第5話 龍の日の少年たち
【Attention】本日の放送には軽度の暴力描写が存在しますが、制作者の意図に基づき、修正を加えず放送するものです。13歳未満のお子様との視聴には充分留意のうえ、お楽しみ下さい。
🐉
いつかのどこかのお話です。
あるところに、第02特区という島がありました。
みんなはこの島をオズと呼び毎日を暮らしています。
この島では、住民の皆が主人公。
そんな彼らの様々な営みを、ひととき、覗いてみましょう。
今日の主人公は、ひいろ地区に住む三人の少年。
春のお祭りで賑やかな街で繰り広げられた大騒ぎ。
少し、覗いてみましょう。
P-PingOZ 『
ひいろ地区、マネキ街。安価な食堂や雑貨店、食材屋などなどが立ち並ぶ地元の商店街です。大歓楽街から近くてそれなりに治安も良いので、知る人ぞ知る穴場として人気の通り。ひいろ地区で今日から始まる
龍の日というのは、子どもの息災を祈る祭日と、古い古い暦上の祭日を、ハイシン教で海からご先祖が帰ってくるとされている期間【毎年スミレ月下旬からサクラ月下旬】にまとめてお祝いするお祭りです。今日から五日間、色々な催しが行われるそうですよ。もうすぐやってくるパレードも、その催しのひとつです。
勇壮な黄色い獅子舞が先頭を切って、仮装した地域の子ども達を乗せたひな壇や船、龍の玉座のフロート。それから、馬人形に乗ったサムライ、花魁、龍の人形を掲げる白い衣装の若者達、などなど。いっぱいの縁起物や祭日のモチーフを詰め込んで、パレードは主な目抜き通りをゆっくり巡っていきます。
それを飾るのが、こんな風に建物の間に幾つも渡された、赤や黄色の提灯たちです。形は様々、文字が書かれたり、絵や装飾があったり、繋げて龍の形にした物もありますね。自分のルーツを大切にする移住者が集まってできた、ひいろ地区ならではの景色です。
今日は車両の乗り入れも制限されて、道には食べ物や玩具、ミニゲームの屋台がずらり。人々の活気と楽しそうなざわめきに溢れています。が、遠くの方から、少しずつ種類の違う音が混ざっているような……驚き、悲鳴、それに……怒鳴る声?
「オラーッ! どけぇーッ!」
リヤカーです! 少年たちがリヤカーで爆走しています!
飲料を売るカートを倒し、リヤカーの端を引っ掛けて屋台の飴細工を台無しにしながら、通りを突っ切って行きます。
「またやってんのか」
「全くあの三バカは」
この、大人が呆れる少年達が今日の主人公、人呼んで「3B」です。
「危ねぇだろ!」
「うるせェ急いでんだよ!」
小柄で脱色した金髪のブリッツ【未登録市民/児童養護施設にて保護】が、リヤカーを引きながら屋台の主人に言い返します。
「蛮ちゃん、まだ?」
刺青だらけの腕で荷台を押すバオ【未登録市民/無職】が、荷台上の
「もうちょい待て」
荷台の蛮斎はゴーグルをかぶって森【web空間へのVR接続】の中。大きな体で座る姿は、ありがたい像みたいです。
普段なら売られた喧嘩は買う彼らが必死にリヤカーを走らせているのには、訳があります。彼らが暴走している間に、ことの顛末をダイジェストで振り返りましょう。
彼らは龍の日を楽しもうとマネキ街に繰り出そうとしたところ、誰かと連絡を取る男性とぶつかりました。その携帯端末を持つ手の甲には、うつぶし地区のギャング、クロックダイルワークスの刺青。しかも漏れ聞こえた内容が、このお祭りを台無しにする計画について。
すぐに男性を取り押さえて、あまり穏やかでない手段で事情を尋ねる3B。
すると、以前「鋳掛」というお店を通報したマネキ街を仕切る
そういう訳で、3Bはリヤカーでマネキ街を駆け抜けているのですが……市警とは言いません、大人に任せた方が良いんじゃないですか? ああ、今度は光るアクセサリーの屋台が!
