ダルマさん

昆布 海胆

ダルマさん

「肝試し?」


「そう、この廃村にある小学校でやろうぜ」




友人の大谷修平が車を運転しながら言った言葉に後部座席から声が上がる。




「キャーこわーい」


「えー本当にいくのー?」




先日知り合った二人と今日は廃村の探検に来ている。


菜々美と言うギャルっぽい彼女は大谷の前からのガールフレンドだ。


紹介された時に一緒に居た彼女は、冴子という・・・


彼女は少しおとなしい感じだが、なんでも俺に好意を持っているらしい・・・


自らあんなに積極的に俺に迫ってきたんだから疑いようも無い・・・


俺は先日の事を思い出しながら流れる木々を眺めていた・・・








『冴子って言います。飯塚君は彼女居るんですか?』


『えっ?いや、別に居ないけど・・・』


『そっか・・・じゃあ立候補しても・・・いいか・・・な?』


『えっ?』


『だめ・・・かな?』


『いや、別に駄目じゃない・・・けど・・・』








精一杯の勇気を振り絞ってそう言ってき連絡先を交換した彼女と俺『飯塚 博』は大谷の発案で出かける事となっていた。


菜々美と冴子は知り合いで俺に一目ぼれしたという冴子を連れて最近仲良くしている・・・


ある日、大谷の趣味が廃墟巡りだと聞いて二人が乗り気になったというわけだ。




「でもこんなところに廃村が在るなんてよく知ってたね?」


「うん、私のお婆ちゃんが昔ここに住んでたんだって・・・」




大谷の質問に冴子が答えた。


どうにも俺と俺以外と話す時で声のトーンが違う気がする・・・


だがそんな事を気にもせずに大谷はノリノリで車を走らせる。




「おっあれだな?」


「そうみたいだね!」




道なき道を走らせていると古い廃屋が見え始めた。


元は舗装されていたであろう道路の様な道を進むとそれは姿を現した。


木造建築2階建ての横長の校舎・・・


あれが目的の場所だ。




「おおっ雰囲気あるじゃん!」


「えぇっマジで怖いんだけど」




大谷が車を前に停めて各々が車から降りた。


昼間だというのに何処か薄暗いのは気のせいだろうか・・・




「うーん、正面玄関は開きそうに無いな」




一目でそう分かる程に乱雑に木材などがドアを塞ぐように捨てられていた。


俺はそれを見て疑問に感じた・・・




(まるで、封鎖をしているみたいな・・・いや考えすぎか)




そう考えているときだった。




「ねぇ、こっちから入れそうだよ」




冴子の声が聞こえた。


ウキウキで大谷は冴子の方へスキップするかのように菜々美と進んでいく。


だがちょっと待て、いつの間に冴子はあっちに?


