1の15 初めての休日




「今日は年に二度ある連休なんですって!」


「ええ、神父さんに教えてもらったわ」


 この村にやってきてから慣れない肉体労働を頑張っているので、今日はゆっくりしようと思う。毎日帰りは手足がプルプルしていたけど、不思議と翌日に疲れは残っていない。むしろ調子いいくらいだ。


「そういえば、この星の暦ってどうなってるんだろ?アルテ様は知っていますか?」


「ええ、神父さんに教えてもらったわ」


 創造神は教えてくれなかったのだろうか、とても親切な神父さんのおかげでアルテ様もずいぶんと村になじめているようだし、今度ごあいさつに行ってみようかな。


 暦の話をまとめると、一週間は六日間で、月曜、火曜、水曜、風曜、土曜、光曜って呼ぶらしく、普通は光曜日がお休み。五週間三十日が一か月で、一年は十二か月の三百六十日。なんでも王都に太陽の位置をひたすら観測している人がいて、六月と七月の間で二日間、それと十二月と一月の間に三日間、ずれた太陽の位置を合わせるための予備日があって、合計三百六十五日。


 地球のうるう年みたいなのを毎年やってるってことだね。なんか合理的だ。ただ、こんな田舎の村だと暦を気にしてる人なんてほとんどいないから、光曜のお休みと予備日の連休だけわかっていればいいんだって。これってつまり太陽暦ってことだよね。一か月の基準も月とか太陽の位置で決まったらしいし、なんか地球と似ていてわかりやすい。新しいことを覚えなくていいのは助かるよ。


「そうなるように作ったと創造神様から聞いています」


「そっかー、地球を使ったモデル星みたいなものなんですね、なんだか神様のおもちゃみたい。そういえば、神殿の鐘はどうやって時間を知らせているんですか?」


「それはね、砂時計が何種類か置いてあるのよ」


 神父さんが砂時計で時間を確認して決まった時刻に決まった回数の鐘を鳴らしているらしい。寝坊したら大変じゃないかと思ったけど、日中の鐘は少しくらいならずれてもセーフっていう感じで、けっこうアバウトに鳴らしてるそうだ。


 アルテ様いわく、正確な時刻の管理は王都がやっていて、予備日に調整した絶対にずれない謎の一日単位の砂時計が年に二回、神殿に運ばれてくるそうだ。その一日単位の砂時計を基準に、四時間とか八時間刻みの砂時計をそれぞれの村や町にある神殿で手動でひっくり返してるらしい。それなら最悪、二十四時間ごとに正確な時間に鐘を鳴らせると思ったけど、どうやら一日を二十四等分するという時間の概念は無いらしく、四時間とか八時間の砂時計も「だいたいこんくらい?」みたいなとても適当な感じだそうだ。


「この連休が終わった頃に時間を合わせた一日単位の砂時計が神殿に届くらしいわ、王都の行商の方が商品と一緒に各地の村や町に運ぶことになっているそうよ」


「へえ、どんな商品があるんだろ、楽しみですね」



 今日はイノシシの燻製肉と、お給料で買った卵でベーコンエッグっぽいものを作ってアルテ様と一緒に朝ご飯にした。アルテ様はいつも果実水や紅茶の葉なんかを持って帰っきてくれる。久々に倉庫の家でのんびりとした連休の朝を過ごすことができているね。


「食堂はお休みの日でも夕方からやってるそうよ、あのお店だけは一年中まったく休むことなく営業していると聞いたわ」


「おかみさんたちすごいねえ、あの食堂がないと村人はみんな困っちゃいますね」


 実際、あのお店が無いと料理などできない独身の村人は食事にありつけなくなるんじゃないだろうか。


「そうだアルテ様、昨日トマトっぽい野菜を見つけたから摘んできたんですよ」


 私は道端で発見したトマトをバスケットに何個かほうりこんであったのを思い出し、何か作ってみようと考えた。あ、昨日より赤く熟してる感じがする。何作ろっかな・・・まずはトマトジュースがいいかな。


