第8話 異世界への誘い

 結局、一撃で廃課金野郎に殺されてしまった俺だったが、その後も接続しているゲームサーバーから退出せず、戦況を見守り続けていた。


「おい、浩一。こんな胸糞悪くなる試合なんてどうでもいいだろ! 早く次に行こうぜ」


 最初に殺され、早々にサーバーから退出した雄二が苛立ち気に次の勝負に行くように急かしてくるが、俺は「ちょっと待て」と受け流しながら事の成り行きを見守っていた。

 廃課金たちは、その後も二人のソードファイターを中心に残っているプレイヤーたちを圧倒していった。

 装備のランクが桁違いというのもあるが、最早チートとしか思えないソードファイターの極限のスピードに、誰もがまともに応戦することもなくやられていった。


 そして、そのままの勢いで全ての敵を倒した廃課金たちがチャンピオンとなったところで、俺は肝心のリザルト画面を食い入るように見る。

 そこにはキル三人合計六十四の文字。つまり、異世界へ召喚されるという条件は全てクリアしたこととなる。

 いつも通りであれば、チャンピオンとなった者たちを称える画面が出て終わりなのだが……、


「一体、どうなるんだ」


 異世界へ召喚されることなどあり得ない。そう思いながらも、何処かで万が一の事態があるのではないかと思ってしまっている自分がいて、俺は思わず苦笑する。

 なんてことはない。いつも通りの画面が出て終わりになる…………はずだった。

 チャンピオンを称える画面で突然天から光が降り注いだかと思うと、三人が別世界に誘われるように宙へと連れ去っていったのだ。


「…………えっ?」


 その後は何事もなかったかのようにホーム画面へと戻って来たが、俺は今目の前で起きたことについて考える。


「……橋倉君、今の見ましたか?」


 すると、俺と同じように最後まで残っていた泰三から声がかかる。


「僕の見間違いでなければ連中、異世界へ召喚されましたよね?」

「…………ああ、見た」


 真偽のほどは定かではないが、あの現象をそう呼んでも差し支えないと思った。


「えっ、何、何? どういうことだよ。二人して何を見ていたんだよ!」


 しかし唯一人、とっとと退出してしまったせいで状況が把握できていない雄二が騒ぎ立てるので、先ずは彼に俺たち見たものを伝える必要がありそうだった。




「かああああぁぁ、マジかよ! 俺も最後まで見ておけばよかった」


 俺たちから事の顛末を聞いた雄二は、顔が見えないにも拘らず、椅子の上で頭を抱えて悶絶している姿が想像できるくらい絶叫し続けていた。

 その声の大きさに、俺は顔をしかめながらも今後の方針について二人に話す。


「今後についてたが、少し考えていたことがあるんだ」

「何ですか?」

「うう……聞いてやるから、とりあえず話してみろよ」


 俺の声に、二人とも聞く姿勢を取ってくれたようなので、俺は続けて話す。


「開始位置を見極めるのも大事だと思うが、今は各々のスキルの最大解放を目指すべきだと思う」


 俺が何よりも脅威に思ったのは、ソードファイターのチート級の尋常ではない速さだった。

 目にも止まらぬ速さとはよく言ったもので、文字通り二人のソードファイターたちは俺の視界から完全に消えていた。

 各クラスの最上位スキルがあのソードファイターの速さと同じくらいのチート級の強さならば、先ずはそれを手に入れることが条件クリアに必要不可欠だと思われた。


「だからさ、先ずはそれぞれのスキルを確認してから今後の方針を立てよう」

「そうだな。確かにあれはヤバかった」

「異議なしです。では次からそのように動きましょう」


 こうして次の目標を決めた俺たちは、一足先に異世界へと旅立ったと思われる廃課金たちの後を追うように次の戦いへと身を投じていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る