6の15 光魔法の紡ぎ手(前編)



 私は念のため色々なグッズが入ってる大きなリュックを背負い、ベルおばあちゃんは前に抱っこして飛ぶ。ハルコとお互いの足を長いロープで固く繋がれているので、危険な時は剣でロープを切るしかないが今の所は飛行に邪魔になるということもない。ペリコは他の鳥と一緒に飛ぶのが嬉しいのだろうか?若干ご機嫌のように見える。


 ハルコの飛び方を後ろから見ていると、まるで風が羽根を持ち上げているような感じだ。きっと羽根の上下の気体を上手く操作して揚力を得ているのだろう。もしかしてこれ、気体魔法を上手く使えるようになれば、大きな羽根を作って背負えば飛べるかもしれない。自分一人の力で大空を飛び回るような夢が膨らむ。


「なんか、このままハルコの巣まで行ってもいい気がするね」


「信用を勝ち取るのが先じゃ、ナナセは何でもかんでも急ぎすぎなのじゃよ。それにけっこう遠くじゃったから時間かかるぞえ」


「そっか、そうだよね。ひとまず何でもいいから獣一匹くらい捕まえてすぐに帰ろう。あんまり遅いと疑われちゃうかな」


「ハルコ・やくにたつ・やくにたつたい」


 裏の山まではすぐに到着した。距離的にはナゼルの町とナプレ市の半分くらいだろうか?そう考えると、神都アスィーナはナゼルの町からナプレ市までを全部合わせたくらいの広さだね。


「どう?ハルコが行きたい方に行っていいよ、私たちは後ろから着いていくからね」


「そら・から・さがす・みつける」


 ハルコがホバリング飛行で獲物を探している。きっと私を襲ってきたように、羽根を畳んで一気に急降下して足で掴み取るのだろう。私の経験で言うと、あの攻撃は来るとわかって構えていても、そう簡単には避けられない。最近は危険な攻撃をしっかりと見ていると軽くスローモーションになってくれるけど、それでも剣で弾くのが精一杯だった。普通の人族や獣ではハルコに捕まって当然だろう。


「私も眼鏡で見てるけど遠くて見えないかなぁ・・・」


「それよりも光の紡ぎ手らしきところの方が気になるのじゃよ。すごい力を感じるのじゃよ」


「どっちどっち?私もう少し近づかないと感じられないかも。ハルコ、ちょっと探すのやめて私たちに着いてきて」


「わかった・ナナセ」


 ベルおばあちゃんが山の頂上よりちょっと下くらいを目指して飛んでいく。そこには眼鏡など必要なく目視できる立派な木々が並んでいた。たぶんこれがマリーナさんの言っていた御神木だろうか?上空からではよくわからないので思い切って着地すると、そこにはとても綺麗な池があり、ほとりにはマリーナさんたちが毎日供え物を置いていると思われる神棚みたいなものがあった。


「すごい魔子の量なのじゃよ、間違いなくこの池の中におるのじゃ。わしがおった山頂の湖に少し似ておるのぉ」


「わぁ、すごい綺麗・・・なんかアルテ様感があるなぁ・・・っていうか周りの御神木もすごく立派だし、幻想的って言葉が似合うかな?」


 この池からはアルテ様やリアンナ様から感じたような、うまく説明ができない感覚を受ける。そういえばアルメオさんからもそんな感じを受けたっけね。光魔法を使う人が持つ独特のものかな?あ、でもマリーナさんからはそういうの感じなかったや。人によるのかな。


「マリーナさんが言ってたのは間違いなくこの池のことだよね。確か泉って言ってたっけ?この水ってどっかから湧いて来てるのかな?」


「確かに、ここに流れ込んでおる川は見当たらんのじゃよ」


 泉の大きさは小学校のプールくらいだろうか?左右対称の綺麗な楕円形で、人為が介在していることが見受けられる。私は泉の水を少し手ですくって口に含んでみると、とても冷たく少し甘味を感じるような美味しい水だった。


「誰もいないですねぇ、どっかお出かけしてるんですかね?」


「この泉が結界に守られておるような感じなのじゃよ、誰かおるのかどうかもわからんのぉ」


「うーん・・・もしかしてこの泉の中に住んでるんですかね?水中でも生きていけるような生物とか」


「いや、わしが見た何千年も前は人の形をしておったのじゃよ」


「そっか・・・そうだ!この神々しい感じの泉って私知ってます!たぶん古い斧を放り込むと女神様が出てくるんですよ!」


「そんなもの放り込むのは罰当たりなのじゃよ」


「大丈夫ですって!創造神の考えることはなんかわかるんです!」


 全く根拠がないが、斧など持っていないのでとりあえずそのへんに落ちていた石ころを泉の中央あたりに投げ込んでみる。すると水の中に落ちることなく、スウっと吸い込まれるように消えてしまった。


「あれ?ベルおばあちゃんの言う通り、なんか結界があるのかな?」


「やはり罰当たりなのじゃよ。怒られる前に辞めるのじゃよ」


「大丈夫大丈夫!石じゃなくてもう少し価値のあるやつ投げ込もうか。宝石はもったいないから、とりあえず持ってる銅貨を全部投げ込もう。ぽいっ!ぽいっ!ぽいっ!」


 お賽銭の感覚で次から次へと孔銅貨を投げ込む。孔銅貨ってあまり使うことないから、お財布にどんどん貯まっちゃうんだよね。これできっとアルテ様みたいな女神様が大量の純金貨を持って現れるに違いない。そして私は「違います銅貨です」と言えばクエスト完了だ。


