第115話 ハーレム限定メニュー

 この二人は一体何の勝負をしようというのだろうか。

 俺にはわからなかったけれど、聞こうとすると……

 「お兄ちゃんには内緒です。」

 「黄葉さんには内緒です。」


 こう返されてしまうとこれ以上聞きようもない。

 乙女の秘密というやつだろうと納得する事にした。


 月見里さんのホットケーキが届いた。


 カレンさんがにまにましながら何を描くか待っている。



 「あ、あのうぅ……」

 周囲には聞き取れない声音量ではあるけど、いつのまにかくっつけられている机故にすぐ隣にいる月見里さんの声は俺には届いていた。



 「へ??」

 だからこそ、俺は月見里さんの言葉に対して2オクターブくらい高い声で返答していた。


 「だ、だからその……も、黄葉さんお願いします。」


 「かしこまりかしこー」

 小悪魔っぽい満面の笑顔で返答をするカレンさんがチョコペン萌えペンのキャップを取った。


 俺が困惑している間に悠子ちゃんの時に描いたものとは違った俺の顔が出来上がっていく。

 心なしか美化200%くらいされている誰だそれというイケメソが出来上がっていた。


 「美化はしてにゃいにゃ~。みずきちにはこう映ってるにゃ~。」

 にゃははと笑うカレンさんが小悪魔通り越して悪魔に見えるのだけれど、意図までは読み取れない。

 

 「実はカレンさんとも知り合いになってからは、イベントで会う機会があってみずきちがあだ名になりました。」

 月見里さんが解説してくれたので呼び方についてはあっさり解決したけれど……


 悠子ちゃんといい、なぜ俺を描いてもらうんだ?


 カシャカシャと撮影を始める月見里さん、それについで私も良いですか?と悠子ちゃんも撮影。


 これはなんだ、俺に対する羞恥プレーなのか。

 とカレンさんは去って行った。


 「こ、これは先程の悠子さんの気持ちが良くわかります。せっかく描いていただいた黄葉さんを崩す勇気が……」


 「いやいや、冷めちゃうから食べよ?勿体ないよ。」

 俺はいつの間にかツッコミ役になっていた。


 意を決した月見里さんはナイフを……あぁ俺の頭がぁぁあぁぁああ


 「い、痛ぇぇぇぇ……なんちって?」

 丁度おでこの当たりでナイフは止まり、ぷるぷるしてギギギとゆっくり首をこちらに向けてくる月見里さん。

 軽くホラーなその様子は俺の胸にズキリとくる。


 「そ、そういう(冗談)言う人嫌いです。」

 ぷく~としながら月見里さんが抗議の目で訴えかけてくる。


 「あ、ごめん。調子に乗りました。」

 「うん。お兄ちゃん今のはだめだよ。」


 「あ、ハイ。」


 「冗談です。」

何の漫才かコントだろうか。

あ、コメディだった。

☆ ☆ ☆


 「美味しかった~。」

 俺の描かれたホットケーキは今はもう月見里さんのお腹の中。

 あ、なんかこのフレーズ少しやらしい。


 「あ、萌えペンの残骸がついてますよ。」

 俺は紙ナプキンを取って左手を軽くあごに添えて右手に持ったナプキンで唇の端を拭う。


 「あ……」

 悠子ちゃんが何やら漏らした。


 「んん?」

 口を塞いでいる月見里さんも何か漏らした。


 「「おおおお。」」


 近くの客席からも何か漏れていた。 


 「萌え死させる気ですか黄葉さんは。もー」

 何やら月見里さんがぽかぽか叩いて抗議をしてくる。


 「う、うらやましい。」

 悠子ちゃんが何か言ってるけど……




 「はいはーい。こちら当店月曜日特別大サービス、Wあ~ん用ハーレム爆発すれば良いのにパフェにゃ。」

 実際運ばれてきたパフェには、あのばちばちする手持ち花火が文字通り火花をバチバチ輝かせていた。

  

 「あ、これがあのチラシに小さく書かれていたサービスなんだ。」

 悠子ちゃんがそんな事を言っているのだけれど、俺はそこまで細かく読まなかったから知らなかった。


 悠子ちゃんと月見里さんはこれまでの漫才じみた事がなかったかのように撮影タイムと化していた。

 


☆ ☆ ☆


 「「あ~ん」」


 どうしてこうなった!!

