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「おおーベッドだーーっ!」



マイルが装備を麻布のシャツに変更し、ベッドにダイブする。食事を終えた俺達は、部屋へと入った。部屋は質素な作りだったが、清潔なベッドが二つにシャワー、トイレも完備。…そういえば、この世界って排泄する必要あるのか?この世界に来てから、特に尿意とかは感じないが…。


俺は試しにトイレへと入ってみる。気になったら確かめたくなる、俺の性分…。


ピコン


おっ?


『ナビゲーションシステムです。プレイヤーはこの世界で排泄の必要はありません』



あ、そうなんだ…。ならわざわざトイレ作る必要あったのか?まぁ、リアルを追求…したのかな?


俺はトイレから出る。



「ナギ―!シャワー先に使っていいか?」


「おう、行ってこーい」


「らじゃ」



マイルがシャワー室へ駈け込んでいく。俺はベッドに腰かけ、ツールボックスを開く。時刻は21時半。俺は今日手に入れたアイテムやスキルを確認していく。


残金は4912G…。宿が一泊150Gなのを考えると…食事や寝床などの生活費は一日1000Gもあれば充分に事足りるだろう。問題は装備だ…アリシアさんから武器や防具は、売り買いする他にモンスターの素材から作成したり、強化したり出来るという話を聞いたが、結構なお金が要り様になるらしい。“特に俺のジョブ”は装備にあれこれと金が掛かるだろう。


明日からギルドのクエストを受けるつもりだが、どれ程の稼ぎとなるのだろうか?…



「…ま、考えてても仕方ないか。このコートは“汎用性”高そうだし、しばらくは大丈夫だろ」



シャワー室からマイルの鼻歌が聞こえてくる。俺は装備を麻布のシャツに変更し、ベッドに横たわり、天井を見つめる。何の変哲もない、土色の天井が見つめ返してくる。



『彼等の方がよっぽど人間だと思うよ』

『この世界を変えたいんだ』



アリシアさんの言葉が思い浮かぶ。俺は…この世界に来て、ただのゲームとしてプレイしていた。いつものように…。でも、アリシアさんみたいに、この世界に触れ、深く考えて行動している人達もいる。俺はこの世界に、何を見出すだろう…ゲームでこんな事を考えるのは初めてだ。


俺は現実世界リアルでは、何かを変えることはおろか、色んなことを諦めてきたように思う…。世界は理不尽で、不条理で、不都合で…ゲームの世界に逃げていた…そんな俺でも、この世界なら何か出来ることがあるのだろうか?


奴隷の、悲痛な顔をした獣人族の少女の顔が浮かぶ。



『NPCもこの世界で息づいているんだよ』



「………」



俺は目を閉じて思考を巡らせる。今日見たもの、聞いたこと、体験したこと…



「……タスク、確定」



俺は目を開き、ベッドから体を起こした。



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