第106話 それって同棲!?

 「ごちそうさまでした。」


 トイレ戦争は不戦勝に終わり、有り合わせの材料で手早く悠子ちゃんが朝食を作ってくれた。

 ホテルの朝食のようなありきたりなメニューとなったけれど、とても美味だった。

 野菜と卵とベーコンがあれば、それは立派なビジネスホテルの朝食である。


 「昔から勉強していたので頑張ったかいがありました。」

 泊めさせて貰うのだからご飯くらい作らせて欲しいという悠子ちゃんの要望に応えたわけだけれども。


 その結果は満足に足るものだった。

 飲食店以外で人の作るものを食べるのは久しぶりだった。

 もっともそれは必然的に前回人が作ったものとなると、ともえになってしまうわけだけど。


 テレビをつけると既に甲子園は大分進んでいた。

 試合も終盤、大盛り上がりしていた。


 ま、間が持たない……

 ともえと二人だった時、こういう時にはどうしていたっけか。

 あぁ、放送出来ない事ばかりだった気がする。

 そりゃ毎日ではなかったけれど。

 いちゃいちゃしている事が多かった気がしてきた。


 一人だった時はどうだったか。

 ゴロゴロしていただけか。

 

 「悠子ちゃんの部屋を作るか。着替えとかする時も自分の空間があった方が良いだろうし。」


 その提案に一度反対した悠子ちゃんだったけれど、置いておいてもらう事を考えれば家主の言う事はもっともだと判断し、最終的には条件を飲んでくれた。

 寝る時は怖いのでそこだけは昨晩のように同じ部屋でお願いと懇願されたけれど。


 ラノベ部屋にしている部屋を当面の悠子ちゃん部屋に提供した。

 正直片付けはほとんどしていなかったので、そこそこ時間を要してしまった。


 落ち着けたのは昼を過ぎてからだった。

 朝食が少し遅めだったので、ある意味では丁度良かった。

 

 「こんなにたくさん、凄い集めたね。」

 数えたらキリはないだろうけど、諭吉数十人分はトータルすれば使っているだろうか。

 1冊600円だとして100冊で6万円。

 1冊1200円だとして100冊で12万円。


 ここには100冊では利かないだけのラノベが綺麗に本棚に収納されていた。

 自分の部屋にも小さな本棚があり、そこにも30冊くらいは納められている。


 野球を辞めてからは、ヲタロードを突き進んでいたからな。

 昨年までともえがいながらよくこれだけの数を読んでこれたな。

 今考えてみると、七不思議に数えられそうだ。


 「好きに読んでくれても良いよ。どれも一度は読んでいるし。」


 「あ、うん。勉強の合間の息抜きに読ませてもらうね。」

 悠子ちゃんは真面目な性格のようで、こういう状況でも自主勉強は欠かさないようだ。

 学校でも家でも落ち着いて勉強出来ないので、自分の部屋を作ってくれたのは本当にありがたいと思って貰えたようだ。


 「違う意味で落ちつかないかも。」

 なんて言っていたけれど、それはどういう意味だろう。


 

 その後、昼食の焼きそばを食べた後、悠子ちゃんは勉強のために部屋に行った。


 

 さて……二つの問題に直面した。


 一つは洗濯。分けて洗濯すると水や洗剤の無駄遣いになるからと一緒に洗濯された。

 そしてベランダに干されている。

 日当たりは良いので昼前に洗濯して干していても、やがて程良く乾くだろう。

 問題とは……


 リビングから少し見えてしまうのだ。

 俺はもの凄く気にしてしまう。


 泊めさせて貰うために何でもすると言っていた悠子ちゃんは自身の言葉の通り、炊事も洗濯もしてくれている。

 良いのだけれど、やっぱり下着を洗ってもらい干して貰うというのは変な緊張が走る。


 まして、不可抗力であってもこうして干してあるモノが目に入ってしまうと、目のやり場に……

 下着なぞともえので散々見慣れたというのに。



 そしてもう一つの問題……

 夕飯の材料があまりないという事だ。


 買いに行くか、店屋物にするか。

 

 買いに行くなら一人でなのか一緒になのか。

 店屋物なら、食べに行くのか出前にするのか。



 こんな事に悩んでいるという事実に対して、嫌な気がしていないという事に気付いた。

 少しだけ、ほんの少しだけ、安心というか安らぎのようなものを感じている事に気が付いた。


 昨日あんな事があったばかりだというのに。


――――――――――――――――――――

 後書きです。

 おかしい。普通の同棲みたいになってきている。


 小倉さんちに住まわせてもらう方がまだ現実的なのだろうけど、他人だからなぁ。


 サブタイトルは1994年、それって日テレからオマージュさせていただきました。うちの学校の文化祭でも使ってましたしね。

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