39 前日


 豪邸の玄関で、自分の父親が親友の父親に頭を下げている。その光景を複雑な気持ちで暫く眺め、レイルは心境と同じくなんとも複雑な表情のまま、ロックの部屋へと引き上げた。

 先程、父とその部下の目の前で、「親友の父が疑われた」と傷付いた少女を演じたので、今日は少し帰りが遅くなっても構わないだろう。そう笑って言ってのけると、改めて普通の心臓をしていないのだなとルークが呆れた。今はロックの部屋で、三人で集まっている。

 差し迫った話題は沢山ある。地下のこともそうだが、今日の警察の捜査も問題だった。今日は上手く誤魔化せたが、お互いの両親にバレるのは時間の問題だろう。





「明日、ケリをつけようと思う」

「ああ、そうするしかないな。私らが学校帰って、潜って……終わりにしよう」

「おいおい、レイル。こんな時まで学校なんて、真面目だな?」

「そうだぜレイル。僕にこんなことを言う権利はないけど、一刻を争う」

 男性陣の真剣な視線に、レイルが一瞬ルークの顔を見てから口を開く。

「……ジョインのことは良いのか?」

 一瞬記憶を巻き戻し、ルークははっとして目を見開いた。あまりの慌ただしさに、彼女のことを忘れていた。

 明日話そうと思っていたことを思い出し、ついうっかりキスのことまで思い出してしまってアタフタしてしまう。いきなり落ち着かなくなったルークに、ロックがいやらしい笑みを浮かべながら言う。

「なんだ? その子のこと好きなのか?」

 言葉というのは不思議なもので、それを言葉にすることによって急に大きな力を得る。

「そ、そんなことは……」

 ない――と続けようとして続かなかった。恋愛感情は抜きにしても、明らかに動揺しているのが自分でもわかる。

 こういう、はっきりしない自分の性格が嫌いだった。あまりの情けなさに死にたくなる時がたまにある。

「否定しないのか。怪しいな」

「二人っきりの屋上で、やらしいことしたんだよな?」

 ルークの背中に抱き着きながら、レイルがこれまたいやらしい声で言う。それに過剰に反応しながら、ルークはそれでも身体全体で否定する。

「とにかく、明日お前は愛する女のために学校に行かなきゃいけないんだな?」

 あくまで冷静に、しかし焦りを隠さずロックが呟いた。彼としては一刻も早く、この綱渡りを終わらせたいのだろう。それは三人に共通することだった。

 だが――

「明日、学校終わってから。明日は……晴れだったな」

 今週最後の下校後を夢見るように、レイルが誰ともなく言葉を続ける。

「どうせ三人で潜るんだ。夜まで帰らなくても問題ないだろ」

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