第69話 ☆小澤茜の真実②

 私達3人はとある飲食店に来ている。

 個室のため他人の目に触れる事はない。

 大声を出さなければ他の人に聞かれる心配はない。


 ここはあのお方、田宮未美様傘下のお店である。

 会員制ではないけれど、ある程度店側が客を選ぶ事の出来る店だった。


 2人が来るまでの間に私は倖せだった頃を思い出していた。

 3人でずっと一緒だと思っていた頃。

 たっくんと1週間も満たない、恋人関係でいた頃。


 3人が揃ったので私はあの時の真実を語ろうと思う。

 その結果、やっぱり汚らわしいと罵られようとも、恩着せがましいと思われようとも構わない。

 でも伝えなければならない。私自身が離さないといつか気が狂ってしまいそうだから。


 自己満足でも構わない、2人に真実を話して……私の事はともかく、喜納の醜悪さを知ってもらいたい。



 「2人共このような機会に足を運んでくれてありがとう。それとごめんなさい。」


 たっくんは何も言わない。神音はどうしたら良いのかわからず若干おろおろしている。


 「これから話す事は一切嘘偽りのない真実。証拠となるものにも一切手は加えていない。」


 唾を飲み込み一呼吸を置いてから話し始める。


 「体育祭の後、私がたっくんと恋人同士になって6日目の金曜日、偶然だけれど喜納に会った。」

 喜納の名前が出た途端、たっくんの眉がピクっとなったのを見逃さなかった。

 やはりまだまだたっくんの中でも喜納は許しがたい存在なのだろう。

 同じように私の事も……


 「喜納は偶然会った私に言ってきた。お前とよく一緒にいる小動物みたいな猫屋敷神音の情報を教えて欲しいと。」


 「流石に3年にもなれば、喜納の女癖の悪さは同級生の間では知らない者はほとんどいない。私は喜納が次の狙いを神音に定めたのだとその言葉で推測した。」

 神音が目を見開いて驚いた顔をしている。運ばれてきた飲み物の容器に手を添えたまま動けないでいた。


 「喜納はどんな情報でも良い、好きなタイプとか趣味とかそういったものを聞き出そうとしていた。帰る時間や良く一緒にいる相手なども。私が神音と幼馴染な事は流石に知られていたので色々聞き出そうとしたんだと思う。」


 「私が喜納に教える事は何もないと頑なに拒否を示すと、だんだん口調が荒くなりついには脅しにかかっていった。」


 そこで私はボイスレコーダーを再生する。

 スマホはたっくんに壊されてしまったけれど、喜納の悪癖を僅かでも知っているため安い物ではあるけれど常に持ち歩くようにしていたのが幸いした。



 「なぁ、小動物みてーな猫屋敷と文字通り動物プレーをしてみたいという俺の気持ちわかる?わかんねーだろうな。あぁいう性について何も知りませんって奴を快楽で堕とすのがたまんねぇんだ。俺はやると決めたら大体の事はヤる。お前が情報をくれないというのならば……まだやった事はないけど、攫って強〇するだけだ。」

 「止めて、喜納それだけは止めて。あの子に欲望をぶつけるのは止めて……」


 「どうせ親父が揉み消してくれるんだ、何をしても大抵の事はなかった事になるんだ。それにこの事を知られた以上お前にも口封じをしなければならないけどな。」


 「お願いだからあの子には手を出さないで。」

 この男が約束を守る保証はないと思っていても懇願するしかなかった。


 「ふ~ん。じゃぁお前が利子扱いとして身を差し出すならその間は手を出さないでやる。お前が今現在処女だったらな。」

 この時はまだ喜納の噂の100人斬りは達成していないため、カウント増やしのためについでに私も頂こうという算段だろうと想像した。

 レコーダーを再生しながら当時の事を思い出しながら手に力を入れて握る。

 私の心身はたっくんのものなのに、付き合うようになってまだ1週間経っていないのに、私の全てはたっくんに捧げると誓ったのに。

 それをあの男は平気で土足で踏み躙り全てを破壊しようとしていた。


 当時を思い出すと歯を噛む力が強くなってくる。



 「……本当に……本当に神音には手を出さないのでしょうね。」


 「お前が都合の良いオ〇ホになってる間はな。」



 一旦ここで再生を止めた。


 「私は神音に手を出さない事を条件に喜納の都合の良い穴になる覚悟を決めた。たっくんを裏切る事になる事も承知で。もちろん迷いがなかったわけではないけど……」


 「喜納はその足で私をホテルへ連れていった。黄葉君が暴露宴で流した映像にあったあのホテルに。」



 そして再びレコーダーを再生する。


 そこにはシャワーすら浴びさせてもらえず、無理やり色々な所を犯される様子が再生されていた。


 ところどころで「ごめんなさいたっくん」という言葉が拾われていた。


  

 やがて2回目の音声……翌日またホテルに呼び出され二度目の行為が行われる。

 昨日の行為の後に帰宅後にダビングした音声を流した。


 「いくらあなたの父が凄くてもこれは無視出来ないでしょう。これがある限りあなたは神音に手出しは出来ない、させない。」


 「テメー俺を脅すのか?無駄だぜ、その程度じゃぁ俺の抑止にはならない。」


 「でもネットにばら撒かれたら流石に全部が嘘偽りだの、消して回るだのは出来ない。噂が噂を呼び火消しは出来なくなる。」


 「なら良いや。猫屋敷にはちょっかいを出さない、その代わりお前もそれを闇に葬る。もしそれが表に出ようものならこの約束はなかったものとして俺は構わず猫屋敷はブチ犯す。」


