カクト・リェルの幻想酒譚
奏
スグリノレクス①
明日の『建国祭』に向けて飾り立てられた真夜中の王都は、英気を養うべく静まり返っていた。
誰もが明日への期待に逸る気持ちを抑え、年に一度――王都が一番盛り上がるその日を夜通し騒ぐため、今を休んでいる。
夜闇を纏う影にとって、それは好都合。
これから訪ねる者は影の提案を吞むことはないだろう。
そのときは葬るだけ――。
知らず笑みがこぼれる頬を引き締め、影は夜闇を縫うように歩む。
やがて裏路地の一画にある古めかしい酒場の前に立った影は灯りのないその扉を開けた。
約束は取り付けてある。
なにひとつ問題はない。……そう、なにひとつ。
******
カクトリエル――それは
そのなかでも王族が住まう王宮でその手腕を発揮する〈宮廷カクトリエル〉ともなればリキウル王国では最高峰の栄誉とされた。
年に一度、ただひとりが選ばれる〈宮廷カクトリエル〉は国が主催するあらゆる催しに随行し、王国秘蔵の酒蔵を管理するお役目もある。
王に直接酒を頼まれることもある唯一の存在で、俺の爺ちゃんはその〈宮廷カクトリエル〉の座を十年も譲らない最高のカクトリエルだ。
俺はそんな爺ちゃんに育てられ……いつかは自分も〈宮廷カクトリエル〉になると信じている。
――これはすべての酒好きと、成人したら旨い酒が呑みたいと願う若者たちと、吞んでみたいけどなにがいいか迷う人たちに贈る、すでに奏でられた物語を新しい目線でたどる幻想酒譚。
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