車を降りて迷うことなくそっちに行った気がして仕方が無かった。




「おっ本当だ開きそうだな!良く見つけたな冴子ちゃん」


「うん、車で近づいた時に見えたから・・・」


「お手柄だよ冴子~」


「うん・・・」




そんな会話を聞きながら俺も歩いて近づく・・・


何だろう、好意を持ってくれるのは良いんだけど・・・


ぬぐい切れない違和感を冴子の言動からいつも感じていた俺は、彼女とはどうにも距離を近付けられられないでいた。


まるで本能が拒絶している様な・・・




「どうしたの飯塚君?」


「いや、なんでもないよ」




冴子の不思議な魅力のある笑顔、可愛いとはまた違った彼女に俺はどうして違和感を感じるんだろう・・・


そんな事を考えながら校舎に入っていく大谷達に続いて俺は足を踏み入れた。




「すげぇ雰囲気あるな・・・」


「やだぁ~こわーい」




先頭を歩く大谷と菜々美の楽しそうな声を聞きつつ歩いていると、冴子が俺の右手を握ってきた。


何処か震えている様なその手を俺は握り返すわけでもなく彼女の好きにさせた。


そして、1階の一番奥まで進んで階段を上がった時であった。




「なぁ・・・なんかこの中寒くね?」


「うん、急に冷えてきた気がする・・・」




二人の声に俺は言葉なく頷く、明らかに1階よりもひんやりとした感覚・・・


その時であった。




『ねぇ・・・遊ぼう・・・』




その声は聞こえた。


一斉に声のした方向を見ると、そこには一人の男の子が居た。


こんな廃村の廃校の中に子供が一人・・・


明らかにおかしい・・・




「あれ?子供?どうしたの僕?」




菜々美がそう言って近付こうとする・・・


そんな彼女の心配した声が聞こえていないのか少年は続けた。




『見ている間は動いちゃ駄目だよ』




そう言って振り返った。


俺はその場に立ち止まりその光景を見ていた・・・いや、見ている事しか出来なかった。


大谷と菜々美が少年に近づいていく・・・


そして、それは聞こえてきた。




『だ~るまさんが・・・こーろんだ』


「どうしたのぼ・・・」




そこまで言って振り返った少年と目が合った菜々美と大谷はそこで言葉を止めた。


いや、明らかに様子がおかしい・・・


そう感じた時であった。




「きゃああああああ!!!」




突然菜々美が叫び出し何かから逃げようとしていた。


そして、驚いたのは大谷だ。


身長170はある筈の大谷が突然左の窓の方へ腕を引っ張られるような動きを見せたのだ。


その表情は変形し、まるで何かに全身を右側へ引っ張られている様に・・・


そして・・・




「ぎゃあああああああああああああああああ!!!!」




それは突然であった。


大谷の右腕が引き千切れ窓の外へ飛んで行ったのだ。


それと同時に大谷の体は右側の教室のドアを突き破って中へ血しぶきを上げながら吹き飛び・・・




ゴシャッ! ベキャッ! グチャッ!!




