第68話 小澤茜の真実①

※小澤茜視点で進みます。 


 私には幼馴染が二人いる。

 隣の家に住む高橋忠夫とその向かいに住む猫屋敷神音の男女。


 同い年という事と家がすぐそこという事でよちよち歩きの頃からの付き合いだった。

 私も神音も彼の事はたっくんと呼んでいた。

 たっくんはそれぞれ下の名前で呼んでいた。神音は私を茜ちゃんと呼び、私は神音と呼んでいた。


 良くも悪くもたっくんにとっては両手に華状態で高校2年までを過ごしていたけれど、誰が誰を好きだとかは言った事はない。

 恐らく私達は二人ともたっくんの事が好きで、お互いに言わなくてもそれがわかっていたので言えなかった。

 幼馴染の関係すら壊れてしまうのが嫌で気持ちを伝えられずにいた。


 たっくんは鈍感なのか私達どちらに対してもはっきりとした好意は向けていなかった。

 ずっと一緒にいるから性別を超えたマブダチというカテゴリーにされていたのかもしれない。



 高校3年の時、6月に行われた体育祭。

 私は借り物競争でとある紙を引き、たっくんを連れてゴールを目指した。


 ゴールテープを切った後、係員である生徒に紙を見せる。

 目的の物(者)と一緒にゴールしたかを確認するためだ。


 私の表情は赤かったと思う。手を繋いでゴールしたのだから何も感じないはずもない。


 心なしかたっくんの顔も赤いように見える。何かを察しているのだろうかと期待してしまう。

 係員の生徒が〇のサインを出す前にたっくんに訪ねていた。


 「この紙に書いてある事は合ってますか?」


 一瞬戸惑ったたっくんだったけれど、頷いた。

 その瞬間係員は〇のサインを両手で作った。


 その紙にはこう書かれていた。


 【あなたの一番大切な人(異性限定)】


 この借り物競争はある種の告白だ。


 大切な人=好きな人と安易に結びつけるのも危険ではあるけれど、これは多くを語らなくても私がたっくんの事を好きだという事がわかってしまう。

 係員の人にはもちろん、たっくん本人にも伝わってしまったはず。



 望んだわけではないけれど、神音を出し抜く形で想いを伝えた事になる。

 それはそれで嫌だった。上手くいくとかいかないとかよりも、何だか卑怯な感じがしてモヤっとした。


 だから後夜祭のフォークダンスが始まる前に神音に報告した。

 たっくんは頷いたけど好きだとは言っていない、だから1歩前に進んではいるけどまだ幼馴染以上恋人未満。


 「さっきの借り物競争で引いた紙に【あなたの一番大切な人(異性限定】と書いてあったの、それでたっくんを連れていった。」

 「抜け駆けしたかったわけじゃないけど、出し抜くような形になってしまって……」


 「見てたからわかるよ。茜ちゃん、私の事は気にしないできちんと告白して?多分まだ中途半端なままなんだよね?」

 「その結果二人が恋人同士になっても私は恨まない。逆の立場だったら多分同じ事してたと思う。悔しくないと言えば嘘になるけど、答えを出すのはたっくんだし。」


 私が選ばれなかったら、神音もいつか告白するのだろう。

 どちらも選ばれないという選択肢もあるけれど、それはそれでショックなので私も神音も考えないようにしている。

 私が選ばれず神音が選ばれる事も当然考えられる。

 もしそうなっても私は後悔しない。


 この借り物競争は恋愛の神様がいい加減にアクションを起こせとイベントが発動したのだろう。


 私は後夜祭のダンスが告白しよう、そう決意した。



 別に伝説があるわけでもない。学校七不思議があるわけでもない。

 ただ私には予感があった。


 ダンスは滞りなく進み、オクラホマミキサーは一人の女子と踊ったら男子が次の前の女子と踊る。

 音楽は終盤。後一人か二人かで終わる。


 ついにやってきたたっくんとのダンス。

 あー終わっちゃう、終わったらたっくんは次の女子の元に行ってしまう……


 するとそこで終わりがきた。

 たっくんは次の女子の元に進もうとして音楽の終わりと共に停止した。

 でも私はまだたっくんの手を離さなかった。


 ぐいっと引っ張る形になってしまう。

 その勢いでたっくんと軽く抱き合う形になってしまう。


 「あ、わりぃ。」

 たっくんはぶつかったと思い謝ってくる。

 でも私の返した言葉は……


 「好き。ずっと前から好きだった。借り物競争の大切な人というのは本心からだよ。私は幼馴染から恋人になりたい。」


 周囲に聞こえない程度の声量ではあるけれど、たっくんには聞こえていた。

 顔が赤いのだから間違いない。

 

 「あ、あぁ。ずっと三人でいるのが当たり前だと思ってたから言えなかったけど、俺も茜が好きだ。」


 こうして晴れて両想いだという事がわかった。

 同時に神音に申し訳ない気持ちで一杯だった。


 この時は自分の事で一杯だったから気付かなかったけれど、神音が最後に踊った相手は喜納貴志だった。

 後になって考えてみれば、喜納が神音に狙いを定めたのはこの時だったのではないかと思った。

 

 


 片付けが終了し3人で家に帰った。

 その時に報告をした、結果がどうあれ早めに報告すると言ったからだ。


 「おめでとう。二人とも、結婚式には呼んでね。」


 「気がはえーよ、でもその時が来たらスピーチは神音にお願いしたいかな。共通の親友という事で。」

 その言葉は中々に残酷であるのだけれど、高校生の自分達にはそのくらいの事しか言えない。

 好きな人の結婚式でのスピーチなんて残酷だと思ったが言えなかった。


 でもこれは女子二人がお互いを気遣い告白してこなかったのだから仕方のない事でもある。

 たっくんにしても私達どちらかではなく、他の誰かと結婚するとしたら私達どちらかにスピーチをお願いする可能性は高い。


 「その時は任せて。二人とも号泣するようなスピーチにしちゃうんだから。」

 身長の低い神音は兎のように見えた。

 小動物のような神音なら、きっと良い人が見つかる。そう思っていた。




 体育祭は日曜だったため翌日の月曜は休みとなる。

 恋人同士となった私達は早速デートに出かけた。


 動物園に行って、遊園地に行ってと定番のデートコースを満喫した。


 デートでは結局手を繋ぐのが精一杯でそれ以上の事は出来なかった。

 それでも帰り道、家までもう少しという所にある公園で一休みしたベンチの前で……

 どちらからともなく近付きそのまま唇を重ねた。


 私は嬉しさのあまり両の目から涙が溢れていた。


 これが後にも先にもたった一度だけのキスになるとも知らずに。 



―――――――――――――――――――――――――――――――


 後書きです。


 思ったより小澤さん引っ張ってしまいました。


 次は小澤さんの喜納との真実。

 容量によってはそのまま3号から茜に昇格するところまで行くかもしれません。


 その後、喜納達の現在の様子をと思います。


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