第11話

 ドラゴンさんと旅をしている。


 目的地は何処でもなくて、私は私の大切なものを探している。


 だから、私は自分の足で歩いていた。

 何処に私の記憶の欠片が落ちてるかわからないから。


 でも、私の足は短くて、ドラゴンさんよりも、ずっと歩くのが遅いから、1番近くの町に行くだけでも、数日かかりそうだった。


 リリルハさんたちがくれた食べ物とかがあるから、そんなに心配はしてないけど。



 でも、今日は少しだけ困ったことが起きてしまった。


「なあ、嬢ちゃん。そのドラゴン。ちょーっとだけ、触らせてくれねぇか?」


 私の目の前には、3人の男の人。

 1人は軽装で、残りの2人は、すごく重そうな剣を持っている。


 軽装の男の人は、少し気持ち悪い笑顔を浮かべていて、私にナイフを向けていた。


 ドラゴンさんは、私のことを守るようにしっぽで包んでくれてるけど、男の人たちは、そんなの気にしてないみたい。


「へへ。変なことすんなよ? うちの2人は大型の魔族も倒したことあるんだからな」

「へー、すごい」


 大型の魔族って、どのくらいの大きさなのかな。


 でも、この前の魔獣は、大型の魔族って言われてないから、もしかしたら、ドラゴンさんより大きいのかな。


 そんな魔族をやっつけちゃうなんて、この人たちはすごい人なのかもしれない。


「お、おお。すげぇんだよ。だから、言うと聞けよ」


 私が素直に感想を言うと、男の人はなんか、驚いているみたいだった。

 どうしてかな。


 魔族を倒して回ってる人なら、いい人なのかもしれない。


 でも、ドラゴンさんは嫌がってるみたい。


 この前のカイトくんたちとは違う。

 本当に嫌がってるような感じ。


 うーん。こんなに嫌がってるなら、断った方がいいよね。ちゃんと説明すれば納得してくれるはずだから。


「ごめんなさい。ドラゴンさん。触られたくないみたい」

「ああ? うるせぇんだよ!」


 急に男の人が叫び出した。

 いきなりだから、すごくびっくりした。


 そしたら、男の人がナイフを振り上げて、私目掛けて、振り落とそうとする。


 ドラゴンさんが咄嗟に庇ってくれたけど。



 でも、その前に、そのナイフはドラゴンさんじゃない、誰かによって弾かれた。


 誰だろうと思ってその人を見ると、若い男の人が私の目の前に立っていた。


「待て待て待てぇい! 寄ってたかって、こんな幼子を恐喝とは、お前ら、それでも男か!」


 ナイフを弾いてくれたのは、この人みたい。


 でも、誰だろう。


「ああ? なんだ、てめぇ!」


 男の人も、いきなり現れたこの人に驚いてるみたい。

 誰だと言われて、その人はすごく嬉しそうに、ニヤッと笑った。


「ふ。聞いて驚け。俺は、泣く子も黙る、ドラゴンキラー、アジム様だ!」


 アジムさんは、よくわからないポーズを決める。

 そして、小さな声で、決まったって言ってるように聞こえた。


「ふざけた野郎だ、おい、構わん、殺せ」

「ふ。俺に勝てる訳がないだろうが!」


 アジムさんは、そう叫ぶと、すごく高くジャンプした。


「なっ!」


 と思ったけど、上にアジムさんはいない。


「馬鹿め。下だ!」


 声がして、下を見ると、アジムさんはものすごく体勢を低くして、男の人たちの足元にいた。


「なっ! いつの間に」

「くらえっ! ウルトラスーパーハイパー、超絶スラッシュ!」


 アジムさんが剣を横に振り抜く。


 けど。


「……あれ?」


 それは大きな剣を持った男の人に止められてしまっていた。


 その男の人は、すごい大きな体をしていて、すごく力持ちに見えた。


「その程度か? ふんぬっ!」

「どわぁっ!」


 そのまま押し込まれて、アジムさんは私たちの方まで飛ばされてくる。


 でも、アジムさんは、空中でクルリと回り、綺麗に着地した。


「俺の攻撃に気付くとは、中々やるな」


 アジムさん。攻撃する前にはっきりと自分で場所を言っちゃってたけど。


 だから、見つかったんじゃないのかな。

 私が素人だからそう思うのかもしれないけど。


