第18話 ミコト
最強の男ムラサメは生きていた。しかし遺伝学研究所になんでムラサメがいたのかはよくわからない。たしかに最強というだけはあって、上位蟲機に匹敵する
「ムラサメさん。今まで何してたんですか」
「困っている人がいたので助けていた」
「もう少し具体的に言ってください」
「……一言では説明できない。着いてきてもらった方がいいかもしれない」
着いてこいと言われて、俺たちは巨大樹の方に歩みを進める。やはりどこを見ても樹だ。一面幹しか見えやしない。果てしなく続く幹を周りながら、俺たちはただ歩き続ける。どれだけ歩いたかわからないほど歩くと、やがてムラサメが立ち止まった。
「ここから入る」
「ここからって、樹の幹しかないじゃないですかぁムラサメさん」
「このツタをこうしてこうして……」
ツタをムラサメがかき分けていくと、パネルのようなものが見えた。そこにムラサメがパスワードを入れてゆく。
「長いのだこれが。よくやく、みなやく、いいよ、こいよ、しこしく、ひなはな、いよいよ、みなさん、おしごと、ごくろーさん……っと」
「それ数字の語呂合わせですね」
「そうだ。こんな長い数字の列覚えられないからな」
そんな誇らしげに言うことではない。しかし幹の一部が動き出した。よく見るとこれも貝殻のような素材でできている。中身は筋肉か。ここがセントラルと同様の仕組みでできていることが実感できる。幹の間を経由して、樹の間を通ると、そこに開けた場所が現れた。
さらにどんどんとムラサメは歩みを進めてゆく。まるで廃墟のような四角い構造物が多数ある。こんなのセントラルにはなかったぞ。昔の人間はこんなところにいたのか。ここが研究所ってやつなんだろうか。
「もうすぐ着く」
「それはそうとムラサメ、結局俺たちはどこに向かってるんだ?」
「会えばわかる」
「会うって誰に」
「どういえばいいか……とにかく会ってほしい」
会うっていっても誰に会うのかわからないってのはさすがに怖いぞ。もうちょっと情報をくれ情報を。さすがに俺も一言いいたくなる。
「ムラサメさん」
「君は誰だ?」
「俺はタケルだ。蟲滅機関と一緒に蟲化病の妹を治療するために旅をする予定だ。よろしくな」
「あ、あぁ……蟲化病の治療といったか!?」
急にムラサメが俺の両肩を掴む。急にどうした?
「今は一時的に抑えることはできるが完治は無理だ。まさか蟲化病の患者がいるのか!?」
「いる!一時的に抑えられるだけでもいい!この遺伝学研究所に治療法が存在する可能性があるとミコトが……あ、ミコトというのは会わせたいという人でだ」
「蟲化病が進行しているのか!ムラサメさん、まさか間に合わなくなって……」
「いやマコト、そこが説明しにくいんだがその、とにかく会ってくれ」
キリュウもきょとんとした顔をしているが、それは仕方あるまい。治療もできないのに、蟲化病患者がいるとなると普通に考えたらまずいはずだ。だがムラサメはそうでもないというように言っている。一体何が起こっているんだろう。そこまで言うなら行ってみるか。
俺たちは会議室風の部屋に通された。埃とかが酷いが、ムラサメが軽く掃除をしてくれている。俺たちは客じゃない。腰かけて待っていると一人の女性が現れた。若干体がやつれているように見えるが、かなりの美人だ。
「ミコト……大丈夫か身体の方は」
「大丈夫です。こちらの方々は?」
「私の昔の仲間たちだ」
俺たちは口々に名乗る。ミコトという女性は、表情を硬くしたままこちらを見つめている。美人に見つめられるのはいいけど笑ってほしい。俺は気になったことを聞いてみた。
「一つ聞いていいですかミコトさん。ミコトさんは蟲化病なんですか?」
「……そうね。かなり進行しているわ。ここのベクターとか、かろうじて見つけた蟲化病抑制に関する遺伝子を導入したりしてなんとかなっているけど」
「抑制できているんですか!?蟲化病が!」
マキナが叫ぶ。この人も凄いな。
「俺の妹も蟲化病なんですが、ムシコロン……おっと大戦時の兵器が蟲化病抑制の薬物を合成できて、それで少し余裕ができています」
「大戦時の兵器!?まさかあのセントラルの近くの空洞にあった……?」
「そうですが」
「動かせたの!?信じられないわね……」
「今は半壊してますけどね、無理して縮退炉?ってやつ動かして必殺技使ったせいで」
「縮退炉!!??」
ミコトは目を白黒させている。そんな驚くようなものなの?
