1の25 屋敷の結界(前編)




 人気のない夜の砂浜で、私とアルテ様は強盗三人組に囲まれていた。この眼鏡が貴重で襲われ指数が高いっていうことをすっかり忘れていたね、本当に強盗が現れてしまったよ。強盗二人の手にはサバイバルナイフが握られていて、もう一人は少し離れて弓を構えているようだ。


「おら、そこの姉ちゃんも持ち物全部置いていけや、おら。おっ?なかなか良いスタイルしてんじゃねえか、おら、こっち来いや、おらっ」


── カチン! ──


 強盗がアルテ様の腕を掴んだ瞬間に私の頭が真っ白になり、背負っている剣を抜きながら大声で叫んだ。


「ちょっとっ!私のアルテ様にさわるなんてっ!あんたたちこそっ!命までは取らないからっ!覚悟しなさいよっ!」


 アルテ様の腕を掴んでいる男に何のためらいもなく斬りかかる。驚いた男はアルテ様から手を離し私たちと距離を取る。


「おいおい、やる気か?ちっこい嬢ちゃん、剣が届いてねえぞー?ギャハハ」


 なんかすごくむかつくので、まずは危険そうな弓の男に斬りかかる。砂浜なので足場が安定せずうまく動けないけど、この強盗たちからは北の森でやっつけた大イノシシと比べたら怖さを全く感じない。えいやあっと飛び込むも弓の男の身体に剣は届かなかったけど、弓の弦だけびよーんと切断することに成功した。偶然とはいえ、これでひとまず遠距離攻撃は怖くなくなった。良い作戦なのでまた使おう。


「えいっ!」「えいっ!」「えいっ!」


 私が体勢を立て直していると、アルテ様が新しく作った竹の杖を振って静電気魔法を使う。あれから少し威力が上がっているかな?弓とは別の男に簡単に当たり、砂浜に尻もちをつき痙攣してしまった。すかさずもう一人の男に斬りかかると見せて、フェイントで私も静電気魔法をえいえいと使う。


── ビビビビリビリビリーっ! ──


「ぎゃああーーーー!」


 うおっ!なんか威力がすごいんだけど!あそっか、海水でさらに効果が増幅してるのかな?残りの二人を見事に気絶させ、近くに都合よく落ちていた漁用っぽい網で三人を捕縛する。おまけでもう一発静電気魔法を「えいっ!」とかけてると全員が泡を吹いた。やばい、効きすぎたかな?眼鏡でむむっと見てみると酸欠っぽい。死ぬほどではなさそうなので、お仕置きにはちょうどよかったかな。


 私と違ってアルテ様はずいぶんと冷静で、私が漁の網でぐるぐるしている間に港町の人を呼んできてくれた。


「あー、こいつらか。よく捕えてくれたね剣のお嬢ちゃん。こいつらは町の中でもやっかいなチンピラでね、護衛を呼んでくるから、もう少しこいつらの様子を見ていてくれよ」


 しばらくしてやってきた町の護衛に網でぐるぐる巻きの盗賊三人組を引き渡し、達成感を味わいながらアルテ様と一緒に宿に戻った。アンドレおじさんにその事を報告すると、なんだかとても複雑な顔をして少し怒っていた。ちょっとくらい褒めてくれてもいいのにね。



 翌日、早めの朝食を終えた私はアルテ様と手を繋いでお散歩に来た。砂浜はもうごめんなので、漁師っぽい人が行き交っている船着き場まで来た。朝日が海に反射してとても綺麗だ。


「海がキラキラ光って綺麗ですねえー」


「ナナセは海に囲まれた国で育ったのですよね」


「アルテ様、私は都心で育ったから海なんて年に一度か二度くらいしか見ないですよ。日本が島国で、みんな海沿いに住んでいると思っているのは外国人の偏見です」


「そ、そうよね、わたくし何も知らなくて・・・」


 ありゃ、久しぶりに自信なさそうなアルテ様になってしまった。ごめんね、言い方が悪かったかも。これから結界破りをしてもらわなきゃならないし、話を変えて元気になってもらわないとね。


「海鳥がいっぱいいますねー、白くて綺麗です」


「ほんとうね、白い鳥はとても優雅に見えて、わたくし好きなのよ」


 あれはカモメかな?みんな似てるのでよくわからないけど、たまに海面に向かって急降下し、魚を咥えて再び飛び上がり、そして陸地でゆっくりと獲物をつついている。


 こういう景色いいね。アルテ様と二人ならずっと見ていられるかも。


「よし、俺は準備できたぞ。みんなはどうだ?」


「はいっ!」「ええっ!」「がうっ!」


「じゃあ出発進行ぅ!」


 アンドレおじさんが大きなリュックを背負い、シンくんはお財布係、アルテ様はポシェットのようなかばんと竹の杖、私はひょうたんとバスケット、背中に剣を背負ういつものスタイルで南の屋敷へと出発する。屋敷への道は二つあり、直線で進めるけど砂で歩きにくい海沿いルートと、馬車も通れるような歩きやすい内陸ルートだ。私たちは当然内陸ルートを選び、少し気合を入れて屋敷を目指す。