鈍い何かが潰れる音と共に教室の中から埃が巻き上がって廊下に出てきた。


その埃に飲み込まれた菜々美は次の瞬間・・・




「ぐぇっ」




という声と共に音を立てなくなった・・・


俺はその光景を身動きすることなく見つめ続ける・・・


何故か分からないが動いては駄目だと感じていたからだ・・・




『続けるよ~』




その声と共に埃の向こうで少年が後ろを向くのを感じた。


見えても居ないのに何故かそれが分かったのだ。


その意味不明さに恐ろしくなり俺は元来た階段へ戻ろうと考えたのだが・・・




「うそ・・・だろ・・・」




そこには階段が無かった・・・


上がってきた筈の階段は壊れており、どう頑張っても人間が上がってこれるような状態では無かったのだ。


そして、歌うように少年の声が響いてきた・・・




『だ~るまさんが・・・』




行くしかない、俺は小さくなって震えている冴子に小さく・・・




「俺が行くから、動くなよ」




と告げて前を向き直し少年の方へ足を踏み出した・・・


しかし、体が拒絶しているのか一歩が非常に重く足が前に出ない・・・


そうしている間に少年の言葉が終わりを告げる・・・




『こーろんだ!』




勢いよく振り返る少年。


その目を見て俺は背中から汗が吹き出した。


眼球は真っ黒で黒目の部分が赤く染まっていたのだ。


一歩を踏み出したままの姿勢で俺は止まっていた。


少しの間少年はこちらを見たまま楽しそうにしていたが、やがてゆっくりと後ろを向いた。




「ふぅ~」




息を吐き出し自分の呼吸が止まっていたのに気付いた。


手は強く握り過ぎていたのか爪が手のひらに食い込んでおり血が滲んでいた。


そして、俺は再び足を前に出す・・・




『だるまさんが・・・ころん・・・だ!』




振り返る少年、しかし俺は早めに動きを止めていたのでお手付きはしていない。


そのまま少年がこちらをうかがっている時であった。


教室からの埃が落ち着いてそれが視界に入ってきた・・・


そこには腕と足と首が逆に捻られた菜々美の死体が転がっていた。


こみ上げる吐き気、死んだ人間の無機質な瞳が何かを訴える様にこちらを見ていた。


だが、動けば自分もそうなると感じ、俺は唾を飲む事すら我慢して耐えていた。




『ちぇ~』




少年の声が聞こえ振り返ったのを確認し俺はまた足を踏み出す・・・


そこで大谷が引きずり込まれた教室の前に来たので横目で中を覗いた、いや覗いてしまった・・・




『だ~るまさん・・・』




少年の言葉が遠くに聞こえる・・・


変わり果てた友人の姿は悲惨な物であった。


車か何かに猛スピードで激突されたかのように体が潰れ、眼球は飛び出し折れた骨が突き出していた。


血の池とも言える形で広がるそれに俺はその場で蹲り吐いた・・・




『が、こ~ろん・・・』




だが、そこで俺は嘔吐するのを必死に堪えて目を瞑った。


視界に入れれば吐いて見られてしまう。


それだけは駄目だと必死に堪えて息を止める・・・




『だ!』




涙があふれる・・・


苦しい、1秒が物凄く長く感じたが少年が振り返ったのが目を瞑っているのに分かった。




「おげぇぇぇええええ・・・・」




おもいっきり俺は吐しゃ物をその場に吐き出した。


そんな事はお構いなしに少年が歌い出す。




『だ・る・ま・さ・ん・が・・・転んだ!』




フェイント、ゆっくり歌ったのかと思ったら最後一気に言い切った少年がこっちを見た。


俺は吐ききった姿勢のまま身動きを取らないように努めた。


今やらなければならない事は前に進むことだ、少年の声が続いたと共に俺は立ち上がった・・・




『だるま~さんが~こ~ろんだ!』




2歩、たったの2歩だが俺は前に進んだ。


ピクリとも動かない菜々美は直ぐ横に転がっているが俺は視界に入れないように前だけを見詰める・・・


口周りの嘔吐物が異臭を放つが歯を食いしばって俺は耐えた。




『だるまさんが・・・ころ~んだ!』




また2歩だけ進めた。


もう前には廊下と少年の姿しかない、俺は落ち着いて前に進むとだけ心の中で唱え続けた。




『だぁ~るまぁ~さんがぁ~こぉ~ろんだ!』




今度は4歩進めた。


まるで自分のモノじゃないように感じる重い体を引きずりながらも俺は少年に近づく・・・


あと少し、10歩程で少年に手が届く・・・




『だる・・・まさんが・・・こ・・・ろん・・・だ!』




7歩進めた。


後3歩、目と鼻の先だ。


俺は心臓がうるさく鼓動を知らせる音に心の中で「うるさい!」と怒鳴り少年が振り返るのを待った。




『だるま・・・さん・・・』




そこで俺は手を伸ばした。


少年に届いた!


俺は声を上げる!




「俺の勝ちだ!!」




そう言って後ろを向いた少年の肩に手を触れた瞬間、景色が変わった。


校舎の中なのは変わらない、だが昼間だった筈が窓からの光が夕焼けに変わっていたのだ。


そして、ボロボロだった校舎内はおどろおどろしい雰囲気に包まれ寒気が更に強まった。




『お兄ぃさんこっちだよ』




廊下の突き当り、そこに再び少年の姿が在った。


長い校舎の一番奥、そこまで続けようと言っているのだと俺は理解し一回頷いた。


大丈夫だ、同じことを繰り返すだけだ。


俺は少年が振り返るのを確認してから伸ばしていた手を戻し、再び足を前に出した。


しかし、それに驚き俺の足は1歩で止まった。




『ダぁるマさんガ コろんダ!』




少年の体が激しく左右に振られ声が不気味な声色で歌われた。


そして、振り返った少年の顔は醜く崩れていた。


左頬が融けた様に崩れ骨格が見えていた。


目の周りも血管が浮き出て首からは掻き毟ったのか傷が酷く目立った。


更に恐怖は続く・・・




ゾクッ!




足から何かが這いあがってくる感じを受けた。


少年はまだこちらを見たままなので俺は動かずにずっと耐える・・・


長い沈黙・・・


やっと少年が後ろを向いたのに合わせて俺はそれを手に取った。




「ひぃっ?!」




それはムカデだった。


首元まで這いあがって来ていたそれを窓から投げ捨てる。


そして、俺は足を前に踏み出した。




『ダ・ル・マ・さんギャ・・・コロブダ!』




3歩、進めた。


いや、3歩しか進めなかった。


体が前に進むことを拒絶するのもそうだが、足元がミシミシと嫌な音を立てるのだ。


今にも床板が腐って抜けそうな感じに体重を乗せるのにも慎重になってしまうのだ。




『デァるミァ シャんが こリョ ンデァ』




更におかしくなる少年の挙動。


最後にこちらを見る動作には変化は無いが、明らかに異常だ。


そして、それは唐突にやって来た。




(うぉっ?!)




