第837話 風精霊エムメエル

「で、風精霊の祠はどこなのかな?」

「見当たりませんね。あ、あの案内板でしょうか」

神殿の敷地でも奥まったところへの案内板があるだけであり、風精霊の祠の存在を知らない参拝者がついでで参ることはきっと無いのであろう状態である。


「え?この道であっているよね?」

「他に分かれ道が無かったからあっているはずですよね」

「もう少しちゃんと聞いておくんだったな」

ネレウス神の本殿の裏からの細道を進むものの、人が2人並んで登るというよりすれ違う人のための幅という感じの道が続くので不安になる。そう、しかも山を登るのである。


一時間ほど登った山頂に小さな祠はあった。確かに風を感じることができる絶景ポイントに建てられている。

参拝者が皆無でないからであろうから、朽ちるほどではないがそれなりに歴史を感じる趣であった。


祠を掃除し、魔石を祠の前に置き、精霊を呼び出してみる。

すれ違ったのも1組だけであり、後ろからも気配がしないので、誰かに見られることもないであろう。火精霊ヨルバ、風精霊ジョステル、水精霊シルビー、土精霊ペクトーン、光精霊メスメレン、闇精霊ヴアルの6体を召喚し、声をかけて貰う。

「何事だ!?6属性の精霊たちが集まって」

「我らの契約者であるサラがそなたとも契約を希望しているのだ」

「ほぉ、確かに力のある者たちが揃っているようだが、念のため力を示して貰おうか」

ハリーを除いたサラたち5人は、王級風魔法でも周りに被害を与える≪爆雷≫ではなく≪飛翔≫を実演する。

「俺は良いんだよ!」

とすねるハリーを横目に、

「なるほど、素晴らしい。存在を忘れられることは無いまでも、力ある者の奉納も久しくなく退屈していたところだ。喜んで契約しよう。我が真名はエムメエルである」

と、5人それぞれに魔導書を配り、それぞれと≪契約≫し≪召喚≫されて5体のエムメエルが姿を現す。

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