最終章 神空『リスヌレスの来者』
最終章 1.告白
冷たい空気を
その上にある鋼鉄で出来た漆黒の玉座にゆっくりと腰かけたヒードの影が高い天井にまで写し出され、炎と共に黒く揺れ動いていた。
「サラリアも弱かった……ただそれだけだ。弱い奴は皆死ぬ……! 世は強者こそが生き残り、救われるのだ。それをしっかり覚えておけ、バーツ」
「せや……」
孤島に堂々と聳え立つようなその玉座の前にはバーツが一人立っている。
「お前が見た
「そーや! こうボキボキッてなって、ばちゃーんやで! わいはしっかり見たで、ヒード様!」
「……時は到来した。そして必ず動き出す……リンガー王国も」
ヒードは少し口角を上げ、恐ろしくも楽しげに呟いた。
それはまるで獲物を定めた
ホリスト城へ帰城後、キリア女王に事情を説明した後、すぐに軍事会議が開かれることになった。
実際、バーツやサラリアが侵入してきている。
一刻もはやく何か対策を打たなければならないはずだ。
エダーを含む第一部隊から十部隊までの各隊長に、王女のリラ、それに自分も呼ばれた。
ここは日差しがきらびやかに入り込む大きな窓がある大広間だ。
その中心には巨大な円卓があり、
キリア女王ももちろんいるが、リラの父親である王の姿はどこにもない。
(王はもしかしていないのか……?)
その時、キリア女王が立ち上がった。
「……我が国は今、これまでにない危機に
その発言を聞くと、静まり返ったように誰も言葉を発さなかった。
するとリラが意を決したかのように、突然椅子から立ち上がった。
「……お母さま、守っているだけでは、この戦争は終わらない……! このまま永遠に守り続けてもいつか……この国は滅びるでしょう」
リラがきっと誰もが思っていることを口に出す。
だが、その悲しみを隠しているのか、声は力強くもその表情は儚げだった。
きっとここにいる軍人達やエダー、王女さえも分かっていた。
守りが時間稼ぎにしかならないことを。
「ですが、リラ。その行動の意味を分かっていますか?」
「もちろんです。このままじわじわと滅びていくのなら、今、攻めるべきです。例え……多くの犠牲が出ようとも……今、しかないのです……」
リラは声を小さくしながら下を向く。
だがすぐにまた顔を上げた。
「私にはまだこの力があります。今しかこの時がないのです。そうでしょう、お母さま!」
リラは右手を胸に力強く当て、その真剣な眼差しをキリア女王に降り注ぐ。
そんな彼女を見つめたキリア女王は、心苦しそうな表情で、何かを言いたそうにしているようだった。
(まだ……? 聖堂の時と同じだ。どういうことだ……? リラの力ってまさか……)
「……なぁ、まだってなんだよ……」
「……お前には話してなかったが、リラの白魔法の力は、十八歳を迎える頃に消えるんだよ、白い髪色と一緒にな」
エダーがバツの悪そうな顔でそう告げてきた。
「消える……!?」
「そう。ケイスケ、私はもうすぐ十八歳になる。この力はもうすぐ消えるの。だから、戦うなら今しかない。今ならまだみんなの力になれる……!」
その真っすぐな瞳に見つめられると、彼女が下した揺らぎ無い決心を感じ取る事が出来た。
「リラの思いは分かりました……。私は……正直に申し上げますと、一人の母親として、あなたがこれ以上戦場に向かうことに反対です。ですが……きっとあなたの思いは変わらないのでしょう……。私達が暮らすこのリンガー王国では、同じような思いをしている家族は大勢います。それでも私達はもう進むしかないのですね……」
すると、各隊から様々な威勢溢れる声が響き渡る。
「キリア女王……この戦争を終わらせましょう!」
「私もこの国の為に戦い抜く覚悟です」
「未来ある民のために、百年以上続くこの戦争に終止符を打つ時が来たのです!」
そんな数々の威風堂々な声がこだまする中、自分の頭の中はリラのことでいっぱいであるのに気が付いた。
(リラの白魔法の力が消える……!?)
キリア女王を見ると、髪の毛に白いところは全く見当たらない。
リラが戦場に赴いていたのは、あの力があったから恐らく容認されていたようなものだ。
あの力で皆を癒すことはもちろんだが、何より彼女自身のケガも治せるというのが最大の利点だ。
だからキリア女王もエダーも戦場に行く事を許していたに違いない。
――だが、リラからあの力が無くなった時、彼女は果たして戦場を去るのだろうか。
「皆の思いは分かりました。……『守る』ではなく、『攻め』に入りましょう。そして百年以上続くこの戦争を終わらせます……!」
キリア女王の発声に強く返事をする者、立ち上がる者、雄たけびをあげる者、様々だ。
だが、はっきり言って自分はそんな気分になれなかった。
エダーもまた複雑な表情を作り、眉間にシワを寄せている。
そして作戦が立てられた。
ゴル帝国へ陸地から入れる
戦力は分散されるが、奇襲を掛けられるほうがより良いと判断したのだ。
自分やリラを含む、エダーが率いる第一部隊が奇襲をかけることになった。
個人の攻撃能力が高い編成の隊となっているせいもあるが、リラが何よりそう切望したからだ。
彼女自身の白魔法の力を発揮できる利点もあるが、きっとリンガー王国の王女としてこの戦争にけじめを付けたいのだろう。
他隊は全て
これははっきり言って危険な賭けなはずだ。
だが、時間がないのも事実だ。
目的は約百年、ゴル帝国の王座へ座り続けているヒードと
この戦いが必要な事はもちろん分かっている。
恐らくこの戦いで勝負が付くと言ってもいいだろう。
そして今までも、より過酷な戦いとなるはずだ。
出発は、明日の夕方になった。
――
軍事会議後、風がそよぐ木々に囲まれたこの城の庭で一人剣を振っていた。
この不安を打ち消すかのように何度も何度も――
汗ばんだ背中に熱を帯びた夕日がかかり、目の前には自身の影が大きく伸びている。
そんな影がむなしくも何もない空を切り続けていた。
「くそっ、リラの力がもう……」
あの力が消えていくものだとは全く気が付かなかった己がとても腹立たしかった。
どうしようもないこの事実に、乱れたこの心を紛らわしたい一心で剣を振り落とし続けていた。
「おい、ケイスケ」
その時、背後から聞こえてきた声の主はエダーだった。
「エダーか……」
「……話がある。……妹、リラの件だ」
エダーが何か決心したかのように、遠くの夕日と共に前へ佇んでいる。
「あぁ……オレも知りたいと思ってたんだ」
剣を鞘に戻し、エダーの方へ向き合った。
周囲の木々が囁くように揺れ、微風が二人の間を
するとエダーは真っすぐな目でこちらを見つめると、その重そうな口を開いた。
「……俺は……リラと腹違いの兄妹だ。そして俺にはゴル帝国の王族の血が流れている。同じくリラにも……!」
風が次第に吹き荒れ始めたのだった。
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