第14話

「虹色に光る石?」


 私はアジムさんに聞いてみた。


 ちなみに今は、ミスラさんが作ってくれたごはんを食べている。


 これ、全部、ミスラさんが作ったみたいだけど、1人でこれだけの量を作れるのはすごいなと思った。


 リリルハさんの家で、メイドさんもできるんじゃないかな。

 ぱくぱく。


「うーん。そんなの見たこと無いな」


 そんなことを考えていると、アジムさんが答えてくれた。


「あんた、もっと考えなさいよ。ほら、思い出した思い出した」

「いてぇいてぇ! 頭を叩くな。本当に見たこと無いんだよ」


 アジムさんはミスラさんの手を払いながら、私の方を見る。


「少なくとも、この村の近くにはないんじゃないか? そんな珍しいの、誰にも見つからないことなんて無いだろ」


 確かにアジムさんの言う通り。


 虹色に光る石なんて、誰もが目を止める。


 現に、最初の石を見つけてくれたカイトくんは、セリアちゃんや私にすぐに教えてくれた。


 他の人でも多分、同じような感じで話が広がっていくはず。


 だけど、そんな噂は全くない。


 なら、やっぱりこの村の近くには、ないのかも。

 残念。


「まあ、見つけても誰にも言わずに、売り飛ばそうとする奴はいるだろうけどな」


 そうアジムさんが言うと、ミスラさんがハッとした顔をして、アジムさんを睨んだ。


「あんな、まさか、そんなことを」

「え? あ! い、いや、誤解だ! そんなことしてない! 本当だ!」


 アジムさんが両手を上げて、焦ったように言う。

 どうしたんだろう。


 ミスラさんも恐い顔をしていて、アジムさんに迫っていく。


 もしかして、喧嘩かな。


「けんかはだめだよ?」

「うっ」

「そ、そうだ。無実の俺に喧嘩をふっかけてくるな」

「あんたねぇ」


 ミスラさんは、はぁ、と大きな溜息を漏らして、椅子に座った。


「わかったわよ。ごめんね、アリスちゃん」


 ミスラさんは、まだアジムさんを睨んでいたけど、もう喧嘩はやめてくれたみたい。


 よかった。



「そうだ。その虹色の石ってすごく重いの。だから、持ち上げるのも大変だと思う」


 私は思い出した石の特徴を話す。


 私は感じなかったけど、カイトくんたちは、あの石をどうやっても持ち上げられなかったって言ってた。


 カイトくんたちは子供だから、大人の人に比べれば、力はないのかもしれないけど、多分、それは関係ないと思う。


「小さいのに、持ち上げられないくらい重い石、かぁ」

「あ」


 ミスラさんが呟くと、アジムさんが、あからさまに何かに気付いたという声を出した。


「虹色じゃないが、そんな不思議な石なら知ってるぞ」

「え? 本当?」

「ああ、確か、青い石だったが、足を引っ掻けたのに、微動だにしなくて驚いたのがある」


 それは、怪しいかもしれない。

 虹色じゃないのが、少しだけ気になるけど。


「その場所、教えてくれる?」


 ◇◇◇◇◇◇


 ご飯を食べたあと、今日はもう遅いからという理由で、石の場所を教えてもらうのは明日になった。


 本当はすぐにでも行きたかったんだけど。


 でも、外を見たらもう暗くなってたし、ミスラさんたちに心配をかけるのは駄目だなと思って諦めることにした。



 仕方なく私は、ボフッとベッドに倒れる。


 ミスラさんが用意してくれたベッドはすごくふかふかで、体を沈めると、全身を包んでくれた。


 昨日まで、ドラゴンさんの体に包まれながら暖かかったけど、このベッドの布団もふかふかで気持ちいい。


 これなら、すぐに寝ちゃいそう。



 うとうとと、瞼が重くなって来た時、部屋の扉をコンコンと叩く音が聞こえた。


 外は真っ暗。

 こんな時間に誰だろう。


 私は扉を開けた。


「アジムさん?」


 すると、そこにいたのは外に出掛けるような服を着たアジムさんだった。

 腰には剣も持っている。


「どうしたの?」


 アジムさんは、夜だからか、声を小さくしていた。


「青い石を探しに行くぞ」

「え? でも、危ないって」

「俺がいるから問題ないだろ」


 アジムさんは、さっさとしろって言って、歩いていってしまった。


「待って」


 私はちょっとだけ用意をして、アジムさんを追いかけた。


 アジムさんは宿の外で待っていてくれて、少しブスッとした顔をしている。


「アジムさん?」

「本当は、ドラゴンの手先なんかに力を貸したくはないんだが」


 アジムさん。もしかして、まだ私のことを敵だと思ってるのかな。

 それなら、少し悲しいな。


