第13話 深淵を覗き込む者
(油断したわ・・・。)
ぼんやりとした視界の中、クラリッサは四肢を動かそうと藻掻く。
(腕、足、どっちも動かない。視界も最悪。
全身麻酔でもかけられたかのように動かぬ身体に辟易し、心の内で溜息を吐く。
(能力者の持つ
自分の知り得る情報を空真や全体に伝えたいが、舌や喉の自由も利かず声が出せない。
能力を使い体内の重要な部分を優先して修復しているせいか、身体どころか声もままならないのである。
(気を付けて空真・・・。こいつは――――。)
(
*
両者の間合いは5メートルと言ったところであろうか。
本来ならば間合いとういうの戦闘の基礎であり重要な部分であるのだが、彼ら『超能力者』には関係の無いことである。
「さーて、確認がてら一発かますか。」
ケビンは紫煙でも吐くように息を吐き出す。一見何てことは無い所作。
しかし、空真の眼は
黒々とした何かが漂い、空真へと伸びていく。
さほど速くもない動きであるが、空真へと直線的に向かうと同時に回り込むようにも広がっており、闇の
これを吸い込むのはマズイな。
空真はクラリッサが倒れた状況を思い出す。
黒い靄を吸い込んでから二秒足らずで行動不能になっていたことから、これを体内に入れたら即終わり、か・・・。
空中へとその身を
ケビンの真横に低姿勢で現れた空真は蹴り上げよう攻撃態勢に入る。
しかし、予知でもしていかのようにその蹴りは綺麗に避けられ、またも距離を取られてしまう。
「こいつ見えてねぇか?物質感知はできないって聞いたけど、話が違うなー?」
相手が疑問が持つように、空真にも疑問が浮かんでいた。
『物質感知』ってのがわからん。奴の妙な回避や動きの先読みもこれが関係しているのか・・?俺の『能力』に欠陥が・・・?いや、今は持っているアドバンテージを活かす!奴の攻撃を、俺は見ることができる!
空真は駆け、彼我の距離を詰める。
「あーん?突進か?」
男が黒い靄を伸ばし、それが空真へと接触するその刹那。空真は勢い良く屈み
その先はケビンの足元。その低姿勢から繰り出されるは顎部への昇り蹴り。
しかしこれにも余裕の顔で
「さっきからちょこまかうぜーな。―――『
空真の後方にある靄が形を網目状に変え空真へと迫る。同時にケビンの口から更なる靄が現れそれも同一の形状に変わりながら空真目掛けて動きだして行く。
「チッ!」
靄の網が空真へと迫り挟みこまれる直前、ケビンの後頭部へと
「まーそう来るよね。」
直後振り返り、当然のようにその姿は捉えられてしまう。
空真は反射的に
幾度
と。
張り詰めた戦闘の途中、ましてや人の命が掛かっているのにこのような事を思い至るのは異常ではある。
しかし、その『異常』に至る程に空真は冷静であったといえる。
冷静に憤怒し、冷静に思慮していた。
試して・・みるか・・・!!
空真は消え、そのまま
「お前は芸がないよ。ダメだよ、それじゃ、おもしろくねぇ。」
ケビンは蹴りを往なし切ったところでその至近距離から靄を生み出す。
ここまでは空真の予想の範疇である。
繰り出された脚が戻りきる前にケビンの眼前から消える。
次は真後ろに現れ、先の攻撃の勢いもそのままに軸脚を変える。ここで『感知』により気付いたケビンが対応すべく後ろを振り向く。が、そこにはもう姿はなかった。
「チッ、上か。」
「いいや、下だ。」
眼球を上へ向けた直後、ケビンの脊髄に悪寒が入る。
間一髪のところで身体を左に動かし、顔に目掛けて放たれていた蹴りを避ける。
数歩後退りをし、空真から距離を取る。
(何が起こりやがった・・・。)
ケビンの
(この俺が、汗・・・?こいつに・・・?)
能力で自身をゆっくりと囲う。
(俺の『物質感知』は間違いなくコイツを捉えていた。コイツのちんけなワープなんぞ近くに現れた瞬間分かる。だが今起こった事はおかしい。)
ケビンは生唾を飲み込む。
(コイツは
対する空真は点と線が繋がったようで今起こった事に納得していた。
ワンズ局長が言っていた事はこういう事だったのか。これができると分かっていて・・・。大した人だ。
空真、鋭い目でケビンを睨み付ける。
「今すぐ全てに対し能力を解除しろ。」
「は?言う事聞くと思うか?ちょっと掠ったくらいで調子乗るなよ白服野郎。」
「そう言うと思った。ありがとう。これでお前をぶっ飛ばす大義名分ができた。」
その言葉を皮切りに両者は能力を発動する。
先に攻撃へとでたのはケビンであった。
「要は近づけなきゃ言い訳だ!―――『
防御陣形か?厄介だな。ならまずは―――。
空真は走り、ケビンの後ろへと回り込もうとする。
「無駄だからさっさと死ね!」
複数の触腕が迫り、空真の動きを制限していく。
そろそろだな。
空真は能力でケビンの後方空中へと
「・・・後ろだな!そこからどうするんだ?うーン?」
ケビンの上に垂れ下がるように存在した触腕が一斉に空真を狙う。
だが、空真をこの上なく冷静であった。
「――――『
空真はその姿を消す。
(上、いや真横か・・・クソ、さっきやられたアレだ。なら―――!)
触腕で自身を覆う。即死の絶対防壁、そう思っての行動だったのであろう。
しかし、空真の考えはその一つ上を行く。
パァン。
乾いた音が倉庫列に響いた。
ケビンは腹を抑え屈みこみ、頭上の靄も消えていく。
服を朱で染め、舗装された道に赤い水玉が装飾されていく。
「あんな見え見えの防御の構え、無策に突っ込むわけないだろ。」
「クソ、そもそも何で見えてんだ・・・!!お前ただの能力者じゃないな!!」
能力で距離を取っていた空真がケビンに近付く。
「それよりも州内で発動している能力を解除しろ。」
「・・・・。」
「すぐに局員が来るが、その前にお前は失血死するぞ。手当してやるから解除しろ。」
「今すぐ殺してやるよ・・・。ガフッ!」
空真の蹴りが左あばらを鋭く刺す。
血を吐きながら力無く転がっていく。
「もう一度言う。」
空真がゆっくりと近付く。
男は血の滲む歯を見せながら笑い、中指を突き立てた。
それ見て空真は――――。
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