第74話 酔うのは嫌なので酔い止めに極振りしたいと思います。

 実家から帰宅し麦茶を飲んで一息いれているとインターホンが鳴った。


 18時~20時で配達を頼んでいた本棚とフィギュア用棚が届いたのだ。


 段ボールを開けて早速組み立てる。それだけで良い時間になったので収納するのは翌日で良いだろう。




 5月に入ると世間は暖かくなってくる。

 服装も徐々に薄いものに切り替わってきている。

 腕が見えるだけでもかなり違って見える。

 先日の悠子ちゃんの髪型一つで少し違ったものに見えるではないけれど。


 すれ違うその他大勢の女性の見える肌の量が増えるだけで、胸の7あたりと頭が重くなるのを感じていた。


 「やっぱりだめなのか。」

 怖いというのか気持ち悪いというのか。

 



 仕事が終わると珍しく同僚から飲みに誘われた。

 あまり酒を飲めない事を会社の人達は知っているので、飯食って少し酒飲んで最近どうだ?と話をしたいだけなのだろう。


 会社から近い居酒屋で4人で座っている。

 全員あの式に呼んだメンバーだった。


 「お疲れー。」×4


 とりあえずビールとか遅れてきた人の駆けつけ3倍とか一気飲みとかはもはや存在しない。

 俺が酒苦手なのは周知であるが、この3人も決して強いわけではない。

 女の子に飲ませて悪さする前に先に寝てしまうようなのが4人。


 最初からカシスオレンジ4個とかはそれでも珍しいだろうけど。


 「あめぇぇ。カシオレあめぇぇ。」

 まだ一口か二口しか飲んでいない状態での言葉ではないと思うが、久しぶりの会合のようなものなのでテンションが高いのも仕方がない。

 同僚の感動ぶりにも少しは頷けるものがあった。


 この2ヶ月足らずの間、家と会社の往復くらいしかしていなかったので、正直こうして一緒に飯を囲むというのも悪くなかった。


 唐揚げ、フライドポテト、ししゃも、磯辺揚げ、おしんこ盛り合わせと定番メニューはあっというまに空になっていた。


 「さて、仕事の話はもう良いよな。そればっかじゃ疲れちゃうからな。」


 という事はあの話をしようぜと言っているようにも聞こえる。

 まだ2杯しか飲んではいないが、これで酔えるのだから安上がりな4人組だ。


 「黄葉、あれからどうなんだ?何か進展とかは……」


 やはりその話題だよな。しかし特筆して語るような事はないんだよな。


 「特に変化はないぞ。裁判はまだだし。一応ともえが出産して身軽になってからだし。例のポーションが抜けないとって問題もあるし。」


 「あの式でクズ男が言ってたけど1ヶ月くらいで抜けるんだろ?そろそろ抜けたんじゃないのか?」


 確かにそうは言っていたが、どのくらい使用していたかにもよるだろう。薬に関してはそこまで詳しくないし、抑認可されてないものなのだからそれすらも怪しいものだ。


 「あまり大きな声で言うものでもないけど、多分もう少しで生まれる。ともえの両親にも話をしてきた。式では言い過ぎた件とともえの産む子を引き取らないかという件で。」



 「あぁまぁ引っ越すなとかは流石に酷だったしな。噂が広まって居辛いだろうしな。妹は高校生なんだろ?冷静に考えるとちょっと言い過ぎだったよな。」


 そこについてはもう後悔しているので痛いだけだ。

 「悠子ちゃんにも謝ったけど……口では部活の仲間が助けてくれて暴言は減ったみたいだけど。」


 「暴言?」

 同僚の一人が問い返してくる。

 「あぁ、姉が槍満なんだからお前もさせろよみたいな事を言われてたらしい。」


 その言葉を出す俺は悲痛だった。俺の行き過ぎた言動のせいで傷つけたのかと思うと。


 「それな。確かに酷だとは思う。未成年だしな。でも噂なんてものはどこでどうやってかは知らないけど広まるもんだ。連帯責任でざまぁみろとは言わないけど、可哀想だけどこうなるのは必然だったんだよ。」

 「もし、自分達が同年代だったら周囲の奴らのような事を言ったかはともかく、少なくとも奇異な目では見てしまうんじゃないか?元々仲良しグループだったら違うかもしれないけど。」


 「言い方はきついかもしれないけど、現実はそんなもんだよ。だから火事現場にあんなに野次馬が集まるんだよ。秋〇原の事件で人が集まるんだよ、交通事故で救護するわけでもないのに集まっては撮影してるんだよ。」

 「視聴者提供とかよく見るけどさ、あんなんだってそんなもん撮影してる暇あるなら救護活動しろよとか言いたいよ。下手に動かしたらいけないとかもあるけどさ、声掛けするとかあるわけじゃん。」