 俺は今四面楚歌とうのはこういう事なのだろうかと思っていた。

 からパフェを掬った女子二人からあ~ん攻撃を受けている。

 周辺の客達からは「ばーくはつ☆ばーくはつ☆」というコール。

 このパフェが運ばれてから、何故か正面の悠子ちゃんが空いている隣の席に移動していた。


 「「あ~ん」」

 一向に口を開けない俺にそろそろ痺れを切らしているのだろうか。

 これがあの隣人、小倉さんだったら「あ゛~ん!?」となりそうだと思ったけど。

 というかその小倉さんもカウンターからこちらを見ていた。

 その隣でカレンさんも見ている。

 当然他の手の空いているメイドさんも見ていた。


 天国だと思ったここは監獄だったのだろうか。

 

 「ご主人様ぁ、食べないとビデオカメラ回しちゃいますよ~。」

 痺れを切らしたカレンさんがやってくると爆弾を投下してきた。


 「わ、わかりましたよ。」


 仕方なく、仕方なくだよ。覚悟を決めて差し出されたパフェのスプーンを同時に口に入れた。


 「ヘタレめっ……」という声が聞こえた気がしたけど……


 甘いという感想しか出て来なかった。

 美味しいけどそれ以上に言いようのない何かが分泌されていたのか、あまり感じられなかった。

 特に周囲の目が……


 1.5人分はありそうなパフェはどんどんなくなっていく。


 俺は気にしていなかった。

 何をと言うのは、このパフェのために用意されたスプーンは3本。

 つまりは人数分である。

 先程あ~んされた時、俺のスプーンは手付かずである。


 何が言いたいかというと……

 間接キスしているんですよ、この女性陣。

 気付いてるのか気にしていないのかはわからないけれど。

 指摘するとまた時が止まってしまうので言わないけれど。


 二人共どう思っているのだろうか。

 そして何だろう。この中学生みたいな感覚は。

 久しく忘れていた感覚だ。


 「「あ~ん」」

 息を合わせたかのように両隣から再びあ~ん口撃ならぬ攻撃が来襲する。

 目線だけ動かすと周辺からは「はよ、はよ食え」としか受け取れない目線がこちらを射ている。


 「うぐぅ。」

 これを食べないと帰れませんなのだろうか。

 

 「最後のひと掬い、召し上がれ。」

 俺意外の全ての人が俺がこの二つのスプーンを口に入れるのを待っている。

 

 俺は覚悟を決め……パクっと同時に口に含んだ。


 「ヘタレご主人様めっ」と聞こえた気がする。

 


 二人がどう思ってどう考えて行ったのかはわからないけど、関節キスでこれだけドキドキしたのは本当に久しぶりだ。

 それだけ荒んでいたんだろうな。


 「「美味しい?」」

 両隣から同じセリフが同じように笑顔俺に突き刺さって来る。


 「あ、うん。おいしい。」

それ以外に何を言えと?


 「爆発しろにゃー」

 笑顔で拳を突き上げるカレンさん。

 「ばくはつしろー」

 続いて他の客達も続いた。普段は曲が流れて、店員も客もおしとやかで大人しい店内が喧噪に包まれた。

 お店が一つになった瞬間だった。

 全従業員と全客が泣いた。


 全ての飲食を終えた俺達は会計を済ませる。

 まとめて払おうと思ったら、月見里さんは自分の分は自分でと断ってきた。


 ポイントカードの事があるからか、社会人だからか。


 レジ打ちしている間に先程のチラシの裏をよく読んでみる事にした。


 「ハーレム限定、二人以上の異性とカップルのように過ごされた方限定、ポイント8倍。Wあーん用ハーレム爆発すれば良いのにパフェのサービス」と書いてあった。

 尚、ハーレムかどうかは当店のねこみみメイドの独断と偏見で判断させていただきます。



――――――――――――――――――――


 後書きです。


 もう少し細かく描写したかったけど、あと1話でメイド喫茶は終わりとした体があるので短くなりました。


 ハーレムは爆発すれば良いと思うよ。

 でもこのプチ旅みたいなのはまだ終わらないです。


 家に帰るまでが〇〇とは小学生の頃から言われていると思います。

 家に帰るまでが……

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