第66話 迫りくる奴の様子
305号室の扉の前で一つ深呼吸する。
大家さんは娘と言っていた。つまりはこの部屋の主も女性という事になる。
挨拶はしないといけないと思いつつ少し気が重い。
一度会った時に大丈夫だった小倉さんとは違う。
意を決してインターホンのボタンを押した。
もう後戻りは出来ない。
「はーい。」
インターホン越しに返事が聞こえる。
「303号室に越してきた者です。引っ越しの挨拶にきました。」
やがてがちゃっと扉が開くと見覚えのある人物が出てくる。
「あれ、貴方はどこかで……」
そこで先日駅でお釣りを拾った時の事を話すとすぐに思い出してくれた。
「303号室に越してきました、黄葉真秋と申します。一部屋挟んではいますが大家さんから2部屋利用してると聞きましたので挨拶に参りました。」
「これはご丁寧にありがとうございます。大家一族の特権で2部屋を占領して申し訳ないのですが、よろしくお願いします。」
「これは引っ越しの挨拶の定番ですが、どうぞ。」
小倉さんの所に渡したものと同じものを手渡した。
「あ、ら〇☆すたラベルの豊明ですね。幸〇出身でしたか。すぐそこですからね。」
「実は私も幼少時代に団地に住んでたんです、あの頃はまだ町でしたけど。すぐ五〇に引っ越しましたけどね。」
大人になってからここに住んでいるという。そして彼女は越谷友紀と名乗った。
どうやら人妻だったようだ。確かに大家さんの苗字は金子だったので既婚者ではないかなと感じていたけど。
「それでは今後ともよろしくお願い致します。」
大家さんの娘さんにも嫌悪感などは抱かなかった。
治ってきているのか、本能的に彼女達の本質が善人だとわかるのかはわからないけれど、ここに来て安息を得られるのは良かった。
部屋に戻り、荷解きを進める。
やはりどうしても棚が足りない。
未開封のブツをせっかくの機会なので開封しようと思った。
主にフィギュアやマグカップの類を。
荷を解き開けた箱から次々と食器棚に収納していく。
そんなに多くあるわけではないけど何だかんだで10個くらいのマグカップを収納した。
やはり物は使わないと失礼だし勿体ない。
引っ越しを期に使おうと思った。
本棚にラノベを収納している中、携帯にメッセージが届く。
あのお方からだった。
一度様子を見に来ませんか?というものだった。
恐らくは薬抜きと今の様子がどうなってるかを見せようというのだろう。
途中経過が気にならないといえば嘘になる。
どんな過酷な事を堪え性のないあいつが耐えているのか。
腹に子供がいなければお好きにどうぞしてくださいというところだけれど。
本人に意識のない赤子が親の不義理のために苦しむのは違うと思う。
早く生まれてあいつらだけへの罰を決めてしまいたいと正直思っている。
日時は次の土曜日。
午前10時に現アパートの前に車で迎えに行くという。
教えてないのになぜ知ってるのか……
敵に回さなくてよかったと本当に思う。
深雪に現アパートの中の様子を写真付きでメッセージする。
今日から新しい生活が始まる、隣人は良い人そうだ、ここなら再出発出来そうだと添えて。
深雪からの返信には少し時間を置いてから受信した。
わかった。新しい生活がんばってね。それと落ち着いてからで良いから悠子ちゃんの話を聞いてあげて。
そう書かれていた。
余談の一方その頃、午後10時頃の305号室では。
「今度の隣人もヲタでしたか。このアパートそろそろヲタク壮とでも名前を変えた方が良いのかな。」
「302の小倉さんも元ヤンだけど、ねこみみメイド喫茶の人気店員さんだしね。1階の住人も俺に負けないくらいの痛車の持ち主だし。」
「むぅ。私に内緒でその店に何回行ってるんですか。もーもー。」
ぽかぽかと胸を叩く友紀さん。
「そんな行ってないって。ほら、ポイントカードも一緒に行った時から変わってないでしょ。」
「あ、本当だ。疑ってごめんなさい。」
「俺こそ紛らわしくさせてごめんね。」
友紀の頭をなでりこして宥める旦那、真人。
こっそりもう1枚のカードを隠した真人だった。なんてことはなかった。
30代の元魔法使いカップルは今日も糖度MAXコーヒーだった。
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後書きです。
悠子ちゃんの話……恋愛の話とは限りません。
一応1学期はもう1週間始まってるので。
次回はあのお方のもとで現状の奴を垣間見ます。
理想は1話あたり1500~2000文字くらいで飽きないようにを心がけてはいるんですけどね。
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