 「ただその代わりお前が俺のオ〇ホを続けるのは最初の約束だから変わらない。元々そういう約束で猫屋敷に手を出さないと条件付けたのだからな。」

 結局私が身を削るという事は変わらなかった。


 「俺がお前に飽きるまではオ〇ホとして使う。飽きたら利子は清算という事にしてやる。その時はシないからといって小動物にちょっかいは出さないでいてやるよ。」



 その後だった。翌週のとある移動教室先で喜納が私を貫いている所をたっくんに見られたのは。

 何度も行為をする度に私の身体は順応し、心は拒絶しても身体は反応していた。

 そんな瞬間をたっくんに見られたのだ。

 そして目が合った。

 

 考えるまでもなく涙が溢れていた。


 行為が終わった後、直ぐに追いかけたかったけど、私の中から溢れるものが邪魔をするためトイレで一度洗浄した。

 水道で口内や顔を綺麗にした。


 私が放課後の教室でたっくんと再会した時にはもう……たっくんは鬼のように怒っていた。


 「後はたっくんも知っての通り、スマホはバキバキに壊され、どれだけ謝っても聞く耳すら持ってもらえず……あまつさえ黄葉君にもその様子を見られていた。」


 「だから彼も最初は私の事は汚らわしいクソ女としか思えないと言っていた。」


  


 「誰にも言えなかった。元々神音を狙ってると言われたその日にあんな事になって。こっちも証拠で色々撮ったけど、向こうも要所で静止画や動画も撮影していた。」


 「お互いが脅し脅されな関係だったけど、私にはそれが精一杯だった。神音に魔の手さえ伸びなければそれで良い……それだけだった。」


 「茜ちゃん……」

 神音は両手を握って目を潤わせて私を見てくる。

 そんな目で見られてももうどうしようもない。

 私は勝手に神音を守った気でいて、たっくんを傷付け、結局はその時失ったもののない喜納の一人勝ちみたいなものだった。


 大なり小なり他の娘もこうしてずるずるといっていたのではないだろうか。

 1年の時はその容姿と甘い言葉で殆どが騙せていたようだけれど、2年になれば後輩に同じ手は使えるけど同級や先輩には通用しなくなってくる。

 3年になった時には早い段階で噂が出回るために1年相手にも思うようにはいかなくなる。


 他校や大学生、社会人をも手玉にとっているという話なので本当に100人いってるとかいってないとかは私にはもうどうでも良い。

 そんな中の今回の事。

 きっと同じような方法が続けられないと悟ったからこそ、今回のように中の良い女2人のどちらかまたは両方を手玉にとれるような手段を講じたのだろう。

 実際あと数人で100人だったからこその強行手段だったのではないだろうか。


 私はそう思っていた。後夜祭で神音の手を取っていた時の表情を思い返してみれば、あの時から今回の計画を想像していたのではないか。

 結果、私はその罠にはまって身体は汚され大切な人は離れ、幼馴染の貞操を守った。

 

 「お前の事情はわかった……あの時は視野が狭くなっていたとはいえ、俺は間違った事をしたとは思っていない。」


 「あの状況であれば、お前が喜納に股を開いて処女をくれてやるどころか淫乱女にまでなっていたのだから。」


 「……だけど、今ならば絶縁は撤回しても良いとは思える。正直これは黄葉のおかげだ。あの式をする際に明らかになったクズのあれこれがわかったからな。」


 「それでも元の関係には戻れない。お前への愛情も幻想も夢も未来もあの瞬間粉々に砕け散った。それを癒してくれたのは神音だ。」


 「一度粉々に割れた皿や窓はどうがんばっても元には戻らない。」


 「それと同じだ。」


 「俺は神音と結婚したいと思ってる。残念ながらお前の居場所はない。だけど……拒絶するのはやめだ。」




 「私は性〇隷でもオ〇ホでも良いから、たっくんの少し離れた所でも良いからいたい。」

 あのお方の元に居過ぎたかな……そのような言葉が出てくるなんて。

 理想を言えば横に居たい、でもそれが無理なのはわかってる。

 だからせめて元の幼馴染の関係に戻りたい。


 「あほか。そんなのは俺も神音も赦さねぇよ。」



 「私は、また前みたいに3人一緒が良い……」

 神音が涙を流して抱き着いてくる。

 私は戸惑いながらも神音とたっくんの顔を交互に見やった。

 たっくんはしょうがないなという表情で頷いてくれた。


 私は神音の背中に手を回して抱きしめ返した。


 温かいかった……でも小刻みに震えていた。


 「どこでボタンを掛け間違えちゃったかな……」

 私はポロっと弱音を漏らしてしまう。


 「その喜納に偶然会った金曜日だろ。」


 今ならば私が取った行動が間違いだったと言える。あの日、たっくんと神音に喜納の事を言えば良かっただけなのだ。

 喜納の話を早々にぶった切って、二人に言えば良かっただけなのだ。


 それを理解するための授業料が、恋人を失い5年の歳月を失い、淫らな心身ではつり合いが取れないよ……




 「恋人には戻れないけど……幼馴染には戻っても良いよ、神音も3人一緒が良いと言ったしな。」


 最後に見た時とは違い、3人で一緒にいた頃の表情に3人共が戻っていた。










 「喜納……絶対許さない。」


―――――――――――――――――――――――――――


 後書きです。

 最後のセリフ……誰でしょうね。わかってると思いますが。


 

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