ラプラスの姫君
木山糸見
第1話 ある男の独白 ―野望―
ラプラスの悪魔は多次元空間にたゆたう。その魔物はこの宇宙の創世から終焉まで、さらには多項宇宙までも支配している唯一絶対の存在。何物よりも美しく、神聖な姿をしている、はずだ。人間に知覚できない高次元を視覚的に捉えることはできない。その存在はあくまで男が脳裏に描いているだけに過ぎない。
宇宙の創世から終焉までを表すたった一つの方程式、それは神の数式と呼ばれる。神の数式に基づき、全ての因果を見通す架空の存在を物理学者たちはラプラスの魔物と名付けた。複雑なこの宇宙がたった数行で記述されるというその理念は、物理学者たちの夢であった。もしラプラスの悪魔を3次元に投影させたならば、その姿は見る者を絶望させる程に美しいに違いないと男は確信している。
それを追い求めることは、数多の天才が挑んでは破れていった苦難の道である。そこに挑む彼が見出したのは、新たな『軸』を創造するという手法。この世界に存在しない虚数という概念が、無限の向こう側を人類に見せたように、その『軸』を用いれば実数と虚数が織りなす平面にある断崖を越えることができるはずだ。その先には宇宙創成前までをも語る魔物が住む。それは宇宙の森羅万象を予測するラプラスの悪魔を超越した、始まりの前さらには多項宇宙までも記述する式――ラプラスの『魔王』。
神を超えるものを生み出さんと魂を捧げた男が、その半生を語り出した。
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