第6話 黄金の雨、魔物の大群に無双する。3
ユリーヌ国の人々は誰一人として気づかなかった。
危機がすぐそこまで迫っていることに。
・・・
「ふふふふふ。ふふふははは!」
黄金の雨を見ながら、魔王軍四天王であるリッチは不敵に笑っていた。
彼がいるのは、グリムフォレストとユリーヌ国の境。
黄金の雨が降らない、グリムフォレスト側の森の中だ。
彼の後ろには、ユリーヌ国侵攻作戦のための魔王軍の大群が控えていた。
「私の策通りだ!さすがは魔界一の知将・リッチ様よ!」
自画自賛するリッチ。
彼は、自らが立てたユリーヌ国侵攻計画の事前準備がうまくいったことで、勝利を確信していた。
彼が立てた作戦は、ユリーヌ国で大規模な感染症を引き起こし、黄金の雨を降らせることだった。
なぜ、黄金の雨を降らせたのかというと・・・
「今までに降ったユリンの雨は、一日に一度まで!今降っている雨が止めば、今日はもう降らない!」
という理由だった。
つまり、この雨が降り終えた後にユリーヌ国へ侵攻すれば、黄金の雨を食らうことはないという考えだ。
そしてしばらくして、黄金の雨が降り止んだ。
「よし!期は熟した!魔物どもよ、ユリーヌ国へ侵攻せよ!」
完全に雨が降り止んだことを確認したリッチは、背後にいる魔物達に侵攻命令を出すのだった。
☆
少し前に、リュックから二冊目のラノベを取り出したスイは、夢中でそれを読んでいた。
本の内容は以前にも読んでいた、高校生が異世界転移して国を救うというものだ。
また新刊が発売されたから購入したのである。
しかし、暑さのせいでジュースをたくさん飲んでいたせいか、スイはまたもや尿意を催してしまった。
ジョロロロロー
「ふい~~~、おしっこするのは気持ちいいな~」
本日二度目の、森の小便器へのおしっこである。
スイがいつも読書をしている場所には、空のペットボトルが転がっていた。
☆
「ば、ばかな!」
リッチは目の前の光景を前にして、己の目を疑っていた。
二度目の黄金の雨が降ってきたからである。
魔物達の進軍が始まり、最後尾の魔物がユリーヌ国へ入った途端のことだ。
しかも、通り雨のように急に勢いよく降ってきたのである。
その雨にさらされた魔物の大群は、10秒で溶けてしまった。
しばらく、呆然と見ていたリッチだったが、やがて不敵に笑いだす。
「・・・ふふふ。ふふふははは!女神ユリンよ!やるではないか!一日に二度も奇跡を起こすとは!」
いつの間にか雨が降り止んだ空を見て、女神ユリンを褒めるリッチ。
「・・・だが!私の策の方が上だ!」
そう叫んだ彼は後ろを振り返った。
なんと、そこにはまだ魔物の大群がいたのである。
「万が一に備えて、軍を分けていたのだよ。ユリン。いかに神とて、これ以上の奇跡は起こせまい!」
そして、彼は悦に入った表情を浮かべて、こう言うのだった。
「勝者は奥の手を残しておくものなのだよ」
ひとしきり自分に酔った後、リッチは号令をかけ、魔王軍の二陣目を進軍させるのだった。
☆
ジョーーーーーー
「ふい~、今日はジュース飲みすぎちゃったかも」
そこにあったのは、本日三度目の立ちションをするスイの姿だった。
スイの読書位置には空のペットボトルが2本あった。
持ってきていたジュースは1本だけではなかったのである。
☆
「・・・・・・・・・・」
三度目の黄金の雨に、絶句するリッチ。
万が一を想定して残していた魔王軍の第二陣は、第一陣と同様に全て溶けて消えた。
最後尾の魔物が、ユリーヌ国へ侵入した直後のざあざあ降りである。
全ての魔物は3秒で溶けた。
「・・・神の奇跡って、こんなに頻繁に起こせるものなの?」
あまりのことに放心して、そう呟くリッチ。
その姿は、先程まで悦に入っていたのと同一人物だと思えないほどだった。
リッチの、自称「勝者の奥の手」は、完膚なきまでに破られた。
もはや残っている魔物は、リッチ直属のアンデッド達とリッチ本人のみである。
彼は、もう帰りたい気分でいっぱいだったが、ここで引き返すと魔王に殺される。
そして、黄金の雨が降り止んだ。
「・・・も、もう流石に、これ以上奇跡の雨など振るまい!ものども、私に続けえええ!!!」
半ば、自分に言い聞かせるように、やけくそになって叫んだリッチは、アンデッド達とユリーヌ国へ突撃した。
☆
ジョジョジョジョーーーーーー!
本日四度目の立ちションをするスイ。
四度目にも関わらず、そのおしっこの勢いは今日一番だ。
「一日のおしっこ記録、更新しちゃったな~」
スイの読書位置には空のペットボトル二本と、中身がまだ半分入っている1.5リットルのペットボトルがあった。
明らかに、ジュースの飲みすぎである。
☆
ドドドドドドドドドドド
まるで滝のように、黄金の雨が降っていた。
やけくそで出撃したリッチとアンデッド軍団は、その雨によって一瞬で消滅した。
その時間、0.1秒。消滅の最速レコードだった。
結局、ユリーヌ国に迫っていたはずの危機は、国民が誰一人気づかないまま去った。
またもや、スイのおしっこはユリーヌ国を救った。
・・・その日は、この後も度々黄金の雨が降り、感染症から回復した人々は、皆大喜びで降ってきた雨を瓶に貯めたのだという。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます