第65話 その前に

 世界に救いなんてないと思っていた。

 誰も彼もが敵だと思っていた。

 優しさなんて言葉は幻想だと思っていた。


 唯一の味方はドラゴンさんだけだった。


 だけど、そのドラゴンさんも、人間たちに殺されてしまった。


 目の前が真っ暗になった。


 燃え盛るような火に、心が焼き尽くされたようだった。

 全てが憎かった。


 自らを正当化し、私を排除しようとする人間が、悪魔に見えた。


 悪魔は滅ぶべきだと思った。


 人間は滅ぶべきだと思った。


 そう思った時、私はふと、思い出した。


 自分がそれをやるための力を授かっているということに。


 やるしかないと思った。


 ドラゴンさんの仇だと、思わなかった訳ではない。私利私欲のために、復讐のために、そのために滅ぼそうとしていたと言われても否定はできない。


 だけど、それと同じくらい、人間に生きている価値はないと本気で思っていた。


 私に限らずとも、人間は人間同士で争う。


 そしてそれは、人間たちだけの被害にとどまらない。


 周りの生物を、まるで下等な生物だと見下しているかのように、踏みにじり、そのことに心を痛めることすらしない。

 いや、それに気付いてすらいないのかもしれない。


 そんなのもう、悪魔と変わらない。

 魔族と何が違うんだろう。


 私から見れば、人間は、魔族と変わらない。


 人間は、魔族を討伐する。

 自分たちの身を危険に晒すからと、問答無用で討伐する。


 なら、その逆もあって然るべきだ。


 つまり、人間が、何かの脅威であるのならば、人間を脅威だと感じている何かによって、討伐されるというのは、世界の構造として、何一つ、不思議なことはない。


 人間は、私にとって、脅威。

 ドラゴンさんたちにとって、脅威。

 世界にとって、脅威。


 ならば、私たちは戦う。


 自分の身を守るために戦う。

 ドラゴンさんを守るために戦う。


 世界を守るために戦う。


 人間で言う大義名分は、これ以上ないほどに備わっている。


 人間は、自分がさも神であると思っているようだ。

 だからこそ、自分たちに歯向かう存在を悪だと断じる。


 そんなのは、ただの身勝手だ。


 今こそ、思い知らせる時だ。


 人間とは、別に特別な存在なんかではないということに。


 人間は、自分たちの存在価値を過信しているのだ。

 それは恐らく、死んでも変わらない。


 だから、終わらせる。

 一度、ゼロにする。


 それだけが、再生するための方法。


 そうしたら、優しい世界が訪れるだろうから。


 私はやる。

 私にしかできないから。


 私が、やる。


 例え、人間が、その存在全てが私のことを悪だと言っても、私にとってこれは正義。


 世界を守るための戦い。

 譲れない思い。


 だからあなたは黙って見ていて。

 必ず、あなたも理解できる日が来るはずだから。


 だから、待ってて。

 その日まで。

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