第129話 【閑話】喜納貴喜の再就職

 弟・貴志のとんでもない事実が発覚した。


 これまでにも女性絡みで散々揉め事を起こしていたのは知っている。

 その都度父が何やらしていた事は知っている。

 その後更なる揉め事になっていない事から、金銭と謝罪で押し込んだのだろう事は容易に想像出来るが。


 二股三股で円満に別れられないとかその程度だと思っていた。

 それが甘かった。10個も歳が離れ自分とは状況や環境が違うものだから、兄弟の事だからと言ってもあまり干渉してこなかったのがいけなかったのかもしれない。

 私は自分が大学生の頃に幼少の頃から仲の良い彼女と一緒になり、実家から離れるのが早かったため、実家の弟についてろくに知らなかった事がいけないのかも知れない。


 貴志と直接遊んだりしたのはいつが最後だったか。

 あいつが中学に上がった頃には一緒に遊んだ記憶がない。


 私は大学生の時、幼少の頃から付き合いのある女性と結婚をしている。

 父の仕事の関係で取引のある相手の子だった。

 幼少の頃からお互いが惹かれあっていた事もあるため、恋愛結婚でもあり政略結婚でもあると言える。

 

 大学を卒業後父の会社に入り、敷かれたレールこそあるものの、きっちり結果は残し実力とコネとで出世は早かった。

 そして20歳の時に学生結婚をするとともに直ぐ跡取りをという事で子をもうけ、13歳になる長女と10歳になる次女、5歳になる長男がいる。

 妻:つむぎ、長女:琴音ことね、次女:凛音りんね、長男:あおい

 みんな。全員可愛いのは妻に似たのだろう。決して親バカだからではないはず。


 結婚が早かったのは当時の会社の付き合いの事もあるので仕方ない。

 元々将来一緒になろうとお互いに言い合っていたので、それが早くなっただけの事。


 多少強引な事はあったものの、概ね順調な人生であった。

 昇進し職印が黒から赤に変わり管理者側の立場になると、会社の闇が見えるようになる。

 

 その最大たるものが叔父叔母夫婦の金銭の私的流用だった。

 それまでも小さい目は摘み取ってきており、会社の利益や公正さには貢献してきた。

 そこにきての大きな闇。


 証拠をかき集め叔父叔母夫婦を切るという大胆な行動に出た。

 ついでに他に関与していたものも同時に社内的に制裁・罰を受ける事になったけれど。


 一般社員からは恐れと憧れを抱かれるようになった。

 年上の身内にも容赦ないと思うところと、身内の癌をバッサリ切ってでも会社を良くしようとするところと。


 33歳で部長職までこれたのは実力・コネに加え、癌の排除の結果ではある。

 叔父叔母の席が空いたりというのは大きかった。


 そしてこれから……というところに弟・貴志の、ひいては喜納一族の闇が明るみになった。

 会社の女性が結婚する事になり、直接の上司ではないけれど数回の付き合いのある社員の結婚式に招待された。

 最近業績をあげた事もあり、褒賞を与えたという事もあり、彼女もその礼節的なものを感じたのかもしれない。


 結果、式に参加した事でとんでもない現実を目の当たりにすることになった。

 弟・貴志と弊社女性社員との間での不貞行為に托卵行為。

 貴志の行って来た他の悪事。

 それに伴い明らかになったグループ会社の製薬部門で研究所所長を務める親戚・貴文の悪事と反社との繋がり。

 

 式で明らかになった喜納グループの数々の悪事。

 色々揉み消してきていた父まで含めて喜納一族は終わったと思った。


 自身には直接関係なく知らぬ事とはいえ、私自身も知らないから関係ありませんというわけにはいかない。

 


 式の後、会社は一時業務停止となった。

 

 何も関係のない社員には本当に良い迷惑だった。

 唯一残された喜納として彼ら彼女らを路頭に迷わすわけにはいかない。

 ただ、どうすれば良いか。

 身近な者から声をかけていってはいる。

 業務停止が明けたら再建するので一緒に働かないかと。


 何人かは応えてくれたけれど、殆どが保留。数人に至っては辞めたいので保証をしっかりして欲しいとの事だった。


 会社のお金は使えない。取引のあった会社や同業他社に頭を下げ資金提供や、会社を辞めようとする者の再就職先について頭を下げに回っていた。 

 


 悩んでる時にある女性に声を掛けられた。


 「お困りのようですね。いきなりで不信がられるかも知れませんが手助け致しましょうか?」


 その言葉に最初は警戒を覚えた。唐突ではあるし、自分よりも若く見える女性にそのような事を言われても何を言ってるんだというのが素直な感想だろう。

 他の人でもそう感じるはずだ。


 しかし目を見た時、妙な説得力のようなものを感じたのは事実だ。

 話を聞いて貰いたい、そう思えるくらいには疲弊していたのかもしれない。


 結果として聞いて貰って良かった。

 玩具メーカーとしての喜納グループの社員をそのまま自分の保有する会社に雇い入れるというのだ。

 もちろん当の本人達がそれを希望すれば……だけれど。


 その話を社員達に伝えるとこぞって了承を得ていた。

 玩具……とは言っても殆どが大人の玩具ではあるのだけど。


 

 私自身警察の事情聴取は受けた。

 私には何も罪がない事、捜索によっても無実な事が明らかになったために、彼女の保有する会社の世話になる事が決まった。


 そこで最初の(大人の)玩具製作を任される。

 手足を拘束し3つの穴をピストンさせる玩具の開発だった。

 何やら近々使う機会があるから早急に形にして欲しいとの事。


 その後に改良が必要であればその時に改良すれば良いので、まずは試作品を一つ所望された。


 製品化出来ればそちら専門のホテルや撮影する会社に販売を考えているとの事だった。

 

 そして何度かの改良を施し、まずは試作1号機が役に立ったと報告を受けた。

 再就職先を訪問していた妻・紬が一つ欲しいと言っていたのが気になる。


 こうして喜納グループに勤めていた者の一部は見事に再就職を果たしていた。

 私の新しい肩書は……

 株式会社ミヤタ 健康器具・玩具部 開発製造主任 喜納貴喜となった。


 ちなみに我が家にも一台あの機械が届いた。

 妻のお願いに弱いのは世の旦那の常である。



―――――――――――――――――――――――――


 後書きです。

 喜納グループ社員の再就職先です。

 今入れる必要ある?とはありますが……



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る