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「ザイ、何が起きてる?…説明しろ」


「シン!…何しに来やがった!!」



な…んだ?コイツは?


ザイに“シン”と呼ばれた男。振り返るとソイツは立っていた。銀色のミディアムヘアー、黒い毛皮のコートを羽織り、必要最低限程度に装備されたライトアーマー。シャツから覗く胸元から、よく鍛え上げられた体つきなのがわかる。そして、夜の闇をかき混ぜたかのような群青色の瞳。その目からは一切の感情というものが読み取れない……ただ、深く…暗く。



「立場が上の者に対しては敬語を使えと言っているだろ?…ザイ」



その男は俺とマイルの間を悠々と通り過ぎ、ザイの元へと歩いていく。俺達はその間、一切動くことが出来なかった。


まるで、獰猛な獣と対峙しているかのような威圧感。全身が総毛立ち、冷や汗が噴き出す。ステータスを見るまでもない…コイツは、ヤバい。



「で?…なんだ?この状況は?」


「…プレイヤーの邪魔が入った。今ソイツ等を排除しようとしているところ…です」


「そうか…で…」



ルルア…いや、これはもうルルアと言えるのだろうか。黒い悪魔へと姿を変えたルルアの赤く光る眼が銀髪の男、シンを捉える。ルルアはシンに向け、黒い稲妻を放つ!!



「…コイツはなんだ?」


「「!!」」



シンはザイに尋ねながら、表情一つ変えずに雷撃を片手で受け止める!

黒い稲妻はシンの掌に吸い込まれるように消えていく。


なんだよ…それ…規格外すぎるだろ!



「そいつは…獣人族のガキが急に変身しやがったんだ!俺にも何が何だか…」


「ほう…面白い。…殺していいんだな?」



!!…

シンが凍てつくような視線をルルアに向ける。



「さ…せるかよ!!」



俺とマイルがシンの前に立ちはだかる。



「?…なんだお前達。俺を止める気か?」



本能が、全細胞が、“逃げろ”と命令しているようだ。シンの威圧感に気圧され、体が硬直する。



「まあいい…まとめて死ね」



シンが手を振り下ろす。

上空から地鳴りのような重低音が響き、夜空の一部が赤く照らされる!



「なっ…!!」


「…ウソだろおい!」



赤熱した空から落ちてきたのは、紛れもない…隕石!

冗談じゃないぞ…あんなもんどうすれば!!


瞬く間に迫りくる炎を纏った巨岩。俺の思考は…完全に停止した。



「すまん…待たせたのぉ」


「「!!」」



不意に俺達の前に躍り出た一人の男。背の低い小柄な白髪頭の老人…ローブを羽織り、丸眼鏡の奥に覗く眼光は鋭く…



「【消失点マジックホール】」



男は短く唱え、手を掲げる。頭上に巨大な魔方陣が出現し、落ちてきた隕石と衝突!



「大丈夫ですか!?ナギさん!マイルさん!」



背後から聞き覚えのある女性の声。隕石は魔方陣に吸い込まれるように消えていく…。



「ほう、これはとんだ大物が出てきたなあ…」



シンが初めて警戒の意を示す。白髪頭の男は隕石を完全に消し去ると、シンに向き直る。



「さて、大人しく捕まって…くれるようなタマではないじゃろうのぉ?シェンフール最高幹部…“抹消者”シン」


「そちらこそ大人しく逃がしてくれるようなタマでもないだろう?センターギルドマスター…“無色の”ハリス」



シンと対峙し、堂々と睨みを利かせるこの男。白髪に丸眼鏡…センターギルドマスター、ハリス=ウースラッドその人であった。

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