 でも、相手の男の人たちも、なんとも言えない表情をしている気がする。


「ちっ。ここは、戦略的撤退だ。逃げるぞ!」

「え?」


 ボンッとアジムさんが地面に何かを叩きつけた。


 そしたら、中から白い煙が舞い上がって、視界が真っ白になる。

 これ、煙幕だ。


 これで逃げられるかも。


「ぬうぅぅん!」


 でも、逃げようとした私たちの後ろから、ブオォォンと、すごい風が吹き付けてきた。


 その瞬間、白い煙は全部飛ばされて、私たちの姿は丸見えになる。


「は? 嘘だろ?」


 どうやら、さっきの男の人が大きな剣を振り回して、すごい風を生み出したみたいだった。


「逃がすと思ったのかぁ」


 そして、いつの間にか、私たちの行く手に、もう1人の大きな剣を持った男の人が立ちふさがった。


 こっちの男の人は、あっちの人に比べてすごく体が細いのに、あっちの男の人と同じくらい大きな剣を持っていた。


「中途半端な実力で、俺たちを出し抜けると思ったかぁ? 甘いんだよ、ガキが」

「このっ!」


 アジムさんが苦し紛れに剣を振るう。

 でも、その剣は簡単に弾かれて、アジムさんの手から離れてしまった。


「まずはお前だ。そして、嬢ちゃん、お前も逃げられなくしてやるぜぇ。……おっとぉ」


 男の人が高笑いしている所に、ドラゴンさんのしっぽが叩きつけられる。


 男の人はギリギリで気付いて、後ろに飛んで避けたけど、その一撃で、男の人の顔から笑みが消えた。


「へぇ。おもしれぇな」

「おい」

「わかってるって」


 2人の男の人が目線だけで会話をする。

 どういう会話なのかはわからないけど。


「おい。引くぞ」

「は? な、何言ってんだ! もう少しで捕まえられんだろうが!」


 アジムさんの攻撃に驚いて、動けなくなっていた残りの男の人は、大きな剣を持った男の人たちの言葉に怒ったみたい。


 でも、大きな剣を持った男の人は、冷めた目で、その男の人を見下ろす。


「そう思うんなら、自分でやりなぁ。俺たちは行くぜぇ」

「くっ。わかった」


 それから男の人たちは、そそくさと何処かに行ってしまった。



 残ったのは、何が起きたのかわからない私と、ドラゴンさんと、アジムさんだけ。


 どうやら、助かったみたい。


「ふ、ふぅ。お、俺の迫力に恐れをなしたようだな」


 あ、そうだったんだ。

 てっきりドラゴンさんを見て、引いてくれたのかと思ってたけど。


「ありがとうございました」


 助けてくれた人には、ちゃんとお礼を言わないといけないよね。


 きちんと頭を下げて、私をお礼を言った。


 そうしたら、アジムさんは、すごく嬉しそうな声を出した。


「ん、んん! ま、まあ、当然だな。俺は正義のヒーロー、ドラゴンキラー、アジムだからな」


 そういえば、さっきも言ってたけど。


「ドラゴンキラー?」


 それも名前なのかな。


「ん? 聞いたことないか? ドラゴンキラー、アジムという名を」

「うん」


 有名な人なのかな。

 でも、リリルハさんの町では、そんな名前、聞いたことなかったな。


 アジムさんは、やれやれと肩をすくめて、ニヤニヤと笑っている。


「ならば、教えよう。俺は、ドラゴンを狩る者として選ばれた、ドラゴンキラーと呼ばれる勇者なのだ」

「へー」


 勇者さんだったんだ。

 だから、さっきも私を助けようとしてくれたんだね。


 でも、ドラゴンを狩る者って言ってたけど。


「ドラゴンさんを倒しちゃうの?」

「ああ、ドラゴンは人間の敵だからな」

「このドラゴンさんは敵じゃないよ?」

「ん? うおあぁっ!」


 私が言うと、アジムさんは不思議そうな顔をして、私の後ろにいるドラゴンさんの方を見た。


 その瞬間、アジムさんはすごい勢いで後ろに転がっていって、後ろにあった大きな岩に頭を打ち付けてしまった。


 痛そう。


 でも、アジムさんは、それには触れないで、ドラゴンさんを指差す。


「ド、ドラゴン! どこから現れた!」

「え? さ、最初からいたよ?」


 今まで気付いてなかったんだ。

