第39話 甘ーくない小澤さん、引き込む大人達
小澤茜、正直俺も良い気はしない。
程度の差こそあれ、高橋と俺は似た境遇だ。
幼馴染で恋人だった人を喜納に奪われた間柄。
一方の女達は悪びれた様子もなく喜納に着いて行く。
俺と高橋で違う点があるとすれば、小澤の処女は喜納が奪っているが、ともえは奪われていない。
既に俺とそういうことをしていたから。
別に男子の殆どが処女神聖論を持っているとは思わない。
それでもずっと一緒に育ってきて、ましてや恋人になったというのに、別の男にあっさり股を開くのはどういう事だろうか。
神聖論を持っていなくてもおかしいと思うのではないだろうか。
小澤の真意は誰にも分らない。喜納との関係が10日程度で破綻し泣きながら謝る小澤を高橋は切り捨てた。
17年の記憶と想い出と共に。
小澤の目の前でスマホを粉々に砕いたというのは爽快なエピソードだ。
いつから記録していたのかは知らないけれど、写真や動画等の想い出はほぼスマホに納められていると言っていた。
それを無表情で床に叩きつけ、足で何度も踏み抜き、机は流石に教科書やらが入っているので諦めたが、椅子の足で何度も踏みつけたという。
実は偶然だけれど、その様子を教室の外から見てしまった。
放課後とはいえ部活帰りの生徒だっているのだから不可抗力だとは思うんだよ。
おかげてあの時忘れものを諦めるしかなかった。部活後、宿題の用紙を取りに戻っただけなのに。
翌日未提出で叱られたのは別の話として……
あのシーンは俺も見ていたので鮮明ではないけれど覚えていた。
床にペタっと座り込んで泣きじゃくる小澤を見て、浮気はあかん。
例え奥手だからと冗談や焚きつけるためとかの考えがあっても、浮気や嘘デートやらはあかんよ。
もっとも小澤は本当に喜納と関係を持ってしまっているのだから庇いようもない。
床にへたり込んでいる小澤のスカートが捲れて中の
高橋にも小澤本人にも悪いけれど、こうした末路を迎えた者の見苦しい言い訳の最中のチラリズムはまったくエロスを感じない。
高橋の小澤を見る目が……
ラノベの挿絵やアニメで見る異世界転生・転移モノにありがちな、貴族が薄汚れた奴隷に向ける目と重なって見えた。
その後小澤がどんな高校生活を送ったのかは知らない。クラスも違ったのでいちいち気にしてなどいられなかった。
卒業はしているのは間違いないけれど。
それから5年経ったある日、金堂の親が経営するラブホの受付に、若い女性と一緒に来店している。
小澤の首には輪っかが付いておりその首輪には鎖が連結しており、その鎖の先はもう一人の女性が手で握っている。
「小澤はそういう趣味なのか?」
風の噂で夜の店で働いているというのは聞いたことがあるけれど、それはてっきりお酒が絡むお店かと連想していたけれど。
まさか、身体を使う方だったなんてな。
天城大次郎さんに調査をお願いしてもらおう。
俺の勘が言っている。こいつをこのまま見逃すのは愚かだと。
この場面を写真に撮り、後日調査をお願いする。
今日は思わぬ収穫がたくさんあった。
もちろん各種データはUSBにダビングはさせて貰った。
俺にとってはある意味事件性のある内容だ。
きっちり活用させてもらう。
金堂には協力してもらったお礼に黄金色のお菓子を手渡した。
これは比喩でもなんでもなく本当に黄金色のお菓子だ。
長崎から取り寄せた。
金粉とザラメを使った黄金色のお菓子だ。
諭吉とか新渡戸とか樋口とか夏目とかではない。
金堂は南蛮渡来のかすていらが大好物なのだ。
諭吉とかが好きなのは兄の方らしい。どうでも良いけど。
「また協力してもらう事になると思う。今日はありがとう、金堂。」
「僕もコレ貰った以上は仕方ないけど。犯罪には使わないでね。」
「大丈夫、田中にも山本にも言われているけど、俺はあいつら側の人間にはならない。」
黄金色のお菓子を手にして喜ぶ姿は、JKにしか見えなかった。
いや、コスプレイヤーにしか見えなかった。
Innocent Worldと薔薇乙女のコラボ衣装だぞ。
しかも似合ってるんだぞ。
その後も仲魔は増えていった。
ここに来て大人の味方が増えた。
それは喜納のグループ会社に勤める人間だ。
天城さんが教えてくれたのは、数人の喜納被害にあった連れの男性陣が集まる焼肉パーティの情報だ。
少しお高いお店ではあるけれど、彼らはたまにこうして集まりストレスを発散しているらしい。
会社に言っても社長が揉み消す。
言いたい事も言えないこんなクソ会社じゃ……YAKINIKU♪しかないじゃないかと。
