第9話 天下無双の強さ
そこから俺たちは、各々のスキルの最大解放を目指して、ひたすら戦い続けた。
一人で二十キルというのはこの手のバトルロワイヤルにおいてかなりの難易度になるのだが、生活の全てをグラディエーター・レジェンズに注ぎ、かなりの腕前となっている俺たちがその条件をクリアするのはそこまで難しいことではなかった。
そうして最大解放された各々のスキルは、やはりどれもチート級の強さだった。
アタッカーを担う泰三のランサーのスキルは、何と破壊不能オブジェクトである壁の向こうからでも相手を貫ける『ディメンションスラスト』という超高威力の技だった。
タンク役となる雄二のナイトは、任意のタイミングで背中に背負った盾を構えて発動できる『リフレクトシールド』という技で、このスキルの発動中に攻撃をしてしまった者は、なんとおよそ十秒間も無防備にさせられてしまうという集団戦において脅威となる力だった。
そして、俺が操るレンジャーの最大解放されたスキルは……、
「泰三、その先の階段下の部屋に二人隠れている。そう、そこだ」
俺の言葉に、泰三が壁に向かってディメンションスラストを放つ。
すると、派手なエフェクトと共に泰三の槍が壁に埋まり、画面に泰三が敵を倒したことを告げるキルログが流れる。
「雄二、驚いた敵がこっちに来るぞ。登場と同時に重い一撃を喰らわせてやれ」
「おうよ、タイミングは任せたぞ」
「任せろ」
俺は頷くと、敵の登場するタイミングをカウントダウンして雄二に伝える。
「イチ……ゼロ。行け!」
「おおおおおおおおおぉぉぉっ!!」
俺の合図に雄二は通路から飛び出すと同時に、誰もいない虚空に向かって手にしたハルバートを振るう。
すると、飛んで火にいる夏の虫の如く、雄二が振るったハルバートの軌跡上に二人のアバターが飛び込んできて、あっさりと二つに斬られて絶命する。
雄二は二つのキルログを確認すると、ハルバートを肩に担いで俺にサムズアップする。
「ヘヘッ、流石のチートスキルだ。この調子で次の獲物も頼むぜ」
「ああ、任せろ」
そう言うと、俺はコントローラーを操作して解放した第四スキルを使う。
すると、俺のアバターを中心に目に見えない波が広がり、俺が見ているマップ上に次々と赤い光点を刻んでいく。
「近くだと……左側の城の厨房、その奥で三人隠れているな。他には武器庫、中庭……後は城門前で複数人がいるな」
俺は近くの場所から次々と敵がいる場所を指摘していくと、一番近くにいる敵を倒すために動きはじめる。
マップ上で点滅している赤い光点は、敵の位置を示しており、これこそが俺が操るレンジャーの最大解放されたスキル『アラウンドサーチ』だった。
グラディエーター・レジェンズは、中世を舞台にした設定だけあって、レーダーやソナーといった敵の位置がわかるようなアシストシステムは一切存在しない……はずだった。
だが、まさかレンジャーというサポートに特化したこのゲーム内においては、地味だと言われているキャラにこんな隠し玉があったとは思わなかった。
このスキルの発見により俺たちの成績は飛躍的に伸び、何度もチャンピオンを獲得した。
そして、廃課金チームに先を越されてから三日後…………
「これで決まりだ!」
リフレクトシールドによって仰け反った相手に向かって、雄二がレベル十ハルバートを横薙ぎに払うと、三体のアバターが一刀のもとに真っ二つにされる。
同時に、俺たちの画面にチャンピオンを告げる文字が表示される。
肝心の俺たちのチームの合計キルは……、
「おい、見ろよ。七十一人だってよ。あの廃課金野郎の数を超えてやったぜ!」
「やりましたね……これって、おそらくこのゲーム史上最高キル数なんじゃないですか?」
予想以上の結果に、雄二と泰三の二人も喜びを爆発させる。
俺たちが取った作戦はこうだ。
先ずは、他のプレイヤーと密集地した場所で始まるまでひたすらリスタートを繰り返す。次に、全てのキルを俺に集め、最速でアラウンドサーチを手に入れ、後は最短で敵に肉薄し、培ったスキルを駆使して敵を各個撃破していったのだった。
リザルト画面を見て目標をクリアしたことを確認した俺は、流れてきた汗を拭って次に何が起きるのかを待つ。
「さて、一体何が起きるのか」
ここまでやっても異世界へなんか召喚されるはずがないと思ってはいるが、
「…………とりあえず、トイレに行ってこよう」
万が一、そう万が一、異世界に行くことになった時にいきなり催したらことだからな。
俺は二人に席を外す旨を伝えると、急いでトイレへと向かった。
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