 ドラゴンさん、すごく大きいのに。


 それに、アジムさん、ちゃんとドラゴンさんのことも見てたと思うけど。


 でも、戦いに集中していて、気にならなかったのかも。それだけ集中していたのかも。


「くっ。まさか、お前もドラゴンの手先か! これでも食らえ、ハイパー、ぴぎゃ!」


 アジムさんは、剣がないことにも気付いていないようで、剣を収めていた鞘を振り上げて襲いかかってきた。


 けど、ドラゴンさんのしっぽで叩きつけられて、可哀想な呻き声を上げた後、そのまま動かなくなっちゃった。


「えっと」


 どうしよう。


 驚いてしまって、しばらく何も考えられなかったけど、とりあえず、ドラゴンさんの攻撃で怪我をしてるみたいだったので、すぐにその傷は治してあげた。


 ◇◇◇◇◇◇


「くっ。敵に介抱されるとは、なんたる屈辱」

「私、敵じゃないよ?」

「騙されないぞ! ドラゴンの手先め」


 アジムさんは苛立った様子で言う。


 敵じゃないよって、何度も言ってるのに、アジムさんは納得してくれない。


 どう言ったら、納得してくれるのかな。


 リリルハさんには、どんな説明をしてたっけ。


 ううん。違う。

 リリルハさんは私の言うことを最初から信じてくれていた。


 町の人たちにも、リリルハさんが説明してくれた。だから、私はあんまり何も考えなくても信じてくれたんだ。


 でも、今はリリルハさんはいない。


 なら、私がきちんと話さないと。

 だって、頑張るって決めたんだから。


「私、何も悪いことしてないよ? アジムさんにも何もするつもりはないよ? それとも、私たち、アジムさんに迷惑かけちゃった?」


 素直に聞く。

 もしかしたら、私が気付かない間に、アジムさんの嫌がることをしちゃったのかもしれない。


 だから、信じてくれないのかも。


 なら、ちゃんと謝れば話を聞いてくれるかもしれない。


「そ、そういう訳じゃないが」


 アジムさんは少しだけ目をそらす。

 でも、私は真っ直ぐにアジムさんを見つめる。


「じゃあ、どうして、敵なの?」


 私にはわからない。

 ドラゴンさんはすごく優しいし、私はアジムさんに会ったこともない。


 なのに、敵なんて、おかしいよ。


「そ、それは」


 アジムさんは答えてくれない。

 目が泳いで、どうすればいいのかわからないみたい。


「と、とにかく、ドラゴンは敵だ! その味方をするお前も、敵だ!」

「違うよ。私はアジムさんの敵じゃない」

「うるさい!」


 アジムさんが私を叩こうとする。


 ドラゴンさんがそれから守ろうと、しっぽでアジムさんを叩きつけようとした。


 でも。


「大丈夫」


 私はドラゴンさんを止める。


 そして、アジムさんの手は、私を叩く寸前で止まった。


 ドラゴンさんは歯をむき出しにして怒ってくれてるけど、アジムさんは私を叩く前に止まってくれたの。


 アジムさんは、私を見て、信じられないという顔で聞く。


「なんで、さっきみたいに……」

「私は、けんかをしたい訳じゃないの。おはなしをしたいの」


 それに、アジムさんは本気で叩こうとなんてしてなかった。


 多分、訳がわからなくなって、どうしたらいいのか、わからなかっただけだと思う。

 アジムさんは、悪い人じゃない。


 だから、攻撃する必要なんてないんだ。

 それを、アジムさんなら、わかってくれると思う。


「アジムさんは、いい人だと思うから」

「ぐっ。う、うぅ」


 アジムさんは、ぐぬぬ、と頭を抱えている。

 一生懸命考えてくれてるんだと思う。


 私のことを知らないから。


 知ろうとして、頑張って考えてくれてるんだと思う。


「あぁ、くそっ! 知るか! 信じない。信じないからな!」

「あ」


 アジムさんは、そう叫ぶと走ってどこかに行っちゃった。


 すごい早さ。


 気付いたら、もうアジムさんの背中も見えなくなっちゃってる。


 残された私は、ドラゴンさんを見て、途方に暮れるしかなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る