第109話 そうだ、病院へ行こう。

 土曜日の薬膳カレーは心を落ち着かせられた。

 不思議と安らぎを感じたんだ。


 食を題材にした漫画やドラマはいくつか見ているし、其処に出てくるうんちくは嘘臭いと思いながら見ていたけれど。

 癒す食って本当にあるんだなと思った。

 もちろん完全にどうのというわけではなく、ほっとするようなそんな感じ。


 だからだろうか。

 以前月見里さんに言われた通り病院に行くべきかもしれない。

 ふと、そんな事を思い出した。


 幸いにして月曜日は休みにしてあったので明後日行こう。

 その前に……


 風呂が壊れた。どうすれば良い?

 隣人に借りる。

 さて、どっちの隣人?

 大家さんの娘さんところは家庭あるみたいだし。

 小倉さんは……最後には普通に戻ってはいたけれど、少し顔を合わせ辛い。

 多分会えばこれまでと変わらないだろうけど。


 「極〇湯にでもする?」


 選択肢は選べないので悠子ちゃんはその唯一の選択をせざるを得ないのだけど。


 殆ど動かしていない車で行く事になった。

 アパートに駐車場はなく、近場の24時間最大250円駐車場の一部が月極となっており月3000円とお安い。

 都内だと万は行くだろう駐車場料金は田舎に来れば節約できる。

 

 かつてはともえが座っていた助手席に悠子ちゃんが座るというのも妙な感覚を覚える。

 もっともシートは替えてあるけど……


 風呂を沸かそうとしたらエラーコードが出たわけだけど、買い物の前に壊れているのを知っていたら最初からご飯も風呂も極〇湯で済ませたのになと思った。


 「多分、俺の方が先に出るとは思うけど、出たら連絡して。」

 俺は連絡先の書いた紙を悠子ちゃんに手渡した。

 受け取った悠子ちゃんはほんのり頬が赤かったけれど、出たら連絡入れますと受け取ると女湯の暖簾を潜って行った。

 

 出た所や、湯あみ処等場所を決めておけば良い話でもあるけれど、満員だった場合には他の場所に移動しなければ他の利用客の邪魔をしてしまう。

 あちこち見て回るのも時間を潰すにはちょうど良いと思った。


 考えてみれば、何気なく連絡先を渡したけれど前に教えてなかったっけ?

 色々なところでの登録電話番号を変更するのも大変なので、番号は変えていなかったりする。

 ネット通販だけとかなら気にしないのだけれど、公共料金等いくつもの登録電話番号が携帯電話だったりするので大変なのだ。


 悠子ちゃんに遅れる事数十秒、俺も男湯の暖簾を潜った。



☆ ☆ ☆



 極〇湯の湯船は数種類あるため、全部を少しずつ廻る。

 横になる風呂なんて、気持ち良くてそのまま寝てしまいそうだった。


 「うえぇぇぇぇぇぇぇい。」


 熱い湯に浸かる時、どうしてもおっさん臭くなる。

 熱いと言っても40度程度なのだけど。

 色々と身に染みて浄化されていく気がした。



 女性はどうかわからないけれど、温泉の時もそうなんだけれど……

 男というものはつい見比べてしまう。


 何を?ってナニを。

 良し、あの人には勝った。くそう、あの人には負けた……みたいな感じ。

 俺はどうなんだろう。ともえ曰く、普通よりは大きいらしい。

 あいつも二人しか知らないくせによく比較感想出来たもんだな。


 どうやらそういうビデオの男優を見ての感想だったらしいけど。


 男は大きさじゃねぇ、愛を以ってどれだけ倖せを感じさせてあげられるかだ。

 ……もっとも今の俺ではその機能は有していないので宝の持ち腐れではあるけど。


 それに使う相手もいない。



 などと湿っぽい事は置いておいて。

 湯を堪能したので、別れてまだ30分程度ではあるけど浴場の外で待つことにした。


 その前に……コーヒー牛乳を片手に一気飲み!


 大浴場入り口を正面に見ながら壁に寄りかかって待っているとじきに悠子ちゃんは出てきた。

 そして暖簾を片手に持ち上げている悠子ちゃんと目が合った。


 

 「もう、出たら連絡してと言っておきながら目の前にいるなんて卑怯……」


 「あ、ごめん。なんかあちこち一人で回るのもどうかと思って。」



 温泉宿ではないから二人共普段着であった。

 これが浴衣であったら二人して身体から湯気でも見えて……って何の想像をしているんだか。

 相手はJKだぞ。


 人込みにいるとセンサーが反応するのではという不安があったからあまりうろちょろしたくなかったというのも本音だった。


 本当なら湯上り処の奥に横になれるリクライニングルームとかもあるのだけれど、流石に誘う事はしなかった。



☆ ☆ ☆



 翌日曜日に給湯器の修理を依頼した。

 日曜でも受け付けはやっているのだけれど修理に来れるのは月曜日だという。


 俺は甲子園を見て、悠子ちゃんはを部屋でしている。

 今日の悠子ちゃんは少し変だ。顔が赤い。

 おでこを触っても熱くはなかったけれど……

 悠子ちゃんも体調は悪くありませんとはっきりと言ってはいるけど。


 そして今日も極〇湯へと足を運ぶ。

 最初からわかっているので、風呂上りにそのまま食事処で食べた。

 こういう施設も最近はどこも凝っているので、結構美味い。

 昨日の悠子ちゃんのカレーほどではないかもしれないけど。


 ちなみに前日余ったカレーは朝食に、そして昼にはドリアにして美味しくいただいた。

 

 

 

☆ ☆ ☆


 「それじゃぁ今日は病院に行く。悠子ちゃんは……勉強?」

 

 「うぅん。お兄ちゃんに付いて行く。」

 悠子ちゃんも俺が精神科へ行く事は察せられている。


 いつまでも女性が苦手なままだと色々支障を来たす、ここらで一度判断して前に進まなければという思いでもあった。




 「黄葉さん、黄葉真秋さん。第一診察室へお入りください。」


 流石に診察室まで悠子ちゃんを連れて行くわけにもいかないので、俺一人診察室へと向かうと……


 見覚えのある女性看護師と目が合った。




――――――――――――――――――――――――――


 後書きです。

 なんで悠子は顔が赤かったんでしょうね。

 もうわかってるとは思いますが。

 

 

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