ナギの研鑽

42


辺りはすっかり暗くなっていた。あの後俺達はアイテムショップで飛翔石を2つずつ購入し、センターギルドを後にした。時間を確認すると、20時前…意外と時間が過ぎていたな。



「さてと、どうする?マスターナギ?」


「マスター言うな。アリシアさんの話だと、宿屋を取った方がいいってことだけど…」



俺達はアテもなく夜の街を歩いていた。アリシアさん曰く、宿に宿泊すれば、睡眠中に危ない連中に襲われる心配もないとのことだが、その宿屋の場所が分からない。…聞いとけば良かったな。



「なんか腹減ったなー…」



確かに、センターギルドでは飲み物しか飲んでないしな…。センターギルドで早速依頼を受けることも考えたが、流石に日中の連戦で疲労も溜まっていたし、今日はもう休むことにしたのだが…宿屋に食事はあるのかな?



「あ、あった…宿屋」



ノノが指差す先には確かに“宿”と書かれた看板が。宿屋、月跳つきはね兎…か。



「どうする?…」


「入ってみるか」


「行こうぜ!オレもうクタクタだよー…」



俺達は月跳ね兎の中へと入った。



「いらっしゃーい!!」



宿に入ると元気な声が出迎えてくれた。歳は俺達と同じくらいに見える、栗色のショートヘアの女の子。そして、犬を思わせるような耳。獣人族!


―――――――――――

  ミア Lv6 NPC

  《宿屋従業員》

―――――――――――



「……」



『さっさとしろっ!!』


『あぁっ!…』



嫌でもセンターギルドでのガザックと獣人族の少女のことを思い出してしまう。あの子は今、どうしているんだろうか…。



「お兄さん達…どうかした?」


「あ…いえ!なんでもないです!泊まりたいのですが、部屋はあいてますか?」


「はいはーい!えっと…二部屋?で、いいかな?」



そう、だな。ノノに一部屋、俺とマイルは相部屋で良いだろう。



「はい、それで大丈夫です」


「おっけー!素泊まりで一部屋150G!…合わせて300Gだよ」



ノノとマイルが俺を見てくる。



「ナギ、宝箱から5000G手に入れてるよな?じゃんけん無しの宝箱から」


「う…はいはい、わかったよ」



二人がニヤニヤと笑う。まったく、センターギルドで飲み代(主にアリシアさんの)600Gも支払っているってのに…。でも宿が思ったより安価で助かるな。


俺は300G支払った。



「食事したかったら一階が食堂だから、声を掛けてね!お部屋は二階の202と203号室ね!」


「お!食事!!」


「ご飯…食べる」


「早速お願いしてもいいですか?」


「おっけー!じゃあそこのテーブル使って!これお部屋の鍵ね!」



俺達は獣人族の少女、ミアから鍵を受け取りテーブルへとついた。



「注文はどうする?オススメはねじれ角鹿のシチューだよ!」


「おお、美味そう!」


「じゃあそれを三つ下さい」


「はーい!30Gでパンもつけれるけど?」


「お願いします」


「オッケー!じゃあちょっと待っててね。おじさーん!シチュー三つ!!」



ミアが声を張り上げ、奥からはいよと男性の声が返ってくる。シチューか…楽しみだな。





「お待たせ―!サラダはサービスだよ!」


「おおー美味そう!」



ミアが料理を運んできた。お盆の上にシチューとサラダ、黒っぽい色のパンが二切れ。美味しそうなクリームシチューが湯気を立てている。チーズの香りが食欲を掻き立ててくる。



「「「いただきます!」」」


「召し上がれ!お水も置いとくね!」




シチューをスプーンで掬い、口に運ぶ。


うまい!チーズのコクとクリームのまろやかな味わいに、煮込まれた野菜の旨味。肉は少し固いが、噛むほどに味が出る。寧ろこの固さが、ほろほろとした野菜の食感といい対比となっており、後を引く美味さだ。


サラダもシャキシャキとした瑞々しい野菜を甘酸っぱいドレッシングでさっぱりと食べられる。弾力の強いこのパンもシチューとの相性抜群だ。俺達は夢中で食事を堪能した。



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