第128話 ティアーヌ
私の名前はティアーヌ。森の奥のエルフの村を出て人間の街々を旅している。
私が子供のころ村でお世話になった女性が居た。実の姉妹では無かったが姉と慕っていた。その姉はエルフの中でも美人であり、弓の名手でもあった。村の宝物である魔道具の弓を貸与され、衛士の役に就いていた。私のあこがれであり、できるだけ近づきたくて私も弓の練習に励んでいた。
その彼女はある日、限られた人間たちとだけ行っている交易のため、エルフの村からは離れている森の中の広場に護衛として出かけたが、戻って来なかった。
同行していた村人に話を聞くと、約束に使われている広場にはいつもの交易相手の人間の死体があり、黒ローブの集団が居たそうである。その黒ローブの集団が、
「魔力も豊富でいつまでも若いエルフの女は生贄にふさわしい」
と悪魔魔法と思われる≪毒≫等の魔法で攻撃をして来た。他の村人を姉がかばって傷つきながらも魔弓と魔法で敵を攻撃している間に、村人たちは逃げることが出来たらしい。後から現場に戻った時に彼女の姿はなく魔弓のみ残されていた。他に現場に残っていた黒ローブの遺体からは特徴的なものとして、魔法陣が書かれたメダルしか見つからなかったとのこと。
それから約10年、村一番の弓士になった私は魔弓を引継ぎ、そのメダルを持って黒ローブの手がかりを求めて旅をしている。
目立つ魔弓は魔法の袋にしまい、エルフと知られると何かとトラブルになると村人たちに教わってきたためフードも深く被ることで特徴的な耳を隠すことにしている。
先日に乗合馬車で一緒になった母娘のような師匠と弟子が思い出される。魔法使いが珍しいこの世界において、いずれも、特に師匠はなかなかの魔法の使い手のようであった。
その師匠も、弟子の火傷痕を治すために悪魔魔法の解呪を求めているようで、彼女たちが黒ローブの一味とは思えなかった。
エルフに対する悪意や拒絶感もなく、素直に魔法の話などができるこの2人とは、敵討ちが無ければもう少し一緒に居たかったので、人間に対してはじめて「また機会があれば」と口から出てしまった。きっと正直な気持ちだったのであろう。また会いたいものである。
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