蝙蝠である、廊下の天井付近を大量の蝙蝠が一斉に通過したのだ。


焦って動きそうになるのを必死に耐えた。


幸いだったのはムカデと違って体に触れなかった事だろう。




『デェルミ ダァンば ゴリョシ だぁ!』




また2歩進めた。


これが限界だ、一歩進むのも命がけ・・・


バクバクと主張を続ける心臓を止めようと息を必死に止める・・・


その時だった。




「いたぁいよぉ・・・たぁすけてぇ・・・」




声が聞こえた。


菜々美の声だ。


後ろでずるずると床を引きずる音が聞こえ全身に鳥肌が出た。




「ねぇ・・・おいでいかないでぇ・・・」




そう言ってすぐ後ろまで来ていた声に俺は歯ぐきから血が出そうな程に歯を食いしばって耐えた。


やがて直ぐ足元まで来た音はそこで止まった。




『デェミャ シャバンダ ギョギョジィ ダァバ!』




最早何を言っているのか理解できない少年の歌、だが俺は前に進むことだけを考えて歩を進めた。


その時であった!


直ぐ真横に在った教室のドアが吹き飛び、一面に腕が生えてきたのだ。


ドアは俺の直ぐ前を通過し、床に大きな音を立てて転がる。


視界に多数の腕がこちらに向かって伸びるのが見える。


だが、俺の体には届かないのか暫くしてその腕たちは引っ込んだ。




(なんだ、こけおどしか)




俺は以前何かで読んだ話を思い出していた。


振り返ってはいけない道で振り返らそうと霊が様々な妨害をしてくるって話だ。


今のはそれに非常に似ている・・・


そう、俺に実際に危害を加える事はルールを破らなければ出来ない筈だ。


俺は息を飲み少年までの距離を確認する・・・




(あと、15歩ってところか・・・)




4回、あと4回耐えれば俺は生き残れる。


そう確信し俺は何があっても動かない決心を固めた。




『バァバァミィ バァンばぁ ボォボォンバァ!』




相変わらず意味不明な歌に俺は前にだけ進む・・・


もうネタ切れなのか、俺が覚悟を決めたからなのか何も起こらない・・・


少年が再び振り返り俺は足を前に出す・・・




『ビャぶ ビャバ ビャンビ グベェッバァ!』




歌いながら少年がその場に吐血した。


そして、こちらを振り返った少年は腹部が切り裂かれ血がにじみ出ていた。


もしかしたらあれは少年が死んだ時の最後の姿なのかもしれない・・・


だが俺には関係が無い!


そう考え俺は少年の動きを見つめ続ける・・・




『ブゲェ ゲッ ゲェェェ ゲボォッ グ・・・グゲェェ・・・』




吐き出される血で最早歌にもなっていないが少年はこちらを振り返る時だけは普通である。


それがまた異様なのだが俺は無理なく歩を止めていた。


その時である。




「俺が先に・・・ゴール・・・するんだぁ・・・」




俺の右肩の直ぐ上を腕が通過した。


指が全部変な方向に曲がり、腕もあちこちから骨が突き出している。


そして、その声に俺は耳を疑った・・・




(大谷?!お前なのか?!)




直ぐ真後ろで吐かれた吐息が耳に当たる・・・


血生臭い臭いが広がり足元に滴る音は血の音だろうか・・・


その腕はその位置で止まったままで動きを見せなかった。


そのまま少年は振り返る・・・




(ごめん、大谷・・・)




俺は真後ろに居るであろう変わり果てた姿の大谷を無視して前に進んだ。


あと少し、もう廊下は終わりだ。


そして、俺は少年の背中に届きそうなところで手を止めた。




『ダァルミャシャ・・・コロンダ!』




そう、こいつはフェイントを使うのだ。


伸ばした手は次に少年が振り返ったら確実に届く位置、そこで止まっていた。


それを目にした少年の顔は更に酷くなっていた。


眼球は腐って片方崩れ、鼻も陥没し、口内からは大量の虫がわき出していた。


見ているのか分からないその眼球は何処か寂しそうにこちらを見詰め、動かない・・・




(どうした?早く振り返れ!)




