第131話 遅れてきたラッキースケベ神

 病院に診察という名のカウンセリングを受け、アニスミアでカレンさんにほっとかれて帰路につく。


 アスファルトから照り返す太陽光というか太陽熱というか……もろに突き刺さって痛い。

 東京のように五輪に向けて反射熱を落とす効果のあるアスファルトにする工事なんてこんな田舎町でしてくれるはずもなく。

 サーモスコープで覗いたら真っ赤な地面である事は明らかである。


 直射日光と反射熱にやられ、正直汗だくだ。

 病院とねこみみメイド喫茶内が快適快温度だったために、今が夏だという事を一瞬忘れてしまっていた。

 普段着の人はみんな半袖だよ、もしくは日傘差してるよ。

 俺は夏でもスーツの時は長袖着てるけど……だから半袖焼けなんてない。ないったらない。


 そういえば小学生の時はスク水焼けしてる女子のお尻のラインを見ていてともえに怒られた事があったな。

 さて、そこで疑問。

 スク水焼けするのはわかる。男子も女子も日に焼けたらそこの皮膚の色が変わるのはOK。

 日焼け止め?そんなもん邪道だ。小学生は高校生以上の年齢程そのあたりは気にしない。


 色の違いがわかるという事は、焼けていない部分をも見たからである。

 教室で男女の区別なく着替えていたのだから、見ても見られても仕方がないのである。

 というか、その年齢で男女の身体の違いをそこまで意識している人がどれだけいるだろうか。

 一応着替えるための輪っかになったタオルは使用している人が殆どだったけれど、それを使わない人も一定数はいた。

 それ故に否応なしに見えてしまったというのが正しい。

 でも茶色に焼けた肌と素肌の白のコントラストが綺麗だと思った事は否定しない。

 幼心にこれが健康美かと思っていた。


 小学1年生の時の話であった。


 なぜこんな事を今思い出したのか。

 もうかなり昔の話だというのに……これはあれか。何かのフラグというやつなのか。



☆ ☆ ☆


 家に帰って汗でも流そう。

 そしてうんと冷えたウーロン茶か麦茶を飲もう。キンキンに冷えたドクペでも良いかも。


 アパートの階段を暑さと熱さに耐えながら一歩ずつ昇っていく。

 踏みしめると疲労を実感する。まだそこまで歳は食っていないはずなのに。

 昨年は忙しすぎてそれすらも感じていなかったのかと、思い返すと余計に今の暑さがきつく感じる。


 そのため思考が若干鈍っているように感じる。頭が少しもわもわとしている。


 がちゃっと玄関の扉を開けて靴を脱ぐと靴下を洗濯機に入れようと……

 普段は開いているリビングと風呂場(脱衣所)を遮るスライド扉をガラっと無造作に開けた。

 開けてしまった。閉まっているという事はその先に誰かがいる可能性があるという事なのを忘れて。

 うちの洗濯機は脱衣所と洗面所と同じ空間にある。その先に風呂場(湯船)がある。


 これは言い訳ですね。はい。

 扉を開けると、下着……可愛く言うならばパンティ、ギャグっぽく言うならばおぱんつを穿くために片足を突っ込みかけていた悠子ちゃんが、顔をこちらに向けて固まっていた。


 お泊り会をしていた時には一度も降臨する事のなかったラッキースケベ神が、あの時は仕事をしなくてごめんねと言わんばかりに仕事をした。

 これ、ラッキースケベ神の仕事と言えば聞こえが良いけど、世間一般で見たらダメなやつじゃ……

 「……ぅ……ぁ……」

 ほら、悠子ちゃんの言葉が小文字と三点リーダーだけになっちゃったよ。


 俺は黙って扉をスライドさせた。

 まるで犬の毛にでもローラーが引っかかっているかのようにぎこちなく閉まっていく扉。

 犬も猫も飼ってないけど……


 額を扉にゴンっと勢いよくつけて「ごめん。ナニも見えてないからっ」と謝ろうとしたけど、流石にそんな嘘言い訳は通じないだろうなと思って止めた。


 「ゴメン。」と一言だけ呟いて冷蔵庫に向かった。


 さっぱりしたかったけど、喉を炭酸でイジメたかった。


 ドクターペッパーのペットボトルの蓋を開け、5回程一気に飲み干す。

 込み喘げる胃からの反乱を唾を飲み込む事で掻き消す。



 「甘い……」

 甘いのはなかったことにしようとしている俺の思考なのだが。


 なんて言えば良いんだ。JKのマッパとかやべーよ。それも下着を穿こうとしているところだから見えちゃってたよ。

 

 あれから10分しても悠子ちゃんが脱衣所から出て来ない事に不安を覚えた。

 泣いてるんじゃないかとか、怒りに震えてるんじゃないかとか、気を失ってるんじゃないかとか……

 不安と心配とが入り混じり焦りは止まらない。

 冷や汗が先程までの暑さとか熱さとかを忘れさせている事を実感させる。


 小学生までは何度も見てたじゃないか。本当に小さい頃はおしめだって替えてたじゃないか。何を今更緊張する必要が……

 そこで少しだけ実感する。悠子ちゃんを隣家に住んでいた幼馴染の妹から一人の少女である事を。


 自分の中でも不思議と感覚が変わっている事に気付いた。

 多分もう……ともえに似ているなんて事は頭の中には殆ど残っていなかった。


 やがてガララララと扉がスライドする音が聞こえた。


 そこから現れた悠子ちゃんは……



―――――――――――――――――――――――――


 後書きです。

 ラッキースケベ神様、それ一歩間違ったら人によってはトラウマだし、事案発生ですよ。


  

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