に、泰三と雄二も駆けつけてくれる。


「よし、それじゃあいくぞ……」


 三人で「せーの」と声を揃えて槍を壁から引き抜こうと試みる。

 だが、


「ふぬぬぬぬぬ……」

「ううぅぅぅ~…………」

「ふん……ぬらばああああぁぁぁぁ……」


 三人の力を合わせてみても、槍は抜くことだけでなく、逆に押し込むこともできなかった。

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