 熟したトマトを丁寧に湯むきして種も取り出す。砂糖や塩は貴重なので少しだけ入れて、かまどの弱い火で加熱していく。これで少しは日持ちすると思うけど、私の場合は眼鏡があるから傷んでいるかどうか念じればわかるのでさらに安心安全だ。


 そういえばトマトの種って地球ではそのまま流しに捨てちゃっていたけど、ちょっと倉庫の家の裏に植えてみようかな。


「ねえねえアルテ様、一緒に家庭菜園を作りませんか?」


「ええ、いいわよ、倉庫にくわがいっぱいありますものね」


「太陽がよく当たりそうな東側の壁際の土を耕しましょうか」


 私とアルテ様は倉庫の家の壁際にちょっとした菜園を作ってみた。肥料とか何をあげればいいのかわからないので、さっきの卵の殻とかトマトの皮とか果実のヘタなんかを適当に土の中に埋めてみる。あとでアンドレおじさんに肥料をもらってこようかな。


「ねえナナセ、肥料がわからないのであれば、この土に向かって治癒魔法をかけてみませんか?」


「おおなるほど!私もちょうど魔法の練習になるかもしれないからアルテ様の真似してみます」


 こんなことが上手くいくとは思えないけど、たぶん治癒魔法なら害にはならないよね。私はアルテ様みたいな杖を持っていないので、剣の先から魔法を撃つような感じで土に向かって癒しのイメージを流し込んでみた。


 人に癒しの魔法を使う場合は医学的な知識があった方がいいみたいで、アルテ様は神父さんに簡単な人体構造の講義を受けているらしい。だからと言って土や植物の構造とか考えながら魔法を使ったわけではなく、私はひたすら剣を振りまくった。


「えいっ!」「えいっ!」「えいっ!」「えいっ!」

「えいっ!」「えいっ!」「えいっ!」「えいっ!」

「えいっ!」「えいっ!」「えいっ!」「えいっ!」

「えいっ!」「えいっ!」「えいっ!」「えいっ!」


 二人で治癒魔法連発である。しかも効いてるのかさっぱりわからないけど、まあ練習だからいいよね。



「・・・君たちは壁に向かって何をしているのかね」


 通りがかったアンドレおじさんがジト目でこちらを見ている。


「あっアンドレさんえいっ!おはようございますえいっ!」


 ちょうどいいので土を耕してトマトの種を植えたことを説明して、いい肥料があったらわけてほしいとお願いしてみる。


「トマト?ああ、あの青臭い果実みたいなやつか、あれは駄目だ、水っぽくて甘くもないし美味くねえ。家畜の餌にもなんねえよ」


「青いの食べたらそりゃあ美味しくないですよぉ、赤くよく熟れたやつは色々な料理に使えて美味しいんです!」


 この村ではあまりトマトは大切にされていないようで、甘くない果実扱いらしい。たしかに食堂でもトマトソースとか見かけなかった。アンドレおじさんに果実用の肥料を少し分けてもらって菜園にまくと、井戸から水をたくさん汲んできて、翌朝からアルテ様と交代で仕事に行く前にたっぷりまくことにした。



── 連休が終わって数日後 ──


「アルテ様!すごい!もう芽が出てきましたよ!」


「あら!本当ね、植物はたくましいわね」


「私たちの魔法が効いたのかもしれませんよ」


「うふふ、そうだといいわね」



── さらにその数日後 ──


「どうしよう、育ちすぎぃ・・・」


「これは支えるための木が必要そうですね・・・」


 よく地球でみかけた竹の色をした棒を思い出し、近所で似たような長さと太さの枝をたくさん拾ってきて支え木にしてみた。


「こんなところで栽培とは、お二人はやっぱり変わっておるのぉ」


 村長さんが微笑ましそうに私たちの菜園を見ている。これは問題なくお許しが出たってことでいいよね?





あとがき

暦とか貨幣価値とか、なんか設定の説明臭い文章がぽつぽつ入っちゃってすみません。もっとこう、サラッと流れるように書きたいのですが筆者の修行が足りなくて……。こういうチマチマした設定は覚えなくても読めるようなお話を書くよう心がけていますが、今後もし要望があるようでしたらどこかにまとめてみます。

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