偶然を装い隣のテーブルで焼き肉を楽しんだ。
俺は非番の山本と一緒に野郎二人で焼き肉をやきにくん。
この焼肉は焼き難いくらいどうでも良いギャグである事自体自覚している。
俺にギャグセンスはない。
向こうの一人がトイレから戻る際に、俺もトイレに行く振りをして立ち上がり、ぶつかった拍子に態とポケットからともえと喜納の密会写真を落とす。
彼もぶつかった負い目もあるため、写真を拾うのを当然手伝ってくれる。
そしてその手は止まる。喜納が映っているためだ。
「な……なんでこいつが映って……」
ぶつかった彼は俺と写真を交互に見やる。
「す、すまないがこれは一体……」
普通であれば気にならないはずの写真。
他人と他人が肩を組んだり腰に手を当てたりしているだけのなんでもない写真。
でも俺にも彼らにも無視できない写真。
映っているのが喜納でありともえなのだから。
彼らにとっても喜納は無視出来ない、むしろ八つ裂きにしたい相手なのだから。
「あ、それはプライベートな事なので……」と言葉を濁す。
しかし彼らは一気に酔いが覚めたようだ。
喜納が映る写真を見て、俺が只者ではない事を瞬時に悟ったみたいだ。
買いかぶり過ぎだけど。天城さんの実績だし。
「この男は……このクソ野郎は……」
「貴方がこの男の写真を持っているという事は……」
これはもう言ってしまっても良いだろうか。その方が早いと悟る。
「そこに映っている女は、23年来の幼馴染で恋人で婚約者だった女で、そこに映る男はその腹の膨らんだ女の子供の種親ですよ。」
腹の膨らんだという言葉に憎しみの力を籠める。意図しなくても自然にそれは出てくるものだ。
膨らんだ腹、ではなく。腹の膨らんだという言い方の方が嫌味に聞こえるのは俺だけではないはずだ。
こうして一気に喜納グループ側の人間と接触出来た。
彼らにも事情を説明した。個人情報とかはもうこの際ってやつだった。
彼らも、嫁や彼女が喜納の餌食になっている。
もちろん、その後修復出来ず別れたりした人もいるし、今でも家ではぎこちない関係が続いている人もいる。
謝った末に元の関係にいる人もいる。それでも喜納への憎しみだけは同じだった。
そこで俺がしようとしている事を話した。
結婚式を開き、そこで全てを暴露してあいつらをどん底に落としてやるという計画の事を。
ただし、どこで情報が洩れるかわからないため詳細までは話さない。
彼らには協力者になってはもらうけれど、信頼度でいえばまだまだ知り合い程度でしかない。
ともえの会社側の席に招待するのが理想だ。
「会社側の人間を呼ぶなら絶対に呼ばなければならない人がいる。」
喜納グループの人が一人、真面目な顔で詰め寄ってくる。
「それは喜納貴喜。若くして喜納グループの部長で、悪事を働けば身内でも平気でクビを切る人だ。」
「少し前に横領やパワハラ・セクハラでこの貴喜さんにクビを切られたのは喜納の親戚だった。」
「社長の判断で、グループ会社で地方にある、小さな会社に異動が決まりそうなところに待ったをかけて解雇にしたのが貴喜さんだ。」
「喜納……貴喜……?あ、クズの10歳離れた兄か。高校の時に何度か名前が出ていたな。」
俺は高校の時、クズが兄の名前を何度か出しているのを聞いている。
兄にさえバレなければ俺は何をしても大体が親父が揉み消してくれると言っていた事を。
「計画の実行は3月中頃~下旬を考えてます。ともえの出産は通常通りなら5月か6月だと思うので。」
「俺からその貴喜さんに招待状を送る事は現状では不可だ。ともえと彼の接点はあるのだろうか。例えば何かの行事で何度か面識があるとか。」
「そういえば、この彼女。安堂ともえさんだっけ?何度か喜納遊具の商品開発で表彰されてるよ。その時の授賞式とかで面識はあるかと思う。」
「なるほど。ならば会社の席の一つを喜納貴喜氏にすることはイケるかも知れまませんね。」
ともえを唆せば良いんだ。お世話になった上司を呼ぶとなった時に候補に加えればいい。
こうして喜納グループの味方化は前進した。
後は会場か。それが問題だ。普通の式場は何か月も前に抑えなければ不可能だしな。
もうあまり会いたくもないし見たくもないが、ともえと式についての相談をするか。
何か糸口が見えるかもしれない。
そういえば……式を挙げようという話すらまだしていなかった。
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