1の14 初めての狩り




 今日は狩りに誘われているので非常に楽しみにしていた。イノシシ戦惨敗から数日、私は剣の修行をほとんどしていないけど、頑張って畑を耕して鍛えてたし、少しくらいそれっぽいことができるだろうか。


「ヴァイオ君、おはようー」


「なナナセさん、おっ、おはようございます」


 ヴァイオ君は礼儀正しい子で、私よりも少し年上だろうか?背が高く、体つきもしっかりしている。村の南側にある小さな山でたまに狩りをしているらしく、私のことを誘ってくれた。


「ヴァイオ君は弓を使うんだ?なんかかっこいい」


「そっ、そんなことないですよっ!」


 少し照れ臭そうにしているが、子供にしてはずいぶんと大きめの弓を誇らしげにこちらに見せてくれる。背中と腰には矢が入る細長い籠がかけられており、逆の腰にはサバイバルナイフのような剣を持ち、見た目は完全にプロの狩人だ。


「今日は初めてなので、二人で最低でも小さいのを何か一匹捕まえるのを目標にしましょう」


「うん、私頑張るね!」


 私の装備はいつもの剣と、今日はロープをたくさん持ってきた。ゼル村の狩りは最低二人で行動するのが基本らしく、一人は必ず弓を装備し、もう一人がロープや網を持って行くそうだ。


 普段は大人の補助をしているヴァイオ君はロープ係になることが多いけど、今日は初心者の私と一緒なので弓を持っている。


 その弓矢は自分で作ったものらしく、両親は鍛冶、木工、金物、革製品など、色々なものを製造する工場を営んでいるそうで、ヴァイオ君の神命は“製造”らしい。神命は親から遺伝することが多く、家族何代にわたって同じお店を引き継いでいくのが、この世界の常識みたい。


「あっちに見えるちいさな山に向かいます。狩りで山に入ると休憩しにくいから、軽く食べながら歩いて行きましょう」


 お弁当を広げて食べてる最中に、せっかくの獲物を逃がしてしまっては意味がないもんね。


「うん、そう聞いて果物を何個か持ってきているんだ」


「僕は鶏肉のサンドイッチです」


 村の南側の牛さんエリアを食べながら歩いていると、エマちゃんが私を見つけて手を振ってきた。


「ナナセちゃーん!気をつけてねー!」


「エマちゃんも頑張ってー!」



 ちいさな山と言うより大きな丘の上が林になっている感じの場所についた。高低差はあまりないけど、けっこう広い範囲に木が生い茂っていて、上から湧き水のようなとても小さな川が流れてきている。その川の近くに大きな石と木の机のような台があり、狩人はここで捕まえた獲物をさばいてから持ち帰るのだろうか。なんか血とか毛とかついてて怖い。


「この山にはどんな獣が出るの?」


「そうですね、一番捕まえやすいのがウサギです。あとは鹿やタヌキも捕まえやすいですね。このあいだナナセさんが捕まえてきたイノシシはめったに捕まえられない大物ですよ、イノシシは怒って向かってきたり、逃げ足が速かったり、なかなか動きが読めないので難しいです」


「あはは、捕まえたのはアンドレさんだけどね。私とアルテ様は完全に囮の役割だったよ・・・」


 さっそくこの山に切り入る。ここからはあまり声を出したり、歩く音もたてないよう気を付けなければならない。獣は人間より何倍も音に敏感らしいらね。


「まずは山の中にある池まで行きましょう」


 コソコソ声でヴァイオ君が行先を教えてくれる。私はコクリとうなずき、山道を登って行く。道とは呼べないけど、誰かが立ち入った後っぽく、草木が避けられた部分を足をすべらせないように気をつけて歩く。しかし山歩きに慣れていない私は岩がしめっているところで滑って転んでしまったけど、すぐにヴァイオ君が戻ってきて起こしてくれた。


「滑りそうなところを歩くときは、剣を杖にして歩いたら良いんじゃないかな?僕も弓を杖のように使って確認しながら歩いてるんだよ」


「なるほど、ありがとヴァイオ君」


 照れ臭そうに私の腕をつかんで起こしてくれたヴァイオ君だけど、これ以上は迷惑かけられない。剣を杖のように使いながら転ばないように気をつけ歩いていくと、目的地である池が見えてきた。ヴァイオ君は道から外れて木と木の間から池の方を見ていて、近づく前に入念な確認をしているようだ。


「いたっ、カモだ」


「鳥なんて捕まえられるの!」


「シーっ」


 視点をカモから外さないヴァイオ君に怒られてしまった。何も言わずにおとなしくついて行こう。杖にしていた剣を背中のさやにもどし、ロープを両手で持つ。カモは全部で三羽いるけど弓は一本なので、もし当たっても二羽は逃げてしまうだろう。私は緊張しながらヴァイオ君が弓を放つのを待つ。ゆっくりゆっくりと進みながら、狙いを定め・・・


── ビシュンっ! ──


── グアっ!バシャバシャバシャ! ──


「すごい!当たった!当たったよ!」


「ナナセさんロープで捕まえて!」


 池の中でバシャバシャと暴れるカモを捕まえるため、服が汚れることなど全く気にせず大慌てで池の中に入る。底が柔らかくて歩きにくいけど、せっかくヴァイオ君が矢を当ててくれたんだし、早く捕まえないと!


「暴れるるるるるううう!」


「羽ごとロープでぐるぐる巻きにしちゃってー!」


 大暴れしていたカモは、だんだん弱ってきたのか私でもなんとか捕まえることができた。池からカモを連れて水辺まで戻ってきた私は、思わずお尻から座り込んでしまった。


「ふぁー・・・カモ一匹捕まえるのも大変なお仕事だねえー、逃げちゃわないで良かったー」


「ナナセさんのおかげだよ、カモは矢が当たっても飛んで逃げちゃうことがあるんだ」


 それ知ってるよ、矢ガモ事件ってやつだよね。どの世界でもカモはたくましいようだ。今日の目標は二人で一匹だったので、池より奥まで行かずに山のふもとの水場まで戻ってきた。山歩きは慣れていないので、滑らないようにへんなところに力が入っていたのだろう、移動距離のわりに足はパンパンだ。こんなことでは旅行どころか、この村から出ることさえきない。足腰も鍛えないと。


 ヴァイオ君はカモの首をサバイバルナイフで叩き落とし、羽をむしって内臓をずるずると引っ張り出した。あまり見ていたくはなかったけど、この世界で生きていくには覚えなきゃならないことなので、簡単に手順を教わりながらよく見ておいた。前世で料理するときに使っていた鳥の肉は、ここまで終わっているものばかりだったので勉強になる。


「ヴァイオ君、狩りもできるし武器も作れるし獲物もさばけるなんて、すごく頼りになるね!」


「そっ、そんなことないですよ、ナナセさんだって初めてなのに躊躇なく池に入れるなんてすごいです。それに大人でも収穫なしなんて日、結構多いんですよ」


 ヴァイオ君は相変わらず照れ臭そうにしながらも誇らしげにさばき終わったカモを片手でかかげ、私はパチパチパチと拍手をした。



「おお、初めての狩りでカモを仕留めたのか。やるじゃねえかナナセ、ヴァイオもよくやったな!」


 村に戻って商店街にある食材屋にカモを持ち込み、ヴァイオ君と私は純銀貨一枚=千円くらいづつ受け取った。


 今日は池に飛び込んで服がずいぶん汚れちゃったから早く帰ってアルテ様と一緒にお湯ざぱーしたい。イノシシとかにに襲われなかったし、無事に狩りの獲物を持ち帰ることができて良かったよ。

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