第54話 終わった?


 そして俺は再び歩き出した。

 端っこで一人飲み物を飲んでいる人物の元へ。

 


歩く先に待ってるのは、先程見事に離婚届に判を押してもらい所謂バツイチになった高梨香奈美。


再び元の髪型のような黒髪超ロングのウィッグをつけて元のお嬢様ではなく、つるつるのまま飲食を嗜んでいた。


「似合ってるな。」

綺麗な顔立ちをしているためか、つるつるに剃っていても違和感がないように思えた。



「結局、美人は何をしても美人だという事だな。」


自らの頭をなでて、ペシペシと叩く。

「私に惚れた?冗談だけど。でもこの一連の貴方は格好良かったわよ。喜納を幼い頃から見ていたせいか、私の目は濁って視野が狭くなり過ぎていたのね。あの人の本質を全然見極められていなかった。私が彼を非難する事はあまり出来ない。私もある意味加害者だと言われても文句は言えない。それでもあの人を止めてくれた事には感謝するわ。ありがとう。」


「まだ少しは未練があるのか?」


「まさか。と、言いたいところだけど少しはあるかもね?あれでも小さい頃から一緒だったんだもの。あんなクズな性格さえ表に出なければ普通に夫婦をしていて、本当に次は二人目はどうする?やっぱり男の子が良いよね。なんて話をしていたのでしょうし。貴方はどうなの?本当にあんな切り方して未練はないの?」


香奈美は何か知っているのだろう。

あのお方に絡んだ者の末路を。

だからこそあんな切り方と言ったんだと思う。


しかしあのお方、田宮さんと真の打ち合わせをしたあの短い時間に俺は既に結論を出している。

もう俺がまともな頃のともえと二度と会う事はない。


「決断するのに葛藤がなかったと言ったら嘘になる。だけどそれ以上に怒りや悔しさや虚しさの方が大きかった。無邪気な頃のあいつが頭を過ぎる事がないわけではない。それでも裏切られた気持ちの方が大きい。だから二度と会わないという結論が出せた。」


正確には嫌でも何度かは見る事になるんだろうけど。それはもうともえであってともえでないナニかだ。


「貴方が納得しているなら良いけど、私ではそこまで決断出来なかった。貴方がした事であの人もいつかは二度と会わない事になるんだろうけど。彼は彼女と違って多くの人を不幸にした。バランスを取るには一人ではまかないきれない程の不幸を。私にはどうする事も出来ない。せめて被害者の人達への援助をするくらいでしょうけど、それすら烏滸がましいと言われそうね。」


「まあ、そうかもな。ただ、人間たくさんいるんだ。色々な意見を持っていて当然だ。良くも悪くもな。俺は正直高梨には好きに生きて貰って良いと思う。実家がどうでも、バツイチは変わらないし、良い人いたら再婚したって良いと思ってる。」


「あら。やっぱり貴方狙ってる?」


「しばらく女はいいや。色々無理だし。女は小悪魔までだよ。悪魔な女はもういらない。まあ高梨が悪魔というわけじゃないぞ。もう裏切られたり陰で何かしてるんじゃないかとか想像すると、心身共にまいってくる。」


「私みたいなバツイチじゃヒロインにはなれなさそうね。」

香奈美は少し寂しそうに答えていた。先程のやっぱりという言葉は、香奈美主観の私は貴方の隣にいても良いかな?というニュアンスでの問いかけのようなやっぱりという切り出し方だったのだろうか。


「本当の断罪。もし見たい聞きたいとあったら連絡をくれ。特別に見学させてくれるそうだ。連絡がなくても時期がきたらこちらからも連絡はするだろうけどな。その時に決めても構わない。こんな別れ方だけど、じゃあな。高梨は高梨で自分の幸せを見つけろよ。」


俺は高梨の元から去り、この式の終了を告げるために歩き出す。







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