ドラゴンと旅をする少女のおはなし

奈那七菜菜菜

プロローグ

 目を開くと、そこにいたのは、白くて、とても綺麗で、そして、とても大きなドラゴンだった。


 ◇◇◇◇◇◇


「私をたべる?」


 問いかけてみる。

 でも、ドラゴンさんは、何も言わない。


 ドラゴンという種族について、私はあまりよく知らない。


 遥か昔にこの世界を作った神様に遣えていた種族、その末裔である。それくらい。


 だから、このドラゴンさんが何を食べるのかも知らないし、そもそも、どうして私の目の前にいるのかもわからない。


「ここはどこ?」


 また問いかけてみる。

 食べられる雰囲気じゃなかったから。


 でも、ドラゴンさんは、やっぱり答えてくれない。それとも、言葉を喋れないのかな。


「よっこいしょ」


 ドラゴンさんは、さっきから何もしてくる気配がない。


 せめて何かしてくれるなら、私がここにいる理由もわかるかもしれないのに。


 でも、そんなことを言っても仕方がないから、私はとりあえず家に帰ることにした。


「あれ?」


 でも、そこで気付いた。


 私は、何処からここに来たんだろう。


 私は、何処に帰ればいいんだろう。


 私は、私は誰なんだろう。


 何1つわからない。

 自分の名前も思い出せない。


「えっと」


 周りを見渡す。

 ここは、白い霧に覆われた空間で、いるのは私とドラゴンさん。

 それ以外にあるのは、大きな岩と少しの木だけ。


 どうしよう。



 キュルルルル。


 お腹も空いてきた。

 いつから食べていないのかもわからないけど。


「ブウウン」


 ドラゴンさんの方から聞こえてきたのは、ドラゴンさんの息づかい。


 見てみると、ドラゴンさんは、その大きな鼻で何かを私の方に押し出してきた。


 それは、大きな葉っぱに乗った、たくさんの果物で、私でも食べやすい大きさのものだった。


「くれるの?」


 ドラゴンさんは、何も言わない。


 けど、食べていいぞ、と言っているように見えたので、私はその中の1つを取って、食べてみた。


「っ! おいしい」


 それはすごく美味しくて、すぐに、もう一口と、手が動いてしまった。


 気付けば目の前にあった果物は全部食べてしまって、残ったのは大きな葉っぱだけだった。


「ごちそうさまでした」


 手を合わせて言う。

 誰に習ったのかは忘れたけど、食べ終わったら、こういうものだと教えてもらったから。


「ドラゴンさん。ここはどこ?」


 何も言わないドラゴンさんは、この質問にも答えてくれない。


「ブウウン」


 でも、何かを伝えようとはしているみたいで、私をジッと見ていた。


 そして、ズシンズシンと、大きな音を立てて、私に背中を向ける。


 そして、その長い首をグルッと回して、私の方を見た。


「乗るの?」


 そうだ。と言っているような気がした。


 私は、ドラゴンさんの背中によじ登って、背中にしがみつく。


「うわぁ」


 その瞬間、ドラゴンさんは、大きな翼を羽ばたかせ、一気に空へと飛び上がった。


 目を開けていられないぐらいの勢いで、どんどん高く昇っていく。


 高く、高く、高く昇って。


 やっと目を開けられたと思ったら、そこは雲よりも遥か上で、星に手が届きそうだった。


 手を伸ばしても、届かなかったけど。


 しっかり掴まれ。


 そう言われた気がして、私はまたドラゴンさんにしがみつく。


 そうすると、ドラゴンさんは、何処かに向かってぐんぐんとスピードを上げて飛んでいった。


 私は、しがみつくのがやっとで、ここが何処なのか。何処に向かっているのか。


 そんなことを見る余裕は少しもなかった。


 でも、このドラゴンさんが、悪い人、じゃなくて、悪いドラゴンには見えなかったので、ただそれに、身を任せることにしたのだった。



 この日から私は、ドラゴンさんと一緒に、当てのない旅をすることになる。

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