「
蛮斎が声をあげ、リヤカーは脇道に入って一旦停止。
「パレードの一番後ろに、大型人形がいる。運営の資料だと、空気で膨らますタイプで、鎧武者のカッコさせてるやつ。それが今トロルなんだと思う。そっちも画像あったから送るぞ」
「蛮でかした!」
蛮斎が、二人へ画像を送ります。
「うわあ、ブリッツ二人分ぐらいあるんだ」
「そう。それと、公式で出てる進行だと、パレードちょい遅れてる。まだマネキ街まで来てない」
蛮斎の話を聞いて、ブリッツが指を鳴らしました。
「なら、アーケード前の橋でそいつだけ足止めできんじゃねえか?」
「蛮ちゃん、間に合う?」
「余裕」
「よっしゃ! じゃ、蛮はトロルのこと調べとけ。バオ、来い!」
言いながら駆け出すブリッツに、二人は顔を見合わせます。
「待てクソガキ! 運営に苦情来てるんだぞ!」
スタッフのジャケットを羽織った大人が、ブリッツを追いかけるのが見えました。二人は再び顔を見合わせました。
「リーダー助けてくるね」
「頼む」
「うん」
蛮斎の背中を叩き、バオも大通りに飛び出しました。「無茶すんなよ」心配そうに二人を見送った蛮斎は、再びありがたい座像になって、調べ物を再開させます。この無鉄砲な3B、果たしてトロルを止められるんでしょうか?
🐉
ひいろ地区マネキ街に、龍の日のパレードがやってきました。
今は、深い生活用水路の上に掛かる小さな橋を、琴や笛による華やいだ音楽を流しながら、子ども達を乗せた船のフロートが通るところ。神様や古い時代の皇帝の仮装をした子ども達に向かって、沿道からは花飾りや紙吹雪が舞います。
賑やかに進むパレードの最後尾、強そうな鹿角を生やした兜に金糸の羽織りを纏った大きな鎧武者が橋にさしかかった時。
人波から飛び出すみっつの影がありました。赤いカンフー服を羽織って、色違いの狐面で顔を隠していますが、私たちはそれが誰なのか知っています。そう、3Bの少年達です!
赤い狐面のブリッツが、白い狐面の蛮斎の体を踏み越え跳び上がると、お面と同じ色の房飾りがついた槍を構えて―トロルめがけて打ち下ろしました!
トロルは半歩下がって打撃を避け、攻撃は不発に終わってしまいます。群衆からどよめきの声。
「おいワニ野郎! ネタは割れてんだぞ!」
トロルがブリッツの啖呵に反応しました。腰にさげたカタナを抜き、ブリッツへ襲いかかります! ブリッツは慌てて槍で受けましたが、あっさり真っ二つです。装飾用のカタナでも、トロルが振るえば立派な凶器です。ブリッツはスライディングでトロルの股下をくぐり抜けて、追撃をかわします。
ブリッツを追って視線が下を向いたトロルへ、続いて飛び込んで行くのはバオ。トロルのカメラアイを狙って突きを打ち込みます! が、トロルの硬さの前ではオモチャと同じでした。彼らが持つのは演舞用のフェイク武器では、まるで歯が立ちません。
ところがバオ、彼を捕らえようとしたトロルの腕をかいくぐり、太い胴回りにしがみつきます。トロルは大きく体を振り回し、バオを振り落とそうと必死です。一方のバオ、トロルの陣羽織を掴んで堪えていましたが、やっぱり敵いません。
バオの体が大きく旋回し、陣羽織の縫い目が裂けてしまいました! 見物客の人達も、どうやらただ事でないと気がついた様子。運営の大人達も橋の周辺に集まってきます。
バオは低い軌道ではじき飛ばされ、腰高ほどの欄干に体を叩き付けます。うずくまって動けない様子。トロルは片側が裂けてしまった羽織りを脱ぎ捨てると、バオを両手で掴み上げようと身を屈めて……自らが脱ぎ捨てた羽織で、頭部を覆われました!
股下をくぐり抜けてから背中に回り込んでいたブリッツが、屈み込むトロルの背を駆け上がって羽織を被せ、視界を奪ったのです。おみごと!