「そんなの使える兵器って……地球どうにかする気?」
「そこまでいうか?」
「半壊している……動いてはいるの?」
「動いてはいますね」
「タケルくん、そいつここに連れてきてもらっていい?……説教もしないといけないかも」
説教?どういうことだ?急に怖い顔になったけれども。
「その兵器の抑制剤というのも気になるけど、地球上で縮退炉使わないといけない必殺技、何相手に使うつもりだったか問い詰めないと……」
「なんかヨハンソンとかいう奴が超級蟲機連れてきたからな」
「セントラルに超級蟲機ですって!?ムラサメくん。私たちが出た後のセントラル無茶苦茶よ無茶苦茶」
ムラサメは無言でうなづいた。いいたいことはわからなくもないけどさ。
「連れてくるにしてもアメノトリフネは着陸させられないな」
「あの外宇宙航行船もあるの!?どうなってるの……」
「でもぉ、私たち電撃で阻まれて入れなかったんですぅ」
「そうね、まだ蟲機に蹂躙されるわけにはいかないから。電磁フィールドは一時解除します。そのムシコロンとかいうのを連れてきて」
「私が行ってこよう」
「ムラサメさんだけだと話伝わらないよ!ぼくも行く!」
こうしてムラサメとアリサがアメノトリフネに向かうことになった。電磁フィールドを一時解除ってそんなのできるのか?しばらくとりとめもない話をする。ミコトもセントラルの住人だったのか。
「蟲化病だったってことは、ミコトさんもひょっとして保安部に襲われそうになったのか」
「ええ。そこをムラサメくんに助けてもらったの。ムラサメくん、保安部の人間をぶん殴ってしまったので『やらかしてしまった、もうここには居場所がない』とか言い出して、それでわたしが可能性をかけて外に出ない?って言ったら私とともにセントラルから出てくれたの」
そうか。ある意味駆け落ちじゃねぇか。ユウナの言ってたのあってる。
「ムラサメさん、天然で大変でしょ」
「そうね。でも彼には感謝している。彼がいなかったら私は今頃蟲機にでもなってたわ」
「そろそろ来たぞ」
キンジョウが窓の外を指さすと、そこにはアメノトリフネが浮かんでいる。ミコトが俺たちにこう言った
「これから電磁フィールドを解除します。ちょっと失礼」
「え?え?ちょっと?」
「見るな男子!」
何故かミコトが服を半脱ぎにし、肩と胸元の谷間を露出させる。……何か蟲機のような組織が体の一部にある。俺たちは後ろを向く。
「ミコトさんなんでそんなかっこを」
「廃熱がすごいの!服燃えちゃうから!」
それは脱ぐしかない仕方ない。ん?廃熱?
「廃熱ってどういうことだ!?」
「核融合炉の廃熱。私の体の中にあるから……」
生体核融合炉が人体内に!?どういう仕組でそうなったんだ?電磁フィールドが解除され、ムシコロンが降ろされてゆく。ムシコロンが虫の
「……ククルカン様?彼もセントラルを出たのね……」
「知り合いなのか?」
「そうね。さて。そろそろフィールドを閉めるわ。ククルカン様、離れて」
ミコトがそういうと、アメノトリフネが浮上し始め、電磁フィールドが閉じてゆく。ミコトも服を着なおした。結構谷間が深くてドキドキしたが。
「ごめんなさい、見苦しいものをお見せして」
「いえ、結構なものをお持ちで」
俺がそういうとマキナにはたかれた。全部は見てない。
「さて、ムシコロンのところにいくとするか」
「そうね」
そういうと俺たちはムシコロンが転がっている場所に移動した。ムシコロンは動かない。
「ムシコロン、ミコトって人知っているか」
『ミコトだと!?セントラルの技術者のミコト・フソウ!?』
「はい。そのミコト・フソウです。バァ……今はムシコロンでしたか?」
『嫌な言い方するな』
「地上で縮退炉起動させるあなたには言われたくありません!」
『核融合でも縮退炉でも電気なかったら止まるしいいだろ』
ミコトはため息をついた。
「それで、どんな必殺技を撃ったんです?」
『重力発勁』
「そんな状態で地球上で撃つな!そんな技!」
とうとうミコトが切れた。やっぱりあれ危ない技だったんだ。なんとなくそんな気がしてたんだが、やむを得ないだろ緊急回避だし。
「地球上で撃つのもそうだけど、そんな
『
「はぁ……それでタケルくん?この子、まともに使えないのわかるわよね?」
「まぁ見ればわかる」
「おそらく、今後のことを考えるとこの子直したほうがいいのは確かだけど、簡単にはいかないわ」
「それもそうだろうな」
ムシコロンは耳?と思しきところを抑えているがそんなことで聞こえなくならないだろ。集音マイク切れよ。
「私に考えがあるわ」
「どうするんだ?」
「アブドラ国王大学で開発を進めていたものがあるの。あれを使えれば……」
『『いと高きところの王』か!?あれは本当にあったのか!?』
「あるわムシコロン。両手両足と胴体だけで、肝心の縮退炉はないけど」
縮退炉がない?でも待てよ?どこかにないか縮退炉?
「というわけで、さっさと直しなさい縮退炉」
『はい』
「あと、蟲化病の緩和薬あるって本当?」
『あるぞ。タケル、構わんな』
「ミコトさんにも渡してくれ。頼む」
「何か問題あるの?」
『蟲化病の患者が船内に数人いる。さらに増えるとなると……合成するには時間がかかるからな……』
ミコトは微笑んでこういった。
「私の技術で抑制が効くかもしれないわ。その子たちも」
『本当か!タケル!よかったな!』
少しでも抑制できる方法がある、それは良かった。本当に。それにしても……アブドラ国王大学ってどこだよ?
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