 港町からも見えていたけど、道の東側には小高い山があり、西側には草原を挟んで海があるはずだ。草原と言っても草の高さは大人の身長よりも高く、簡単に立ち入れるようなものではない。


「そういえばアルテ様は結界に抵抗できるような魔法が使えるんですか?」


「どうでしょう?行ってみなければわかりませんけれど、ほんの少し邪魔をするくらいならできると思いますけれど・・・」


「まあ、できなきゃ屋敷の前で酒でも飲んで騒いでみようぜ、うるさくて出てきてくれるかもしれねえ」


「怒って殲滅されたら困るからやめて下さい!」


 屋敷までの道中はのどかだ。港町まで一泊の旅をしたせいか、ひたすら歩いて道を進むということに身体がずいぶん慣れてきたのだろう。目的地も近いとわかっているので足取りは軽く、途中一度の休憩を挟んで屋敷があると思われる林の前までたどり着いた。半日と聞いていたけど、そこまでの時間はたっていないね。


「確かに、何も見えないし人の住んでいるような気配もありませんねえ。この林で合ってるんですかね?」


「なんせ何百年も誰にも会ってないらしいからな、ここから林に入ってゆっくり探しながら歩くしかなさそうだな」


「なんだか薄暗くて怖いですねぇ、北の森に少し雰囲気が似ています」


 屋敷の林は北の森ほど広くはなさそうだけど、いかにも人の手が入ってない雑木林で、好き勝手に木が生い茂っている。林の中を飛んでるのはカラスやコウモリなどの黒い系で、襲ってくるわけではないけどなんとなく怖い。そんな中をけっこう歩いたつもりだったけど何も見つけられず、一度休憩することにした。


「なにもねえな」


「困りましたね、外から見たらそんなに広い林には見えなかったのに。もしかして迷いの森的な力で同じところぐるぐる回っているのでしょうか?」


「ああー、ありえるかもしれねえぞ、エルフが使う幻術みたいな罠だな、俺も聞いたことがある」


「エルフいるんだ!」


 エルフは妖精族に含まれ、魔人族の先祖のような存在らしい。そういえば妖精族からが派生した魔力の強い人が魔人族って前にアルテ様が教えてくれたっけ。やっぱ耳が長くて弓矢が得意なのかな?たぶん綺麗な人やかっこいい人が多いんだよね、会ってみたいなあ、でも人間が嫌いだったりするのかな?・・・っと、今はそれどころじゃなかった。もし何かの術で惑わされているなら、いくら歩いても屋敷に辿り着けないよね。


「アルテ様、空間を捻じ曲げるような魔法なんてあるんですか?」


「どうでしょう?見えている景色を歪ませたりすることは可能かもしれませんけれど、それは迷彩のように錯覚を利用する方法になると思います・・・わたくしにはできませんけれど・・・」


 うーん、方位磁石とか持ってくればよかったかな?太陽の位置はこの薄暗い林だとまったく確認できないし、こういうのはマッピングしながら進むしかないよね。でも、紙もペンも方眼紙もないから記憶するしかないかな?


 よぉし、いっちょ集中して頑張ってみようか。


「そうですね・・・まずはここに大きな穴を掘りましょう、それをスタート地点とします。そして木に目印を付けながら進みましょう、二本の木にそれぞれ○と×に数字を振ったものをナイフで刻んで、その間を通るようにして方向感覚を失わないようにします。それと私の焼き菓子を崩しながら意図的にこぼして歩きましょうか、シンくんはちょこちょこマーキングしながら進んでちょうだい、これは迷彩対策になると思うので大切なお仕事なの。アンドレおじさんは常に右側、アルテ様は常に左側の景色を見ながら進んで下さい、岩や水たまり、変わった形の木なんかの目印になりそうなものにも数字を振って行きたいので私に声をかけて下さい、私は先頭を歩数を数えながら歩きます、できるだけまっすぐ進んで、屋敷よりも先に、まずはこの林から海側に直線的に進んで抜けられるかどうかを確かめたいと思います」


「お、おう。すげえな、ナナセは・・・」


「ナナセは迷ったことがあるのですか?このような森で」


「い、いや、思いついたことを全部言っただけで・・・」


 私は思いつく限りの対策をたててこの林を突破する準備を整えた。二人が「ナナセは天才だ!」とか言ってるけど昔ゲームとかアニメでやってたようなことを適当に言っただけで、天才とかそういうのとは違うんです。ごめんなさい。

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