「そ、そんな顔をするな。とにかく、行くぞ」


 アジムさんは焦ったように言う。

 その後ろを私はついていく。


 そして、さらにその後ろをドラゴンさんがついてくる。

 夜だから、足音が鳴らないように、静かについてきてくれる。


「でも、どうして教えてくれるの? ミスラさんは明日じゃないと駄目って言ってたのに」

「あれだけ悲しそうな顔して、無視もできなかったんだよ」


 私、そんなに悲しそうな顔をしてたのかな。


 あんまり見せちゃ駄目かなと思って、隠してたつもりなんだけど。


 でも、アジムさんにはわかっちゃったみたい。


 それで私を連れてきてくれたんだ。


 やっぱり、アジムさんは優しい人だ。


「本当に、調子の狂う顔をする奴だな」

「そうなの?」


 変な顔、してたかな。


「ああ、もういい。行くぞ」


 アジムさんが少しスピードを上げて走りだす。

 私もそれを追いかけて走り出した。



 夜の森は魔族の動きが活発になる。

 前にリリルハさんが教えてくれたっけ。


 もちろん、村の近くに魔族はいないけど、それでも、危険なことには変わらない。


 だから、なるべく夜は外にでないこと。

 そう教わったけど。


 でも、アジムさんが大丈夫っていうなら、大丈夫なのかな。


「確かこの辺りだったはずだが」


 アジムさんが足を止める。


 辺りを見回すアジムさんだけど、暗くてあまり見えてないみたい。


 灯りは持ってきてるけど、そんなに大きいものじゃないから、近くしか照らせないし、仕方ないのかも。


 でも、私にはその灯りだけで十分だった。

 ううん。月の光だけでも大丈夫だと思うけど。


「アジムさん。あったよ」

「え? もう見つけたのか?」


 アジムさんはすごく驚いてた。

 そんなに見えづらかったかな。


 私の元に駆け寄ってきたアジムさんは、足元にある青く光る石を見た。


「ああ、そうだ、これだ。よくわかったな」

「そう?」


 そんなに見えないんだ。


 でも、よかった。見つけた。

 これでもしかしたら、私の記憶も前みたいに少し元に戻るかも。


 私はその青い石を拾おうとかがんだ。

 けど。



「こりゃあ、珍しい客もいたもんだなぁ」


 急に声が聞こえてきて、すごくびっくりした。


 声のした方を見ると、そこにはこの前、アジムさんが追い払ってくれた大きな剣を持っている人がいた。


 痩せている方の人だ。


「えっと、こんばんわ」


 どうしていいかわからないけど、とりあえず、挨拶は大切だよね。


「ああ、こんばんわ」


 痩せている人は、私が挨拶をすると、きちんと返してくれた。


 この人もいい人なのかも。


「貴様。また懲りもせずに来たのか」


 でも、アジムさんは、痩せている人に向かって剣を向けた。

 すごく恐い顔で。


「おいおい。よせよぉ。今日は別に喧嘩しに来た訳じゃぁねぇんだよ」


 すると、痩せている人は、両手を上に上げて笑った。


 敵意はないと言う痩せている人は、本当に戦う気なんてないようで、剣までしまってしまった。


 そんな様子に、アジムさんは、剣を向けたまま困惑してるみたい。


「アジムさん。大丈夫だよ? あの人、本当に戦う気はないと思う」


 雰囲気を見ればわかる。

 だって、全然恐くないもん。


「ちっ。なら、なんでこんな所にいやがるんだ?」


 アジムさんは剣を下ろしてくれた。

 まだ、手に持ったままだけど。


「そりゃあ、お前らと同じだなぁ。その石に用があったんだよ」

「この石に?」


 どうしよう。

 この石、この人のものなのかな。


 そういえば、まだこれが私の記憶の欠片なのかはわかってないけど。


「この石にどんな用があるってんだよ?」

「それは、こっちの台詞でもあるなぁ」


 痩せている人は、近くの木に寄りかかって、私たちを眺めていた。


 その目は私たちを品定めするみたいな目。


 そうだよね。ちゃんと説明しないとわからないもんね。


「私、記憶喪失なの」

「あ、おい」

「あ?」


 痩せている人は、ポカンとする。



 アジムさんは焦ったような顔をしていたけど、私は痩せている人に、記憶の欠片を探していること、その記憶の欠片が色のついた石であることを伝えた。


 それを聞いた痩せている人は、少し何かを考えるように上を見て、おもむろに口を開いた。


「俺は雇われ傭兵でなぁ。雇い主がそういう石を欲しがってるのさぁ」

「こういう、石?」

「魔力が詰め込まれている石だ。それも、規格外にな」


 魔力が詰め込まれている石。

 これが?