息を止めたまま俺は待つ・・・


少年が振り返るその瞬間に手を届かせようと待つのだが、少年は振り返らない・・・


そうなると今度は俺がきつくなる・・・


動かない為に息を止めていたのもそうだが、腰を曲げて腕を伸ばした姿勢だからだ。




(早く!早く!早く!)




俺の内心を感じているのか少年は中々振り返らない・・・


やがて2分程経過したのか、諦めた様に少年は肩を落として振り返った。


その瞬間俺の手が少年の背中に・・・触れた!




『ぁっ・・・負けちゃった』




聞こえた少年の声は穏やかだった。


既にそこに少年の姿は無く、薄暗くなり始めていた夕焼け模様が昼間に戻っていた。




「はぁ~・・・」




俺はその場に尻もちをついた。


膝がガクガクと震え、手の震えも止まらない・・・


だが俺が今生きているという事実を高鳴る鼓動が知らせていた。


そう、俺は生き残ったんだ!




「だい・・・じょうぶ・・・飯塚君?」




その時背後から声がした。


驚き床に手を突いたまま首を後ろにやると、冴子が抱き着いてきた。


良かった。彼女も助かったんだ。




そう考え、俺は震える手を彼女の背中に回した。


座り込んだままの男と屈んで抱き着く女、なんともシュールな光景だが誰に文句を言われる事もない。


俺達は生き残ったんだ。




「冴子・・・帰ろう」


「・・・うん」




ゆっくりと冴子に助けられながら俺は立ち上がった。


視線をやるとそこには菜々美の遺体は転がったままである。


警察に電話をしたとしてなんといえばいいのか・・・


俺はそんな事を考えながら冴子と共に階段を降り始める・・・


長かった、これからどうするかと考えていた時に俺の体は踊り場に転がった。




「あれっ?痛っ!」




階段を踏み外したのかと驚いた俺は立ち上がろうと手を床に・・・


手を・・・あれ?




「大好きだよ・・・飯塚君・・・」




そう冴子の声に俺は驚愕した。


甘えるようなその声を発した冴子は俺の両手足を抱きかかえていたのだ。




「ぁっ?!」




何かを言おうとした俺の口は冴子の口で塞がれた。


身動きを取ろうにも俺の手足は根元から無くなっており首しか動かせないのだ。


ソッと唇を離した冴子は高揚に染まった表情で告げる・・・




「私の為にありがとう」




そう言って冴子は俺の両手足を持ったまま階段を一人で降りていく・・・


静寂、薄暗い階段の踊り場で俺は自分の手足がどうなっているのか理解が出来ないまま天井を見つめる・・・




「あぁ・・・そうか・・・」




そこで俺は思い出した。


大谷から聞いたあの話・・・




『ダルマさんって知ってるか?なんでも人間の女に化けて心霊スポットで生き残れる強い男の手足を貰って相手をダルマにする妖怪なんだとさ』




その話を聞いた直後から大谷の彼女の菜々美さんに何時の間にか冴子という友達が居る様になったんだったっけ・・・


そう、思い返せばこの話を聞くまで大谷は菜々美さんといつも二人だったはず・・・


どうして気付かなかったんだろう・・・


そんな時階段の上から声が聞こえた・・・




『ねぇ、お兄ちゃん・・・今度は鬼ごっこしようよ・・・』




手足を無くした俺は目を瞑る事しか出来なかった。


ゆっくりと階段を降りてくる足音・・・


抵抗する事も出来ない俺は唯一残った首が引っ張られるのを感じ・・・


鈍い音と共に体と頭が引きちぎられる音を聞きながら俺は意識を闇に落とした・・・




『遊んでくれてありがとう・・・』

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ダルマさん 昆布 海胆 @onimix

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