第11話
彼女がバドミントンをやめてしまった理由である“事件”。
あの“事件”とは、まあ、簡潔に言うと「いじめ」である。
彼女は全国を取ったという肩書を持って、私立の強豪に進学するのかと思ったら、近くの私も進学する公立に進学してきたのである。
進学してきたとき、なんでだろうと思っていたが、あとあと、考えると私のせいだったかもしれないと、いつも後悔してしまう。
私は彼女がその時からずっと好きだったので、よく「どうしたの?」と相談事を聞いていたのだが、全国大会後の時に、彼女が悩んでいる顔をしていたので、聞いてみたのだ。
「どうしたの?」
「あ、琉愛、いや、なんもない」
「嘘だ、なんもそんなことなかったら、そんな顔しないよ」
「琉愛にはなんでもお見通しだな」
「それで、何があったの?」
「あのな、俺さ、私立の強豪に誘われたんだ」
「えっ!すごいじゃん!」
「ああ、でもな、一人暮らしをしないと通えないぐらい遠いところに学校があるんだよ」
「えっ?」
私は、耳を疑った。え?一人暮らし?嘘でしょ。中学生から一人暮らし?そんな馬鹿な。
「な?驚くよな」
「でもさ、奏空のお父さんたちはどう言ってるの?」
「まあ、俺の好きなようにすればってさ、お金はあるから、支援はしてあげるからって」
「なんかテキトーだね」
「でも、大切に育ててもらってるし、今回のは、自己の意見尊重なんだろうな」
「ふーん」
「それでさ、琉愛」
「うん」
「琉愛はどう思う?」
私は嫌だった。もともと、世界に羽ばたくようなとてもではないほど私が届くことのない奏空がもっと離れていってしまうのが。幼馴染であるというだけのそれだけの関係だけになってしまうのが。
だから、私は…
だから、私は最悪手を打ってしまった。
「私は行ってほしくないかな」
これが決め手なのかはわからない。それに確証も得ていない。
だけど…
だけど、これが少しは要因になったという確証だけは持てる。
彼女は公立に入学したのち、バドミントン部に鳴り物入りで入った。
バドミントン部はここ3年は全国に選手は出せるだろうと誰もが疑わなかった。
しかし、彼女をよく思わない上級生がいたのだ。
名前も思い出したくないような上級生たちであったが、バドミントン部の2年生の男子だったのだけは覚えている。
まあ、聖良先輩と恋のキューピッドになってくれたから、とは許してはないけど。
聖良先輩とは今も仲良くしてもらっているのだが、私をレズビアンにしてくれた元凶だ。滅茶苦茶可愛い2個上の先輩で、今は大学1年生。
先輩が卒業の時に遠くの大学に進学だったため、先輩も私も遠距離恋愛は無理だと判断し、円満に別れたのだけど。
付き合ってた期間は約4年間半と長かった。イヤイヤで始まったものの、結局別れるときには大好き同士であった。
それで、話を戻すのだが、奏空はバドミントン部の中でも群を抜いてうまかった。それでも、先輩たちが考えた練習メニューに文句ひとつ言わずにそつなくこなしていた。
でも、その先輩たちは「出る杭は打たれる」の「出る杭」のように彼女は思われてしまい、いじめを受けてしまった。
そして、私がそれに気づくときにはもう手遅れのところまで行ってしまっていた。
そう、彼女が学校に来なくなってしまったのだ。
その直後から、幼馴染の私は担任から奏空の配布物を受け取り、毎日毎日配布物を届ける役目を果たした。そして、毎回、奏空の部屋の前まで来て、毎回「大丈夫?」と返事の返ってこない問いかけを行っていた。
ある日、いつものようにその問いかけを行っていると、ドアがギィと開いた。そこにいたのは小学校の時、仲良くしていた奏空の姿は面影がなく、衰弱している奏空であった。彼は私を部屋に招き入れ、その一連の騒動について語った。
私は冷静にそのことについて聞いていたが、その話を聞けば聞くほど、腸が煮えくり返ってきたということを今でも思い出せるほどだった。いますぐ、その先輩たちを十字架に吊し上げ、白昼堂々、生まれたての姿で街中を引きずり回そうかなと思ったぐらい腹が立っていた。それから、奏空は学校には復帰はしたものの、バドミントンを授業ではしたものの、二度と競技として行うことは今までなかった。
私は何のために秀でた人間になろうと思ったのか。結論を言おう。
奏空を全てのものから私が守るため。彼女がまたバドミントンをしてもらうため。彼女が輝いてもらうため。
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