「こらぁー!わらわの住処に物をぽいぽい投げ込むでないのじゃ!」


 孔銅貨が尽きて純銅貨を投げ込み始めた時、ついに女神様らしきものが声を上げた。やばい、なんか若干怒っているっぽい。


「わあああ!ごめんなさい!私の国ではお賽銭って言って、神様にお金をぽいぽいするのは最高の敬意を払った行為なんですぅっ!」


「ちょっと待っておるのじゃ!まったく失礼な人族なのじゃ」


 泉の中央から響いてきた声は子供のようなものだった。光魔法の紡ぎ手はきっと何千年も生きていると思うけど、ピステロ様みたいに寝る時間をコントロールすれば子供のままでいられるのだろうか。


「ねえベルおばあちゃん、なんか今のって子供の声だったよね。光魔法の紡ぎ手って何千年も生きてるんでしょ?私さ、アルテ様っぽい見た目の素敵な女神様を想像してたから驚いちゃったよ」


「わしが寝すぎてしもうただけなのじゃよ。子供の姿のままずっと暮らしておるんじゃないかのぉ」


 しばらく待っていると、泉の中央あたりが蜃気楼のように歪み始め、次第にその光景がくっきりとしたものに変わっていく。


「すごいのじゃよ、これが幻影魔法というやつかのぉ」


「それ聞いたことある!確かエルフが森で迷わせるために使うやつじゃなかったっけ?」


「エルフ・もり・まよう・でも・これ・ちがう」


「そうなんだ、あ!なんか建物が現れたよ!すごーい!」


 泉の中央に神社のような建物が現れた。金や銅と思われるもので装飾をしてあり、神殿とは違う神々しさを感じる。その入口と思われる場所から現れたのは、私より少し背が低い獣耳少女だった。


「待たせたのじゃ、特別に住処に入ることを許可するのじゃ」


「うわあ!可愛いーー!入る入る!おじゃましまーすっ!」


 私は泉の中をバシャバシャと走り寄る。泉はわりと浅く、膝くらいまでの深さだったので問題なく中央の建物までたどり着けた。私はなんのためらいもなく獣耳少女の前に立ち、耳をひたすら撫でる。


「なでなで・・・もみもみ・・・うわぁ!尻尾がいっぱいあるぅー!もみもみ・・・なでなで・・・フカフカしていて柔らかぁーい!」


「あふぅん・・・やっ、辞めるのじゃ!くすぐったいのじゃ!なんなのじゃお主は、わらわのような崇高な存在に失礼なのじゃーっ!んふぅん」


 なんか気持ちよさそうにしているので私は尻尾を撫で続ける。どうやらシンくんが寝てしまってから獣のフカフカに飢えていたらしい。


「尻尾いっぱいあるねぇ、いち、にい、さん・・・九本!ねえねえ、キミって光魔法の紡ぎ手で良いんだよね?もしかして九尾の狐なの?」


「その通りなのじゃ、わらわが光魔法の紡ぎ手なのじゃ。さあ、わらわを崇めるのじゃ!」


「崇める崇めるっ!私はブルネリオ王国ナゼル町長ナナセだよ、よろしくね・・・えっと・・・光の紡ぎ手さんっ、お名前は?」


「なんじゃ、隣国の姫なのじゃな、わらわは唯一無二の存在なのじゃから名など必要ないのじゃ!」


「ええーっ?名前は必要だよぉ、私が付けてあげよっか?」


「姫の好きに呼ぶが良いのじゃ」


 それにしてもグレイス神国の人は私のことを姫って呼ぶね。確かに年齢や容姿がこのくらいで王族となると、他の国から見ると姫って呼ぶのが正しいのかな?ちょっと違うんだけどまあいっか。


 なんか可愛い名前を付けてあげようとうんうん唸っていると、ベルおばあちゃんが前に進み出て自己紹介し始めた。


「わしゃ温度魔法の紡ぎ手のベルじゃよ。おぬしを見るのは二度目なのじゃよ」


「わらわも覚えておるのじゃ、へんぴな山頂で暮らしておった妖精なのじゃ。その頃から比べるとずいぶん年寄りの容姿になっておるようじゃが、何があったのじゃ?」


「暇で暇で寝すぎてしもうたのじゃよ」


「わらわは人族が毎日貢ぎ物を持ってくるのじゃ、それが楽しみであまり寝ておらぬのじゃ!わらわは民に慕われておるのじゃ!」


「それは羨ましい限りじゃのぉ、わしの住んでおった湖の家は断崖絶壁に囲まれておったもんじゃから、人族など数えるほどしか会ったことがないのじゃ。ナナセで四人目なのじゃよ」


「わらわも直接会話した人族はそのくらいなのじゃ」


 二人がずいぶん仲良く話しているのじゃ。


「あーもう、二人してのじゃのじゃのじゃのじゃってーっ。もう決めたのじゃ!光魔法の紡ぎ手さんは今日から“のじゃ子”ねっ!」


「そんな安直なのは嫌なのじゃ!もっと神々しいのを考えるのじゃ!」


「じゃあー、九尾の狐だからぁ・・・キュウ兵衛!」


「オスみたいで嫌なのじゃ!もっと可愛いのがいいのじゃ!」


「えー、じゃあキュウちゃん?なんか漬物みたい・・・」


「姫はセンスが無いのじゃ、もう名などどうでもいいのじゃ。それより、わらわに何か貢ぎ物をよこすのじゃ!」





あとがき

和洋折衷ごちゃ混ぜな感じの神様が登場しました。

ナナセさんは、なんだか新しいお友達ができたみたいにはしゃいでますが、これでようやく光魔法が上達するのでしょうか?

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