44 地下の真実


 案の定、コヅチへの最後の扉は開ききっていた。青い光が坑道まで漏れており、先頭のルークの顔を青白く染める。

「さっきの銃声は届いてるはずだ。バレてるぞ?」

 ロックがつまらなそうに言う。そんな彼に、ルークはガッツポーズをして答える。

「なら、正々堂々正面突破だ」

 銃を片手に飛び込むルークに、三人はやれやれと呆れながらも後に続いた。

 最初はクロードだけがいるのかと思った。コヅチの前に跪いた彼の横に、大柄な男が立っている。男はクロードに拳銃を突き付けたまま、こちらを静かに睨みつけていた。

「ロック、それに君達も……どうして来たんだ!?」

 クロードが焦ったように叫んだ。ルーク達はすぐに状況を飲み込み、動けなくなる。

 いくらコヅチがあるといっても、確実に生き返る保証はない。ましてや親友の父親の頭に、一度風穴を開けようとは思わない。先程までの“知らない人間”とは違うのだ。

 すぐ真横に人の気配を感じ、ルークは視線だけで左右を見渡す。坑道から出たところで一塊になっている自分達の左右に、大型のタンクのようなものを背負った二人の男がいた。

 目の前と左右、三人とも黒い上下の服装で、黒いマスクまで着けているため、全員が同じに見える。全員、体格が良い。入り口からは丁度、死角になっていて気付かなかった。

 ルークがどう考えても友好的ではないタンクを見ていると、ロックが驚いたようにその名称を口にした。

「火炎放射器……ハンドメイド臭いが」

 最後はそう吐き捨てるように言った。確かに言われてみれば、スクラップ品を繋ぎ合わせたようにも見える。

「クリーナーの中身でもいじくったのか?」

 極端な話、ライターと可燃性の物質を組み合わせれば、それは立派な火炎放射器だ。よく見れば男達の持つその武器には、先端にバーナーのようなものがついている。事態が片付いた後には、家を焼き払うつもりだったのだろうか。

「こんな地下で、火なんか起こしてみろ! 全員酸欠で死んじまうぞ!! ルークがどんな気持ちでライター使ってないと思ってんだ!?」

「いや、俺はそこまでライターに思い入れないから!」

 叫んだレイルに冷静にツッコミを入れながら、ルークは前に視線を戻す。

「そういうことだけど、どうするんだ? 見た感じ、あんたがリーダーみたいだが?」

 ルークがそう問い掛けると、リーダーらしき男はすっと右手を上げた。それを合図に、ルーク達を挟む左右の男達は、タンクの先端を上に向けた。その行動がやけに儀式じみていて、ルークは不快感と共に恐怖を感じた。

「こっちとしては、君達に全てを知って貰った上で、この男への処刑を見届けて貰いたいんや」

 言葉こそ親しげだが、節々に威圧感が滲み出ている。ウェスト通り特有の訛りが、独特の凄みを出しているようだ。

 その男はマスクだけでなく、バンダナで髪まで隠している。レイルが銃を持つ手に力を込めたのが、隣のルークにもわかった。

「君達はコヅチの重大な欠陥を知らへんやろ。死んだら二度と、生き返らへんで?」

 男の言葉にレイルは舌打ちをしながら、それでも視線は自分の隣にいる男を油断無く見ている。

「血気盛んなお嬢さんやな。ジョイン、お前に似てるわ」

 いきなり話を振られて、ジョインは握り絞めた手に力を込めた。まるで、圧倒されていた自分に気合いを入れ直すように。彼女は深く深呼吸をした後、強く男を睨みつける。

「ええ、そうね。だから今は一緒にいるのよ。エイト」

 エイトと呼ばれた男は小さく笑うと、拳銃をクロードの頭に押し当てる。無機質の硬さに痛がる彼の反応をひとしきり楽しんだ後、冷たい視線でルーク達を見据える。

「知り合いか?」

 ルークは顔の向きは変えずに、隣のジョインに問う。

「ええ、エイトって名前の強行派のリーダーよ。ファミリーネームまでは知らないけど……彼の奥さん、例の“カルメンの恋人”に殺されてるわ。子供も、何人かいたらしいけど」

「“カルメンの恋人”に、嫁さんごとパーやわ」

「よく言うわね」

 唸るようにしてジョインは続ける。

「子供達が産まれた頃から、虐待が酷いって噂だったわよ? 聞くところによると、浮気されたらしいじゃない。貴方が殺したんじゃないの?」

「みんなそう言うけどな。残念ながら事実はそうやないねん」

 ジョインの挑発とも取れる台詞を受け流し、エイトは呼吸を整えるように言葉を区切る。その目には深い憎しみの色が宿っている。たっぷりの沈黙の後、彼はさも楽しそうにこう言った。

「俺の家族を……俺らの仲間の大切な人達を殺したんは、クロードや」

 誰一人、言葉を発しようとしない。ロックが目を見開き、しかしそれでも冷静に、状況を整理しようと震える横で、ルークはただ硬直し、レイルはロックの肩を強く持つことしか出来ていない。

 誰のものともわからない、荒い息遣いが響く。

「何言ったか、わからんかったか? わかるまで何回も言ったるで? お前の父親は人殺しや」

「貴様……それ以上でたらめなことを……っ!!」

 思わず反論するクロードだが、エイトに銃を容赦なく押し付けられ、黙るしかなくなる。

「ちょっと待って!! 坑道では女は働いていないはずよ!?」

 ジョインが訳がわからないと言いたげに、そう声を上げた。彼女は彼女で、自分の知らないことが出てきて混乱しているようだ。

「坑道で死んだんは、確かに男ばっかりや……クロードはな、自分の息子のために俺の家族を射殺したんや!!」

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