肩車のような体勢で羽織りを引き絞り、トロルの頭をしっかり押さえ込んでいます。
「生きてッか!」
バオは片手をあげて応え、素早く起き上がりました。よかった!
「蛮!」
「あいよ!」
スタッフを足止めしていた蛮斎が、自分の足元に置いた飲料ケースを蹴とばしました。ケースから転げ落ちたのは水風船。転がった先には、バオです。次々と水風船を拾い上げ、トロルへ叩き付けました。
割れた水風船の中身が飛び散り、鎧や足元を濡らします。
「リーダー!」
水風船をあらかた割り尽くしたバオの呼びかけに、ロデオのようにトロルの上でバランスを取っていたブリッツが勝ち気な笑みを浮かべました。
「よくやったお前ら!」
トロルにかぶせていた羽織りを強く引くと、肩の上で立ち上がり……うわあ、バク宙しましたよ! そのままトロルの後頭部を両脚でキック!
本来のトロルは、この程度でバランスを崩すことはありません。けれど、トロルの足元に叩き付けた水風船には、屋台から勝手に借りた油が入っていました。
強い衝撃、滑る足元、となれば後は、バランスを崩して欄干から真っ逆さまです。着地したブリッツも、足を滑らせて尻餅をついています。バオが助け起こしていると聞こえてきたのは、大きな水音。ブリッツとバオはお互い拳をぶつけあって、頷きました。
スパイクのない義体だと突き止めた蛮斎、それを元に作戦を立てたブリッツ、囮を買って出たバオ。三人のチームプレイで、なんとトロル義体に勝ちをおさめてしまいました。けれど、彼らに勝利を味わう余裕はありません。
「散れ!」
身元がバレる前に、リーダーの号令一下、散り散りに逃げ出しました。
……数時間後。3B達は首を揃えて、ブリッツの施設長から大目玉を食っていました。
「屋台は壊す、物は盗む」
リヤカー騒動から芋づる式に、今日の全てが露見してしまったのでした。
「違うんだ、返すつもりだったんだ」
施設長さん、言い訳するバオの頭へ拳骨。呻くバオを無視して続けます。
「ヤン先生の教室から道着と槍を盗んだ件は、お許しが出たけどだ!」
施設長、三人を見渡します。
「大人に連絡を! しろ!」
ひげ面で凶相の施設長が怒ると、小さい子は号泣して許しを請うと言われていますが、彼らは雨が降る海のような態度。
「ウィス」
「すんませんでした」
「猛省していまあす」
「お前らだって無敵じゃないんだぞ」
「ウィス」
「すんませんでした」
「猛省していまあす」
施設長さん、確認するように尋ねます。
「下手したら大事故だったのは分かってるのか?」
流石に、この言葉には3Bも黙り込んでしまいました。
「よく無事だったよ。とりあえず今日は大人しくしてろ」
殊勝に頷いて施設長さんの部屋を出たとたん、三人は肩を回したりあくびをしたり。
「大人しくかあ」
「つっまんねェの」
「じゃあ、ウチ来る? 父ちゃんがメシ食べにおいでって言ってる」
蛮斎の家は、マネキ街で食堂をやっているんです。とにかく量が多い事が自慢のお店なんですって。
「行く行く!」
「やった。蛮ちゃんちの魚揚げたやつ好きなんだよね」
「なあ、花火今夜だっけ?」
「明後日だよリーダー」
「じゃあ屋台とか遊びに行くかよ」
「ブリッツ、また親父さんに叱られるぞ」
「ダイジョーブ、そん時はそん時よ」
どうやら彼らのお祭りは、まだ始まったばかりみたいですね。
【スタッフロール】ナレーション:ドロシー/音声技術:琴錫香/映像技術:リエフ・ユージナ/編集:山中カシオ/音楽:14楽団/テーマソング「cockcrowing」14楽団/広報:ドロシー/協力:オズの皆様/プロデューサー:友安ジロー/企画・制作 studioランバージャック
P-PingOZ 『龍の日の少年達』 終わり
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