「嬢ちゃんが、どこまで知ってるかは知らないが、その石には膨大な魔力が詰め込まれてる。だから、それを欲しがる奴は五万といるのさぁ」

「そ、そんなものだったのか」


 知らなかった。

 この石、そんなにすごいものなんだ。


「この前の男の人が欲しがってるの?」

「ん? ああ、いや、あいつとは別の雇い主さぁ。あいつは、珍しい生き物を集めたいってだけの奴だからなぁ」


 この前は、大きな男の人と、もう1人、軽装の人がいた。

 その人かなと思ったけど、そうじゃなかったみたい。


 でも、どうしよう。


「この石、私もほしいの」


 でも、この人もこの石をほしい。

 どうしよう。


「あぁ、それなんだが、その石、嬢ちゃんにやるよ」

「え? いいの?」

「ああ、その代わり、頼みたいことがあるのさぁ」


 痩せている人は、少し気味の悪い笑みを浮かべた。

 少し恐いけど、せっかく石を譲ってくれたんだから、お願いを聞くのは当たり前だよね。


「うん、いいよ」

「ちょっ、おい、待てって」


 アジムさんが焦ったように言う。

 どうしたんだろう。


「そうと決まれば、ちょっとついてきてくれるかい」

「待て! お前、こいつを何処に連れていく気だ?」


 アジムさんが剣を構えて、私と痩せている人の間に立つ。


「ん? 別に。俺の雇い主の所さぁ。俺も仕事でね。事情を話してほしいのさぁ」


 ああ、なるほど。

 確かにそうだよね。


 お仕事の邪魔をしちゃったんだから、私がちゃんと事情を説明しないと、この人が怒られちゃうもんね。


 それは駄目。


「信じられないな。まさか、誘拐する気じゃないだろうな?」

「記憶喪失の幼女をかぁ? 何の意味があるんだぁ?」

「それは、わからんが」


 アジムさんは、私を心配してくれてるんだね。

 知らない人について行くのは危ないって、リリルハさんも言ってたし。


「大丈夫だよ。ドラゴンさんもいるし、私がちゃんと説明しないと」

「そう簡単に信じるなよ。こいつは、お前を襲った奴だぞ」

「でも」


 それも、この人はお仕事でやっただけで。


 と言おうとしても、もう遅かった。


「誘拐なんてるような不届き者には、俺が天誅を下す。覚悟しろ!」


 そう叫んで、アジムさんが痩せている人に飛びかかった。


「あ、アジムさん!」

「おらあぁぁぁ!」


 アジムさんがすごい勢いで痩せている人に斬りかかる。


 でも、痩せている人は、余裕そうに、その剣を避けた。

 そして、アジムさんのお腹に向かって、膝を打ち込んだ。


「おぼっ!」

「アジムさん!」


 すごい音がして、アジムさんから呻き声が漏れる。


 そして、そのままアジムさんは地面に倒れ込んで動かなくなってしまった。


 私はすぐにアジムさんに駆け寄った。


 見ると、アジムさんは苦しそうな顔で気絶してるみたいだった。


 私は痛みがなくなるようにお腹の辺りに触れる。

 いつもみたいにそこが淡く光って、アジムさんの表情は少しだけ落ち着いた。


 でも、今回は起きることはなかった。


「へぇ。すごい魔法だ」


 痩せている人が笑う。


「ひどいことしないで」


 アジムさんを怪我させて、笑ってるのは駄目なの。


 私は怒って言う。

 ちゃんとそういう雰囲気を出せていたか微妙だけど。


 でも、私、怒ってるんだから。


「ああ、悪かったな。だが、突っ込んできたのはそいつだろ? 俺は身を守っただけさぁ」

「それは、そうかもしれないけど」


 確かに、最初に斬りかかったのはアジムさんだ。

 怪我をしないためにやったのなら、そんなに責められないのかも。


「とにかく、付いてきてくれ。そいつは、俺の相棒がちゃんと送り届けるからさぁ」

「相棒?」


 尋ねると、少し遠くから、この前、この人と一緒にいた大きな人が来た。


「まったく。お前はいつも」

「今回は俺、悪くねぇよ。むしろ、大手柄だろ」


 2人は少し会話をすると、大きな人がアジムさんを軽々と持ち上げた。


「安心しろ。こいつは、俺が責任をもって送り届ける」


 大きな人は、ぶっきらぼうな言い方でアジムさんを抱えて村の方に歩いて行ってしまった。


 心配だけど、あの人の顔は嘘をつくような顔じゃなかった。

 多分、大丈夫だと思う。


「さぁ。行くかぁ」

「うん」


 私は痩せている人に案内されて、何処かわからない場所に向かった。

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