第12話 開戦 『空間視覚』vs『殺人細菌』
――――ワシントンD.C. パーソンアヴィ通り
アナコスティア公園の対岸。現在は倉庫が多く並ぶ場所で男は苛立ちを露わにしていた。
「はぁ?どういうことだよこれ以上
『口には気を付けた方がいいよ、今すぐ火山口に捨てられたくなかったらね。何度も言うけど疾病屋、ワンズが出てきたそれはもう僕の仕事の範囲外だ。』
「『掃除屋』が相手を選んで仕事するんスか?
そう言い、見えぬ相手に中指を立てるケビン。その顔は遊んでる時間に邪魔が入られた子どものようである。
『自転車のレースにオンロードバイクで参戦してくるような事、と言えば分かるかい?奴が関わるならそれなりの準備が必要なんだ。なぁに、下準備だけすればあんなババア、次元の狭間でいくらでも
「まぁ、先輩が手出さなくてもいいっスよ。これから此処に来るであろう馬鹿共蹴散らして、ガキ共も殺してハッピーエンド!っつーことで。」
『演出は任せるよ。最高の喜劇になるのを皆で眺めとく。フフフ・・・。』
楽し気な微笑を最後に無線は途切れる。
そのまま鼻歌混じりに川に沿って歩いていく――――。
*
――――ワシントンD.C. ティンギィー通り
『空真!クラリッサ!その先だ!!』
レイからの無線を聞き、立ち止まる二人。
「先ってのはこのまま東に行けばいるのか!?」
『うん!100m先のカメラでそっちに向かっていってる。移動予測は―――。』
「いや、いい。能力で探す。」
眼球が充血していく。本来ならこういった行動の一つ一つは、クラリッサの許可の下行われるべきである。しかし、この時のクラリッサを支配していた感情は、果てしなく深い憎悪であった。
深淵の如き感情が先行し、作戦や命令系統等は眼中に無く、ただひたすらに
*
――――ワシントンD.C. パターソン通り
陽気な鼻歌を響かせ、通りを歩くケビン。
その道の数メートル先から空真とクラリッサが歩き出る。
初めて視線を交わす両者。この区画だけ時間が切り取られたかのように静まり返る。
空真が何かを思うよりも、ケビンが言葉を発するよりも。瞬発的に先んじて行動したのはクラリッサであった。
腰からピストルを引き抜き、ケビンへ発砲する。
躊躇いなく、まるで草でも刈り取るかのような空虚な顔で。
「おっと!?これが機関式のご挨拶かー?」
避けた様子を見て尚、クラリッサは何の感嘆も無くケビンを見つめる。
「なるほどね。」
そう、平坦な声を出した。
この時空真にだけは『分かって』いた。一歩下がり、『それ』に対し身構える。
「今ので分かったわ。あなたの能力、物理的に何かを起こす事ができないのね。」
「ん?」
「違うの?だったら今の弾丸、距離取ってまで避けずにどうにかしたでしょ?」
「そうだとして、どうすんだい?おねーさん。」
「
両脚に力が込められ、固く綺麗に舗装された道に罅が入る。それはクラリッサの怒りを体現してるかようでもあり、次に行われる動作が如何に危険かを表す指標でもあった。
クラリッサは気付いていない?俺だけが見えている?何故俺だけが?いや、それよりもコイツの能力は一体?
空真は焦りと動揺からか全てが一歩遅れた。
だが、それも仕方のない事だったのかもしれない。
空真にはケビンの攻撃が見えていた。
ケビンに恐ろしいほどの速度で飛び掛かったクラリッサだが、態勢を崩し、そのまま
顔面は蒼白、息は絶え絶え。目の焦点すら合わなくなってきていた。
ケビンは満面の笑みを浮かべながら屈む。
「当たりだよ。俺ちゃんの能力は弾丸を消したり、弾丸を防いだりできない。とっても、とーっても
身体の自由が効かないクラリッサの頬を突き、笑う。
小昆虫を捕まえた少年のような純粋で残酷な笑顔。
邪悪な笑顔のまま、その手は頬から首へと伝り乳房を撫でた。
あばらから這い、ゆっくりと、指を喰い込ませ揉んでいく。
「なかなか綺麗だな。これなら死んだ後も楽しめそうだ。・・・で、そこのお兄さんだ。」
クラリッサから手を離し、立ち上がる。
「お前、俺の攻撃避けたよな?」
「あの闇の事か?」
「闇?はぁ?よくわかんねぇ事言われてもなぁ。普通『赤』じゃね?・・・まぁいいや。あんたらが来たって事はどうであれ交渉は決裂だし、仕方ないから仕事もしないとな。」
残念そうな顔を浮かべ、溜息を吐く。
「ケビン・・・だったか?お前に一つ質問がある。」
「んー?今お仕事モードになるとこだから手短にしてくれよ。」
「お前ら『掃除屋』は、仕事として人を殺しているのか?」
これは空真にとって、とても大事な問いであった。
仮に殺害を指示した人間や、それを依頼した人間がいるならばそいつこそが真の『悪』だ。この男たちに裁きを下しても意味がない!大元を白日に出さなければ!!それを今、見定める!!
鋭い視線をケビンへと向ける。
その熱く光輝く双眸に、
「そうだなー。依頼が無かったらこんなめんどうな事はしないなー。」
やっぱりそうか。
そう安堵しかけた所で、ケビンの言葉は続く。
「なぁーんてな!ヴァーーーーカ!!仕事はオマケだ。最高におもしろいショーにする為の仕事なんだよ。な~に考えてんだ!違ったらお情けでもくれるってのか?ムカつくねー!そういうの!」
中指を立て苛立ちを吐き散らかす。
「じゃあ、子どもを狙ったのは?」
静かに質問する空真。
「おもしろいからって言ってんでしょーが。ムキムキの大人殺しても大して騒がないでしょ、お前ら。」
至極当然です、と論理破綻しているのが空真の方であるかのように言動を示す。
その言葉が開戦のゴングとなり、空真は『跳ぶ』。
ケビンの右斜め後方に
が、ケビンはそれを一瞬足りとも見ずに避け、再度空真から距離を取った。
「そんなに俺の『
挑発に対して何も言わない空真。
その胸中は静かな怒りで埋め尽くされていた。
こいつは、こいつらは。他人の命を、繋がりを、何とも思わず奪える。踏み躙れる。
やはり、『
許していけない―――――――――。
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