第6話 黄金の雨、魔物の大群に無双する。3

ユリーヌ国の人々は誰一人として気づかなかった。


危機がすぐそこまで迫っていることに。




・・・




「ふふふふふ。ふふふははは!」



黄金の雨を見ながら、魔王軍四天王であるリッチは不敵に笑っていた。


彼がいるのは、グリムフォレストとユリーヌ国の境。


黄金の雨が降らない、グリムフォレスト側の森の中だ。


彼の後ろには、ユリーヌ国侵攻作戦のための魔王軍の大群が控えていた。



「私の策通りだ!さすがは魔界一の知将・リッチ様よ!」



自画自賛するリッチ。


彼は、自らが立てたユリーヌ国侵攻計画の事前準備がうまくいったことで、勝利を確信していた。


彼が立てた作戦は、ユリーヌ国で大規模な感染症を引き起こし、黄金の雨を降らせることだった。


なぜ、黄金の雨を降らせたのかというと・・・



「今までに降ったユリンの雨は、一日に一度まで!今降っている雨が止めば、今日はもう降らない!」



という理由だった。


つまり、この雨が降り終えた後にユリーヌ国へ侵攻すれば、黄金の雨を食らうことはないという考えだ。


そしてしばらくして、黄金の雨が降り止んだ。



「よし!期は熟した!魔物どもよ、ユリーヌ国へ侵攻せよ!」



完全に雨が降り止んだことを確認したリッチは、背後にいる魔物達に侵攻命令を出すのだった。











少し前に、リュックから二冊目のラノベを取り出したスイは、夢中でそれを読んでいた。


本の内容は以前にも読んでいた、高校生が異世界転移して国を救うというものだ。


また新刊が発売されたから購入したのである。


しかし、暑さのせいでジュースをたくさん飲んでいたせいか、スイはまたもや尿意を催してしまった。



ジョロロロロー



「ふい~~~、おしっこするのは気持ちいいな~」



本日二度目の、森の小便器へのおしっこである。


スイがいつも読書をしている場所には、空のペットボトルが転がっていた。











「ば、ばかな!」



リッチは目の前の光景を前にして、己の目を疑っていた。


二度目の黄金の雨が降ってきたからである。


魔物達の進軍が始まり、最後尾の魔物がユリーヌ国へ入った途端のことだ。


しかも、通り雨のように急に勢いよく降ってきたのである。


その雨にさらされた魔物の大群は、10秒で溶けてしまった。


しばらく、呆然と見ていたリッチだったが、やがて不敵に笑いだす。



「・・・ふふふ。ふふふははは!女神ユリンよ!やるではないか!一日に二度も奇跡を起こすとは!」



いつの間にか雨が降り止んだ空を見て、女神ユリンを褒めるリッチ。



「・・・だが!私の策の方が上だ!」



そう叫んだ彼は後ろを振り返った。


なんと、そこにはまだ魔物の大群がいたのである。



「万が一に備えて、軍を分けていたのだよ。ユリン。いかに神とて、これ以上の奇跡は起こせまい!」



そして、彼は悦に入った表情を浮かべて、こう言うのだった。



「勝者は奥の手を残しておくものなのだよ」



ひとしきり自分に酔った後、リッチは号令をかけ、魔王軍の二陣目を進軍させるのだった。











ジョーーーーーー



「ふい~、今日はジュース飲みすぎちゃったかも」



そこにあったのは、本日三度目の立ちションをするスイの姿だった。


スイの読書位置には空のペットボトルが2本あった。


持ってきていたジュースは1本だけではなかったのである。











「・・・・・・・・・・」



三度目の黄金の雨に、絶句するリッチ。


万が一を想定して残していた魔王軍の第二陣は、第一陣と同様に全て溶けて消えた。


最後尾の魔物が、ユリーヌ国へ侵入した直後のざあざあ降りである。


全ての魔物は3秒で溶けた。



「・・・神の奇跡って、こんなに頻繁に起こせるものなの?」



あまりのことに放心して、そう呟くリッチ。


その姿は、先程まで悦に入っていたのと同一人物だと思えないほどだった。


リッチの、自称「勝者の奥の手」は、完膚なきまでに破られた。


もはや残っている魔物は、リッチ直属のアンデッド達とリッチ本人のみである。


彼は、もう帰りたい気分でいっぱいだったが、ここで引き返すと魔王に殺される。


そして、黄金の雨が降り止んだ。



「・・・も、もう流石に、これ以上奇跡の雨など振るまい!ものども、私に続けえええ!!!」



半ば、自分に言い聞かせるように、やけくそになって叫んだリッチは、アンデッド達とユリーヌ国へ突撃した。











ジョジョジョジョーーーーーー!



本日四度目の立ちションをするスイ。


四度目にも関わらず、そのおしっこの勢いは今日一番だ。



「一日のおしっこ記録、更新しちゃったな~」



スイの読書位置には空のペットボトル二本と、中身がまだ半分入っている1.5リットルのペットボトルがあった。


明らかに、ジュースの飲みすぎである。











ドドドドドドドドドドド



まるで滝のように、黄金の雨が降っていた。


やけくそで出撃したリッチとアンデッド軍団は、その雨によって一瞬で消滅した。


その時間、0.1秒。消滅の最速レコードだった。





結局、ユリーヌ国に迫っていたはずの危機は、国民が誰一人気づかないまま去った。



またもや、スイのおしっこはユリーヌ国を救った。



・・・その日は、この後も度々黄金の雨が降り、感染症から回復した人々は、皆大喜びで降ってきた雨を瓶に貯めたのだという。

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