第三章 11.帰路

「もう朝か……」


 あれから聖堂の外へ出ると、もうすぐ夜明けなのか燃えるような色の朝焼けがこの薄暗い空に広がろうとしている。

 そして、直射してくるその朝日に目を細めた。


 すると、リラが門番兵に慌ててかけより、白魔法で治療を始めた。


 彼女の手からはあの太陽と同じ色が放たれている。

 それはこの落ち着きない心を安らかにさせるようなとても暖かな光だった。


 しばらくすると、グダンが馬車で迎えに来てくれた。

 町にいなかったからこちらへ向かったとのことだった。

 事情を説明すると、彼は次第に青ざめ、大粒の涙を次々に流しながら心配してくれた。


「本当に皆様が無事で良かったです……」


 そんな彼を見ていると、自分がここで戦ったこと、そしてそれを受け止めてくれていることを改めて確認出来た気がした。


 泣いてくれる人がいる、心配してくれる人がいる。


 生まれ育った世界ではないけれど、この世界で出会った仲間達が自分を受け入れてくれている。


 それだけでなぜだかほっとするのだった。



「えーー! 僕が返すんですか~!」


 そんな涙目の彼に、馬を店に返しておけ、と命令しているエダーの残酷なパワハラがまた炸裂したのは言うまでもない。


「……グダン、本当に申し訳ない」


 彼をなだめるように肩に手を置き、エダーの分も謝っておいた。

 なぜか少し喜んでいるようだった。



「……ケイスケ、ちょっと聞いてもいい?」


 馬車での帰りの道中、隣に座るリラがなぜか聞きにくそうにしながら聞きたいことがあると不思議なことを言っている。


「なんだ?」


「あ、あのね、……戦う女性ってどう思う?」


 リラがなぜか申し訳なさそうにそう尋ねてきた。


「うーん、そうだな……、素直にかっこいいと思うよ、とっても。それもオレなんかよりも数倍な!」


「かっこいいか……。そっか、そうだよね」


 力無く微笑む彼女はなぜか少ししんみりとしている。

 何か気に触るような事を言ってしまっただろうか。


「……でも、なんかさ、すごく綺麗なんだよな、戦うリラってさ。芯があるっていうか。ほらいつも剣術の練習とかしてるだろ? 思わず見とれてさー……」


「……え」


 しまった、何かとんでもないことを言ってしまった気がする。

 疲れと眠気で朦朧もうろうとしているとはいえ、素直に口走り過ぎてしまった。


 リラもかなり驚いているし、エダーからもなんて言われるか――


「……」


 エダーははぜか外を向いて黙り込んでいた。

 顔も見せない。

 疲れているのだろうか。


「あーリラ、変なこと言ってごめんな! いや変ってその変じゃなくてさ……」


 もう収集がつかない。


 この時初めて、いつものように怒鳴り散らしてくれるエダーを恋しく思えてしまった自分に、危険さえも感じた。


 リラは少し下を向き、その表情はよく分からなかった。

 だけど、気のせいだろうか。


 少し赤らいで見えた。


 もしこの世から自分がいなくなれば、彼女はまたあの時のように泣いてくれるのだろうか。


 だがいずれ、この役目が終わる日がもしやってくれば、イデアが言っていたように、この世界から自分は旅立つことになるだろう。


 そしたらもう彼女とは永遠のさよならだ。


 なぜなら住む世界が違うのだから。


 そう思うと、なぜだかこの心はとても暗く陰り、重りがのしかかったような気分になる。


 そんな心とは裏腹に馬車の外は朝日でもう真っ白だった。


 バーツが言っていた、リラがエダーの妹だという真実を詳しく聞きたい気もしたが、今まで黙っていたということは、きっと二人とも言い出せない何かがあるのだろう。

 話せる日が来るまで待とう。

 

 そんな事を考えながら馬車に揺られていると、睡魔にもう支配されつつあった。



 とんでもない夜だったな。


 でも――



 再び待ち受けるであろう、更なる激しい戦いへの覚悟を胸に、ゆっくりと目を閉じたのだった。





※サラリアの詳しい過去を描いた短編『堕ちゆく灯火』もよかったら読んでいただけると嬉しいです。

https://kakuyomu.jp/works/16816452219293782932

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