第14話 アラウンドサーチ
「…………」
「…………」
絞り出すように語られた泰三の言葉に、俺と雄二は揃って押し黙る。
この世界がグラディエーター・レジェンズの元になった世界であるならば、そんな化物がいるはずないと思ったのだ。
グラディエーター・レジェンズに出てくる人物は、プレイヤーキャラからNPCに至るまで、全て人間だけで構成されており、それ以外の種族の登場はないファンタジーを舞台にした作品にしては、硬派な造りが好評を博していた。
そんな俺たちからの微妙な空気を察したのか、泰三は小さくかぶりを振りながら言い訳をする。
「自分が馬鹿なことを言っているのわかっているつもりです。ですが、あれが僕たちに害を成さない友好的な生き物に見えなかったのは確かです。ですから、橋倉君が来たらお願いしようと思ったんです」
「……何をだよ」
「アラウンドサーチです。あの力を使って僕が見たものを安全な場所から見てみませんか?」
「はあっ!? 何を言っているんだよ」
泰三の発言に、俺は今度こそ呆れた声を上げる。
「あのな……いくらゲームから異世界へと来たからと言って、ゲーム内で使えていたスキルがそのまんま使えるわけないだろう?」
「いや、それが使えるんだよ」
俺の声に、雄二から待ったがかかる。
「信じられないかもしれないけど、俺たちがゲーム内で使っていたスキルは、効果もそのままに全部使えるみたいなんだよ」
「……本当に?」
「本当だって。俺のスキルだって……ほら」
そう言って雄二は背中に括り付けていた大盾を地面に突き立てると、
「見てみろ! これが俺の最終スキル、リフレクトシールドだ!」
どうだ。と謂わんばかりにドヤ顔を決めてみせる。
「…………」
だが、そう言われても俺には子供のごっこ遊びにしか見えない。
実際、雄二が構えている盾に何か特別なエフェクトが出たわけでもなく、何か特別な力が付与されたようにも見えなかったからだ。
「……いや、そこで押し黙るなよ!」
呆れ顔をして押し黙る俺に、雄二は自分の盾をガンガン、と叩きながら俺に指示を出す。
「何も起きてないように見えるけど、スキルが発動したのは本当だから俺に攻撃してみろって」
「…………わかったよ」
「言っておくけど、狙うのは盾だからな?」
「わかってるって」
余計な念を押された俺は「後悔するなよ」と言って腰のポーチに吊り下げられているナイフを一本引き抜く。
鈍い光を放つ鋭利な刃に、ゴクリと喉を鳴らしながら俺は、盾を構えている雄二を傷付けないように盾に向かって軽い力でナイフを振る。
そして、ナイフが盾と触れた途端に激しい火花が散り、
「――っ、うわっ!?」
俺は押し返すような超大な力に抗えず、情けない声を上げながら思いっきり仰け反る。
さらにその衝撃で持っていたナイフを取り落とし、全身は雷にでも撃たれたかのように痺れて、身動き一つ取れかった。
「マ……マジかよ」
冗談ではなく、本当に指一つ動かせない状況に、俺は信じられないと驚愕に目を見開く。
雄二の言葉通り、どうやら本当にグラディエーター・レジェンズ内で使っていたスキルが実際に再現されているようだった。
となれば、レンジャーの索敵スキルであるアラウンドサーチも使えるということになるが……、
「一体、どうやるんだ?」
レンジャーのアラウンドサーチは、コントローラーのボタンを一つ押すだけで勝手に発動するスキルなので、何をどうしているのかの仕組みがさっぱりわからないのだ。
自由に動けるようになった俺は、とりあえずコントローラーを持っていると仮定してボタンを操作する振りをしてみるが、当然ながら何も起きない。
すると、
「浩一、スキルを使うなら目を閉じて集中するといいぞ」
「そうですね。おそらく、それで発動できると思います」
俺のスキル発動に関して、雄二と泰三の二人からアドバイスが入る。
「お前たち、どうしてそんなことを知っているんだ?」
「だって……なあ?」
「はい」
俺の質問に二人は顔を見合わせると、同時にその答えを言う。
「「今まで散々見て来たから」」
「あっ……」
そう言えば、と俺はあることを思い出す。
グラディエーター・レジェンズは、VRゴーグルを使っての一人称視点のゲームなので、自分のことは殆ど見えないが、他人の様子はよく見えるのだ。
だから俺がアラウンドサーチを使っている時、どのようなポーズをしているのかを二人は俺以上によく知っているのだった。
それから俺は、二人にアラウンドサーチを使っている時のレンジャーのアバターの様子について事細かにレクチャーを受けると、
「よし、それじゃあ……」
大きく息を吐いて、肩幅に足を開いて仁王立ちになる。
目を閉じて意識を集中させると、自分の中に今までにない新たな力があることに気付く。例えるなら、それはドアのインターホンのような、押せば何かが起きるであろう脳内に設置された新たなスイッチ。
それに気付いた俺は、脳内にできたスイッチを押すイメージをする。
すると、湖面に水滴が落ち、波紋が広がるように見えない力が放射状に広がっていく。
潜水艦のソナーのように広がった波紋は、そのまま壁を突き抜けて進み、
「……見つけた」
俺の脳内に、赤い光点となって俺たち以外の存在を知らせてくれる。
ゲーム内のように地図までは表示されないが、それでもこの城の構造はゲームで散々歩き、熟知しているのでおおよその場所はわかった。
「行こう。場所は二階の左の貴賓室だ」
そう言うと、俺は先頭を切って赤い光点が示す場所へと駆け出した。
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