ともえのしょくざい
第93話 本当のざまぁは裁判から戻った時に知る。
※裁判を傍聴した事ないので中身についての詳細は現実とは異なるはずです。
同窓会からの合コン、入院とあってから二日が経過した。
つまりは今日はともえの裁判の日。いや、審判の日……
田宮さんが進める弁護士と一緒に法廷へ。
事前の書類なんかはご都合主義ってあったんだというくらいで、ほぼ田宮さん側で準備していた。
こちらの話をしている中でそれを書面におこせるのは充分優秀だと思う。
そこにはともえの不貞や托卵、離婚して慰謝料計画のあらましなどが書かれている。
そして俺が何を求めるかも……
ともえの弁護士も田宮さんの息がかかっている。
ともえの主張する事も当然あるのだろうけれど、この裁判においては全てがともえにとっては敵である。
世間一般的には結婚詐欺等は民事で争われる。
通常、結婚詐欺・婚約破棄については以下の事が必要となる。
・法律で定められた権利や利益を侵害(不法行為)
・法律に基づいた契約を守らなかった(債務不履行)
これらが相手を悪と位置付けて賠償・慰謝料請求する際に必須となる。
・ともえの行為によって法律の定める俺の権利が侵害された。
・ともえは法律上の契約をしたにも関わらず、義務を守らなかった。
結婚詐欺にしても婚約破棄にしても、証拠を明確にするには中々難しいのが現実であるが、俺には映像という証拠があった。
それも第三者、公共というには特殊かも知れないが、ラブホテルの映像・音声、貴金属店でのともえと喜納の指輪選びの映像と店員の証言。
気が付けば裁判は進んでいき、次々と述べられている。
婚約破棄・結婚詐欺とするには妥当である。
結婚指輪の購入、それも結婚式の日付に間に合わせるために金銭を上乗せしてでも急いで製作して貰っており……
式場の予約、家族への紹介、式へ参列する友人・職場の上司同僚への紹介はなされており、婚約が正当なものであると判断出来るものとする。
そして、婚約破棄の理由として……
数々の不貞行為及び托卵行為。不貞に関しては婚約をした後にも行っておりこれを認めるものとする。
また、結婚後新郎を陥れ責任を一方的に押し付け離婚、多額な慰謝料請求を取ると不貞相手と計画。
他にも依頼人の婚約指輪を安いと貶しております。
加害者の不貞相手に妻子がいる事も証明されており、それを理解した上での不貞行為は充分に悪質と言える。
不貞同士で婚姻を結ぶという約束も口頭ではあるがなされている。
これらは充分に結婚詐欺と認めるに足ると判断する。
これら諸々は公共の映像と音声に残されており、証拠として採用するにも充分だという事が証明された。
交際期間は7年半、式場費用、指輪費用、精神的な苦痛を受け勃起不全となり治療を受けた診断書と明細書
不貞行為の回数は多く、その行為の場所や場面、最初はやや強引というよりは流されての事、媚薬の事、形だけとはいえ反省・謝罪の姿勢、収入・資産の大小、そして不貞相手の子を出産。
これらを加味して算出した賠償・慰謝料は500万円。これを多いと取るか少ないと取るかは自由であるが、EDに関してはいつ治るかもわからない。
医者に診断はされており、薬は処方されてはいるものの治る気配はない。
精神的なものだというのは言われているので、薬ではどうしようもないのかもしれない。
このまま一生治らず子孫が残せなくなるとなった時の損害は、金銭に代えられるものだろうか。
そこを金銭に代えるのが民事裁判なんだけれど、見込に関しては不透明なので妥協せざるを得ない。
ともえの口頭弁論はあっさりしていた。
式の時を考えれば下手な言い訳や自己主張で自分を正当化するものだと思っていたのだけれど。
「不貞行為も托卵行為も、その後の慰謝料要求計画も全て事実です。賠償も慰謝料も一括は無理ですが全て要求通り支払います。真秋の要求は全てそのまま従います。」
「ただこれだけは言わせてください。私は彼を愛しています。」
俺は気持ちが悪くなった。
この期に及んで愛を唱えるこの女に。
素直に認めたのも賠償なんかを支払う意思があるように見えるのも、ともえには希望があるからだろう。
先週生まれた喜納との子供が存在するからだろう。心に少しだけ余裕が出来たのだろう。
だが残念だったな……
ここで全てを認めさせ引けないところにきた段階でお前にはもう地獄しか待っていない。
今日の公判が終わってあの施設に戻った時が見ものだ。
俺はそれを知っている。だから裁判そのものは然程重要視していない。
田宮さんの身内で固められた裁判だ。こちらの要求通り事は進む。
法の中の公平?そんなものはまやかしだ。
本当に平等であるならば、歴代内閣総理大臣は倍以上の人数がいるはずだ。
各種大臣だってころころ入れ替わっているはずだ。
警察24時のような番組で捕まってるやつはもっと厳しい刑に処されたりしているはずだ。
