158




「ウアアァァ…」



結界の中、苦しむ黒い化け物。徐々に魔力を吸収され、抵抗力が弱まってきている。もう少しで…



「ガアアアァァ!!」


「らぁっ!!」



眼前ではマイルとかいう茶髪の冒険者が、謎の魔物と激しい火花を散らせている。まったく…わざわざ結界なんて張らずに、倒してしまえば早いのに。僕、フィル=ファインズはそんなことを考える。



「……」



それにしてもこの人達…ホントに結構やるなぁ。ハリスのクソジジイが気に入るのも頷ける。判断力に優れ、多彩な戦闘技術を見せるナギ…人形を操り、広い攻撃範囲と高威力のスキルで応用の利くノノ…そして圧倒的な戦闘センスを持つ、近接戦闘型のマイル。良いパーティーだ。


全員レベルは30半ば程度だが、実力はレベル30のそれを完全に超えている。あのマイルって人…防具を外して突っ込んだ時はアホかと思ったけど、あの動きと勘の鋭さは超人的だな。



「くっ!」


「あ…!」



マイルが態勢を崩され、そこへ敵の大型グールが剣を振り下ろす!



「…は!?」



避けきれないと判断したのか、あろうことかマイルは持っていた大剣を敵の顔面目掛けて放り投げる!



「ッ!!」



敵はそれを身を反らして躱すが、その隙にマイルは跳び上がり…



「【バトルテンション】!…おらぁ!!」



敵に向かって拳を放つ!!

敵はそれを剣の腹で防ぐ!ひええぇぇぇぇ…



「マジかよ…素手で思い切りぶん殴るとか……剣の腹で受けてくれたから良いものの、刃を立てられてたら拳が真っ二つだよ…?」



そもそも剣士にとって、剣は己の半身。それをあっさり放り捨てて拳で攻撃なんて…



「ヤツは剣士という枠で見るべきではないかもしれんのぉ」


「!」



そんな僕の思考を察したかのように、ハリスが口を開く。



「剣が無ければ拳で、拳がダメなら蹴りで…あれは剣士というより、野生の獣じゃのぉ。ハッハッハ!」


「なんで嬉しそうなんだよ…」



とはいえ、戦況は良くない。次々と現れ、一向に減る気配のないアンデットの軍勢。ルーキー冒険者の三人の奮闘で今は持ちこたえられているが、いつまで持つか…。僕とハリスが戦闘に加われば状況を一気に変えられるが。



「ウゥ…ゥ」


「!!」


「ハリスさん!」


「うむ!あと一息じゃ!気合を入れなおせ!」



結界の中苦しむ怪物…その黒い煙の様なオーラで形成されている身体が、僅かに崩れ始めた。






「つっ!……はっ!!」


「グアアアァァ!」



キメラグールの剣がマイルの脇腹を掠める。マイルも負けじと斬撃を返す。徐々にマイルが敵の攻撃を躱し切れなくなっている?…。キメラグールがマイルの動きに順応しつつある。


ノノの【人形劇】の効果時間も残り2分を切った。俺もここまで大幅にMPを消費してしまった。このままだと…



「ぐわっ!!」


「マイル!!」



マイルが大きく跳ね飛ばされる。



「はぁ…はぁ…くっそ。強ぇな、あんにゃろう」



マイルもかなり消耗しているな…この後も戦闘が続くことまで考えると…。


その時、大きな破壊音が響き、村の門の扉が崩れ落ちる!



「マジ…かよ」



門が破られ、大量のアンデットが雪崩れ込んでくる。マズイ…今でもギリギリなのに、外にいた軍勢まで相手にする余力は…



「ナギ…今すぐこのデカブツ倒して、ノノの助けに廻れば何とかなる…だろ?」


「!!…」



マイルがニヤリと笑う。まったく、簡単に言ってくれる。まともに情報すら掴めてない相手を…。マイルは短絡的で、直球すぎる……でも…



「あぁ、その通りだ!…二人で行くぞ、マイル!」


「おう!」


「ノノ!アンデットはしばらく任せる!すぐに加勢に行く!…それまで頼む!!」


「よゆー…です!…」



よし…【異能転化オーバーライト


俺は上級剣士にスタイルチェンジ。マイルと並んでキメラグールと対峙する。



「「【炎剣】!!」」



二人同時に剣に炎を灯す。



「遅れんなよ、ナギ」


「マイルこそ、ポカするなよ」


「グアアアァァァァアア!!」



激しい咆哮の後、キメラグールが突進。



「「はああぁぁぁぁぁぁ!!!」」



迎え撃つ!


単純な武力じゃ俺に勝ち目はない。敵を視ろ、マイルを視ろ…反応しろ、合わせろ、反射しろ、予測しろ!


初撃。


敵の振り下ろす剣を躱しながら前進!

間髪入れず迫る薙ぎ払い攻撃を、マイルが大剣で打ち払い軌道を反らす!


俺はその間に更に踏み込み…斬り上げる!



「グガアッ!!」



まず一撃!

標的を俺に定めたキメラグールは刃を返す!



「【瞬進斬】」



俺は瞬進斬を使って後方へ飛退く!

入れ替わるように躍り出たマイルが敵の肩を斬りつける!



「グギャアアァァ!!」



怯んだ!!ここを逃すな!!



「「はあああぁぁぁぁぁあ!!!」



俺とマイルが並走し、一気に追い込み…斬る、斬る、斬る!!



「ガア゛アアァァァァアアア!!!」



キメラグールの反撃!

俺とマイルは剣で防ぐが大きく弾き返される!


敵はそのまま猛進!狙いは俺か!!



「【アースウォール】!」



上級魔導士にチェンジし、直後に魔法で土壁を出現させる!

しかしその壁は一刀の下に粉砕される!


砕け散る土壁。その陰に控えていたのは俺…ではなくマイル!



「【炎舞えんぶ七式ななしき】…」


「ガッ!?」


「【炎魔独行えんまどっこう】!!」



燃え盛る炎を纏った連撃!


最後の一撃を見舞う正にその瞬間!

キメラグール渾身の反撃!



「なっ!!?」



マイルの大剣が弾かれ、宙高く放り出される!

技の反動で動けず、無防備となったマイルに追撃が迫る!



「【二重斬ダブルスラッシュ】!」



既に駆け出していた俺は跳び上がり、敵の顔を斬りつける!



「【斬響ソード・シャウト】!!」



敵の注意は俺に引き付けられる!

反撃が来る前に距離を取って…!!



「が…はっ!!」



キメラグールが左手の剣を投げ捨て、高速の殴打を放つ!

マイルの真似事かよ…!!


俺は地に叩きつけられ、なんとか立ち上がるも、ぐらつく視界…



「ガアアァァァァアア!!」



怒り狂ったキメラグールが迫り、剣を振り上げる!!

ダメだ、避ける余力は…ない……が



「…悪いけど、そこは…」



俺は敵の巨体を見据える。



「…狂犬注意だ」



大きく跳び上がったマイルが、敵の頭上、上空から落ちてきた大剣を掴む!



「くたばれ化け物!【魔剛炎断まごうえんだん】!!」



炎を纏う大剣で、落下と共に縦に一刀両断!!



「グギャグガアアァァァァアアアア!!!!!」



断末魔。


敵のHPバーはその色を失い…




キメラグールの巨体は、地に倒れ伏した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る