 「人間なんてのは所詮は他人の不幸をエサに生きるんだよ。良くも悪くもな。芸能人の薬物や不倫や交通事故なんてのもそうじゃんか。ネットでは好き放題叩かれる。」

 「起こす方が悪いんだけど、叩いている人達は、じゃぁ自分達は同じ事を絶対に起こさないかと問うたら絶対はないよな。所詮対岸の火事だもん。」


 「大人がそうなんだから子供にどう言い聞かせたところで、煙を立たせないなんてのはやっぱり無理なんだよ。」

 「問題は俺達大人がどう受け止めてどうケアするかじゃないかな。確かに式の時は俺達悪ノリが過ぎたかもしれないけど。」



 この同僚が言う事ももっともで、人間自分の事でないならば鬼にも悪魔にもなれる。

 残虐な映画を見ているよりも残酷になれる。あれは作り物だと分かっているから怖かろうと楽しかろうと見ていられる。

 テレビで報道されるような違法に関しても他人だからこそ、こいつ馬鹿だとか言いながら見て居られる。


 人のふり見て我が振り直せではないけれど、自分はこういう事を絶対にしないようになんて考えてる人なんて極一部だろう。


 「家族は当然支えてるんだろうけど、お前も少し気にかけてやれよ。似てるからどうとかはあるのかも知れんけど。」


 「こないだともえの産む子供をどうするかという話し合いをした時に、悠子ちゃん髪型変えてたんだよな。少しだけど違って見えて苦しさというか胸のもやもやが少なく感じたんだよ。」

 「実は式の後から名も知らぬその辺の女性に対して、吐き気とか嫌悪感とか抱くようになってなるべく女性と触れ合わないような生活スタイルにしていたんだけどさ。」


 「家族以外の女性はダメなのかと思ってたんだけど、どうもそうとも限らないみたいでさ。理由も意味も良くわからないけど、そんなわけであまり今女性とは触れ合えないし関われない状態だったんだけど。」


 「家族やその時の悠子ちゃん、新しいアパートの住人や大家さんは平気だったんだよ。なんでだろうな。」

 「本能でともえみたいなのを見極めてるんだとしても失礼な話かもしれないけど、ともえみたいに裏で何してるかわからないんじゃないかとか、陰で貶されてるんじゃないかと勝手に被害妄想に入っちゃう。」

 だからこそ、電車に乗らなくても済むように引っ越しをした。

 多分どこかで恐怖を抱いている。

 合コンとかは絶対に出来ないだろうな。


 「お前、それ一回精神科行った方が良いぞ。冗談とかではなく。自分のためにも今後出会う誰かのためにも。」


 「やっぱそうかな。っとちょいトイレ行ってくる。」

 なんだかんだで3杯も飲めばトイレも近くなってくる。 

 トイレに行っている間に話題は変わっていた。

  

 「ばーか、メイ〇ルが良いに決まってるじゃねーか。」

 ん?なんだ?ウィッグの話か?まぁ値段は安いと思うけど。


 「お前は分かってねーな。サ〇ーに決まってんだろ。」

 ん?魔法使いか?しかも随分古いな。お前歳いくつだよ。


 「お前こそわかってねぇ。ユイちゃんだろ。」

 ん?S〇Oか?いつからこの飲み会はデスゲームに?


 「そこはマイだろ。」

 ドラゴ〇ボールでピ〇フのとこにいた部下の女か?

 それともにっぽんいち~とか言ってる不〇火さんか? 


 随分バラバラな話だな……


 「なぁお前ら一体何の話をしてるんだ?


 「ん?防〇りの話だけど?楓〇木で誰のファンかという話。」


 この飲み会はカオスになりつつあるようだ。

 気が付けば知らないボトルが置いてあるし。

 これ日本酒じゃん。

 酒苦手な奴らしかいねーのにまずいだろ。

 せめてグラスとかそういうもんにしねーかな。なぜ一升瓶?


 「聞いたけど、相手側の会社の人達、奥さんや彼女達とは仲直りしたんだろ?お前も彼女はともかく自分の人生もう少し広い目で見て見ろよ……」


 言うだけ言って同僚達はお休みタイムに入ってしまった。

 居酒屋で一人を残して寝るなよと思い、店員を呼んで会計を頼んだ。


 「お前らおきろよ。」

 全員を叩き起こして清算を済ませた。


 「全員気を付けて帰れよ、無理そうならシータク呼べ。」


 ふらつきながら帰ると、気持ち悪さがこみあげてくる。

 これは良くわからないちゃんぽんにしたせいだ。

 結局あの日本酒は飲み切れない分は同僚のボトルキープと言う事にさせてもらった。


 自販機で水を買って口内と胃を落ち着かせる。

 早目の時間から飲んでいたために時計を見てみると時刻はまだ20時前。


 「あー気持ち悪い。キャ〇ジン飲んでおくんだった。」

 右手で頭を押さえながら深呼吸をする。


 「兄ちゃん大丈夫か?」

 女性の声が聞こえて声のした方を見てみると知らない同い年くらいの黒髪の女性と、アパートの隣人小倉さんの姿があった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――― 

 後書きです。


 少しあまり関係の薄い話も交えました。

 会社の人も少しは出さないとねぇ。


 話数がMAXコーヒーに追いつきそう……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る