どいつもこいつも嘘偽りを述べてるのにも関わらず、偽証罪が追加されていないのが不思議なくらいだ。
この世界での真の平等は、「生き物は生まれたからにはいつか死ぬ。」という事だけだよ。
だから俺は、正直式の費用の半分と勃起不全の治療費慰謝料が取れればそれで充分だと思ってる。
指輪は最悪水切りで遊べばいい。随分高額な水切りだけれど。物には罪はないから実際にはやらないけど、そういう気分という問題だ。
探偵費用は流石に取れるとは思っていない。田宮さんなら無理やり捻じ込みそうだけどそれはしなかった。
俺の口頭弁論も淡々としていた。
感情的になると場を乱してしまいそうだからだ。
式や宴であれだけの事をしておきながら乱したくないとは妙な事ではあるけれど。
「和解はしません。書面に記した通りの損害賠償と慰謝料と治療費を要求します。それと減額交渉には応じません。勃起不全も治っていないのだから追加請求したいくらいです。」
「そして、俺はもうともえの事は愛していません。酷い裏切りと精神的苦痛はともえからの謝罪などでは今生癒える事はないと思ってます。」
加えて二度と会わないという条件を加えたいが、目の前でざまぁを見届けるためには今これを盛り込むわけにはいかない。
だから事前の書面手続きで支払い時のみ面会を許可としている。この辺は田宮さんが巧い事やってくれた結果である。
こうなってくると精神科に行き女性恐怖症も診断書を取っておくんだったと後悔はしている。
最近知り合った数名の人達により、心に安らぎやゆとりをくれる女性がいたために、完全に失念していた。
先日月見里さんと知り合うまで精神科の事はほとんど眼中になかった。
尚も続き、ともえの処遇が決まる。
賠償と慰謝料と治療費で500万円の支払い。ただし一括は不可能なので現状支払い可能な200万円を一括で支払い、残りの300万円を毎月10万円ずつの分割支払いとする。
面会は振り込み出来ない場合に限り弁護士立会の元、可能とする。
不貞相手との間に出来た子供の親権は加害者に帰属はするが、育児は加害者両親に一任し面会は賠償や刑期を全て終えてから可能とする。
刑期とは今後行われる殺人未遂の刑事裁判の判決に準ずるものとする。
子供の話が出た時、ともえの表情が「え?なにそれ、そんなの聞いてない。」と、目を見開きメガネザルのようになっていた。
「あ……ぇ……ぁ……」
ともえがガクガクと震えているのが伝わってくる。
「先程自分で言ったよな。俺の要求には全て従うと。さぁ、よろこんでサインしろよ。」
ともえの弁護士は戦う気が一切ない。
それどころか、自分が言った事なので要求は飲むしかありませんよと言う。
本当であれば、「やれー大〇田―!!」のように「押せークソブタ―!」と言ってやりたいところだが自嘲した。
ぼろぼろと涙を流して震えている姿を見れているので、ここはそれだけで満足する事にした。
泣く泣く要求を飲む姿を見れたので満足である。あくまでこの民事では……
ともえが200万貯金していたのは驚いたけどな。全額分割かと思ってたし。
ともえには何も残さない。これまで貯めた金銭も未来に稼ぐ金銭も、子供も、若い時間も、自由も。
負の遺産を清算した暁には子供には会えるようにはなるけれど、その時果たしてまともな精神で会えるのかな?
そして殺人未遂は初犯とはいえ、妹に対する殺意があったのは映像として証拠が残っているために明白だ。
態々刃を上に向けてから刺しに行ったところが鮮明に映像として残っている。
諸々考慮して懲役3年くらいだろうか。
さて、そんな状況でどうやって毎月10万も支払うのだろうね。
利子をつけるとは明記していないけれどスタートが遅くなるのは明白。
その後の裁判では終始青ざめたともえがガクガクと震えながら受けていた。
終了した事にすら気が付かない。もはや心ここに非ず。
未だ隔離状態のともえは件の施設の過ごしなれた部屋へと戻ってくる。
がちゃっと扉を開けるとそこにいたはずの子供の姿が見当たらない。
「あ、あ、あ……ああいおんしなえいうhでえwbふぃうえwbfヴぇおんqkkあおwぱぁぁああぁ」
ともえの声にならない絶叫が部屋に鳴り響く。その声で部屋の壁の震えが可視化出来てしまうかのように。
赤子の居たはずのベッドに手と顔を埋めてorzの姿勢で、ただ泣きじゃくる事しか出来ない……
俺はマジックミラー越しにその様子を隣の部屋から眺めていた。
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後書きです。
本当に裁判内容については申し訳ない感じです。
いっそ判決だけ出して終わらせたいくらいでした。
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