第88話 病室にて……今晩は安静のため入院だそうです。

 「まぁ俺は元々当日誘われたから合コンの流れになるなんて知らなかったしな。」


 「そういえばそうだっけ、一人欠員出たけど誰かいないかって波多野から連絡きたけど、学校関係の知り合いでとなると結局野球部がメインになったからな。波多野と変わらんぞとしか返事してなかったからな。」


 「私は香里から久しぶりに連絡きたからたまには親睦深めるのも良いかなと思って。そういえば今彼氏はいるかとか、当日は少し気合入れてきてとは言われたけど、直前まで合コンとは気付かなかったよ。考えてみればわかりそうな事だったけど。」

 「あ、私もそうでした。正直スーツはともかく……普段こんな厚い化粧なんてしませんし。」


 「二人共そこまで厚くはないよ、気合は入ってそうだけど。」

 杜若はしみじみと漏らした。

 

 「今日は明けだったから……余計かも知れません。」


 「それじゃぁ本当は眠かったんじゃ?」

 俺は率直な質問を投げる。仕事明けで昼夜が逆転している状況で参加して……その参加した飲み会でまた仕事させてしまったような感じがした。

 少し申し訳ない気持ちになってきている。


 「そうでもないですよ。勤務上明日は休みですし。確かに眠くないというわけではないですけど、それよりも目の前で倒れた人見て放っておけるはずないですし。」


 「瑞希の場合は職業病というよりは元々の性格だけどね。」


 「確かにそうなんだろうね。普通の人は今日会ったばかりの人の嘔吐物がかかってまで助けようなんて思わないだろうし。」

 杜若の意見もその通りだと思った。

 さっき気合入れたとはいったけれど、今の月見里さんはジャージでノーメイクだ。

 時間にゆとりが出来たタイミングで着替えて落としたのだろう。


 「今言う事じゃないかも知れないけど、肩肘張った飲み屋の雰囲気より今の方がとっつき易いかなとは思う。素麺さんの言っていたセンサー的なもの?のせいかわからないけど、ギャルみたいな見た目とかぐいぐい来る系とかはちょっと苦手意識がついちゃったし。」

 それは見た目の問題ではあるけれど、後半のともえがそんな感じだったからだ。

 イメチェンと称して喜納から与えられたのか喜納に良く見られようしてそうなったかわからないけれど、清楚からはかけ離れていたからな。

 

 「高校時代の安堂は見た目に関しては清楚だったけどな。」

 杜若が何気なく漏らしたその言葉は事実であるが故に余計ギャップで苦手意識となるのかも知れない。


 「まぁ本当に去年の6月初めくらいまではその通りだったよ。見た目が変わってきたのは秋くらいだけど、年明けはもう別人だな。」

 「同窓会開いて全員参加したら、最後までアンタ誰!?とスチャダラパーの曲みたいになると思うぞ。」


 

 言い辛そうにしていた杜若がそわそわしていた。

 杜若がその前に女性陣二人を見やった事から自分が悪者になってでも何か聞こうとでもしているのか……



 「なあ黄葉……ビフォーアフターはあるのか?」

 ほらやっぱり。杜若の先走りかもしれないけど。


 「まぁああいう言い方したら気にはなるよな。そういや本人との絶縁はしたけど、データの削除とかはしてなかったな。」


 別に今更減るもんはないし……

 いや、精神は削られるかもしれないか。

 それでもお互い言いかけた事だし、もしかすると不能改善への道が出てくるかも知れない。

 そう思って3人に6月以前、温泉の10月末、クリスマス、妊娠がわかっておじさんに娘さんをくださいと言った日。

 

 「徐々に変わってくな。これ、徐々に映像が変わっていって気付きましたか?ってクイズ番組に似ているな。」

 「6月と1月を見たら違いにあっさり気付くけど……」


 「いや、これ別人でしょ。」

 「……」


 「まぁあの時は見た目の変化に関しては前の方が良かったのになくらいにしか思ってなかったんだけどな。全てがわかってからはその最後の姿が憎くて憎くて……」

 「全てが終わったからか、そういう姿が受け付けなくなったのかも知れない。思い出してみると、電車の中でも気持ち悪くなったのは化粧が濃いめの若い女性だった気がする。」

 「多分それだけじゃないんだろうけどさ。」



 「まだ23、今年24なんだし人生はこれからだよ。」

 「そうそう。私達もフリーだしね。」

 「ちょ、ちょっと。」


 元気つけようとしてくれるのはわかる。気分が悪いのを忘れさせようとしてくれてるのもわかる。


 でも本当の意味ではまだ全てが終わったわけではない。

 


 その後は軽い世間話をして過ごした。

 病室内なので大きな声は出さないし、面会時間も本当は過ぎている。

 緊急搬送という事と、月見里さんの勤める病院だからか気を利かせて貰えたのだろうか。


 びっくりしたのは同じ市内なのにこれまで出会ったという認識がないという事。

 同市内の隣の高校……つまりは柊さんと同じ学校だったという事。学年は違うからそうそうお目にかかる事もなかったそうだけど。


 「流石にこれ以上は病院にも迷惑だよね。」

 杜若が時計を見て切り出してきた。

 俺はこのまま一晩は様子見を兼ねて入院らしい。


 先程会社に連絡も入れた。驚かれたけれどどうにかなるそうだ。

 心配もされたけど、今のところは大丈夫な旨も伝えておいた。



 「じゃぁ私も帰るよ。何か機会があればまた集まったりもしたいね。」

 素麺さんは明るい性格のようだ。今日の事も新たな出会いと捉えている。


 「それじゃぁ私は……」



 


 流石に4人いたのに1人になると急に寂しさのようなものが浮かんでくる。

 1月末以降慌ただしかったし、アパートでは1人だし、気兼ねなく他人と触れ合う機会がなかった。

 天城さんや田宮さん絡みはそういうのとは別物だったし。


 突然病室の扉が開いた。


 「あれ?月見里さん。帰ったのでは?」

 

 

 「心配ですし付き添いとして病室にいようかと……」

 夜勤でもないので休憩室等は使えないので病室での宿泊付き添いなら許可が下りたと。

 それでも充分職権乱用なんですけどねとは言っていた。


 「話している時の表情が辛そうに見えたので……」

 ともえに関してはざまぁしてすっきりなはずなのに、その奥を見据えられたのだろうか。

 心の底では誰かを求めているというのだろうか。


 

 

――――――――――――――――――――――――

 後書きです。

 

 入浴とか宿泊とか申請必要ですよね。

 その辺のもろもろはフィクションという事で。


 別に放っておいたら自殺するように見えたからとかまでの理由ではないけど。

 心配性なのです。


 

 

 

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