5
土曜日
「うへーい!!ついたー!!」
先日、観測者と名乗るプレイヤーから挑戦を受け、対戦後冴木なる人物からゲームモニター依頼のメッセージをもらい、隣町まで電車に揺られてやってきたのだが…。
「由衣も来ればよかったのになー」
「風邪拗らせて長引いてるみたいだから、仕方ないさ」
「場所はここから歩いて5分のカフェだね」
「んじゃ、時間も近いしさっさと行きますかー!」
俺は未だにいたずらではないのかという疑惑を持ちながら皆の後に続いた。
「ここだね。店員に冴木さんの名前を出せばいいとのことだけど…」
その店はアンティーク調の落ち着いた雰囲気で、店内に入ると香ばしいコーヒーの薫りが漂ってきた。
「いらっしゃいませ」
若い女性の店員が優しい笑顔で出迎えてくれる。
「あの…冴木さんと待ち合わせているのですが…」
「冴木様ですね、奥の窓際の席へどうぞ」
そう案内された席には、20代半ばくらいだろうか、女性のように綺麗な黒髪をポニーテールにした端正な顔立ちの男が座っていた。店内にはその男以外の客の姿はない。男の前にはカップに入ったコーヒーが湯気を立てている。
「あの…」
「?…あぁ!after schoolの皆さまですか?」
「!…はい!」
「ご足労頂き、ありがとうございます。冴木と申します。どうぞ座ってください」
男は立ち上がり、丁寧に挨拶を済ませると俺達に席を譲る。高級そうなソファーに腰を下ろす。三人掛けのソファーが二つ向かい合う席。冴木と名乗った男は俺達を座らせると、隣のテーブル席から椅子を持ってくると、それに腰かけた。
「
そういうと冴木は俺達に名刺を手渡す。名刺にはドアーズ・開発部の文字が。ドアーズというのはビギニングワールドを開発したゲーム制作会社だ。ほんとにドアーズの社員なのか…。
俺達は冴木の放つオーラ…とでもいうのだろうか、どことなく不思議な雰囲気に吞まれていた。
「皆さん、コーヒーでよろしいですか?あ、勿論払いは私が持ちますよ」
「…あ、はい」
皆冴木の声に頷く。冴木の雰囲気に皆少し緊張した表情を見せる。
「すいません、この方達にもエスプレッソをホットで」
「かしこまりました」
冴木は店員にコーヒーを注文する。ところでマイル…お前コーヒー苦手だろ。
「さて…本題ですが」
コーヒーで一息ついたところで、冴木が話を切り出した。
「今回皆様にプレイしていただきたいゲームですが、先ずはこちらをご覧ください」
そういうと冴木はタブレットを取り出し操作する。数秒後動画が再生された。
『皆さんこんにちわ!ボクはテック!今日は新しい形のMMORPG、〈ニューワールド〉を紹介するよ!』
画面の中にピエロのような顔をした頭に羽が生えたようなキャラクターが現れ、明るい声で話し始めた。俺達は黙って画面に集中する。
『〈ニューワールド〉はこれまでのオンラインゲームとは一線を画す最新技術で、皆をゲームの世界の中へご招待!!実際に自分がそこにいて自分の体を動かしているかのようにプレイ出来ちゃうんだ!』
「!?」
俺達全員が驚きの表情をつくる。ゲームの中へ入る!?まさかフルダイブ技術か!?…完成していたのか?そんなもの、まだ漫画やアニメの中でしかみたことないぞ。
『〈ニューワールド〉の世界に入って、皆は冒険者として活動していくことになるよ!先ず皆は職業、ジョブを選択して、冒険者として旅立ってもらうことになる!ジョブによって戦い方や出来ることが変わってくるから、慎重に選んでね!そして、最初に選べるジョブは皆の適正、センスによって変わってくるんだ!自分の中にどんな才能が眠っているのか、ワクワクするね!!』
RPGにはありがちのジョブシステム…でもゲームスタート時から選べるジョブに個人差が出るのか?変わった仕様だな…。
『この世界にはジョブは無数に存在すると言われていて、現在確認されているだけでも500種類近くのジョブが存在しているんだ!最初に気に入ったジョブを手にすることが出来なくても大丈夫!冒険の途中で、レベルアップやイベントで自分のジョブをクラスアップ出来たり、魔石と呼ばれるジョブの力が封印されたアイテムを手に入れれば、そのジョブに転職することも出来るんだ!』
500種類!…このゲームはジョブシステムに相当力を入れているのか?…とにかくこのジョブってのはかなり重要になるな。
『そして何といっても!〈ニューワールド〉の魅力は広大なオープンワールド!!ニューワールドのマップの大きさはなんと!皆が暮らしている地球とほぼ変わらない大きさなんだ!!』
「はあぁぁぁぁぁああ!!?」
マイルが声を張り上げる。マイル、うるさい…聞こえないだろ。
画面は切り替わり、まるで映画のような美しい山や森、砂漠、海などの大自然を映し出す。これがゲームの中の世界の風景?…これがそうなら現実世界となんら変わりないリアリティだ。しかも地球と同等の広さのマップ?…そんなもの、とてつもないデータ量の筈だが…。
『皆がこの世界で何をするかは自由!装備を揃えて、謎めく世界を冒険したり、人々を困らせるモンスターを討伐したり、お店を開いてお金を稼いだり…家を買ってのんびり暮らすもよし!』
凄い…これが本当なら、今までにない最高のゲームだ。
いつの間にか冴木への疑念はどこえやら、俺は食い入るように画面を見つめていた。
『他にはー…国を治めて、敵国へ侵略なーんてのもアリ!』
画面のピエロがニヒルな笑みを浮かべて言う。マジかよ…どんだけ自由度高いゲームなんだよ、それ。
『ここから先は…〈ニューワールド〉の中で体験してみてね!皆の活躍を…”世界”が待ってるよ!』
ここで動画が終了する。
「…いかがでしたでしょうか?」
「スゲーっす!俺やりてぇっす!!」
マイルが犬みたいに興奮している。わからなくもない…この話が本当なら、高揚感を覚えないゲーマーはいないだろう。
「とても興味深いです。しかし、ゲームの世界に入るというのは俗にいうフルダイブ技術ということですか?五感を仮想現実世界に接続する…人体への影響はないんでしょうか?フルダイブ技術なんて様々な国で臨床実験がされているという話は聞きますが、実用化に至ったものは聞いたことがないですが…」
九ノ原先輩が質問を投げかける。冴木はコーヒーを一口飲み、カップを置く。
「いえ、我々が今回の〈ニューワールド〉に導入したシステムは皆様が認識されているフルダイブ技術とは全くの別物です」
「…というと?」
「皆様は夜眠っているときに、夢をみることはありますか?」
「?…ええ、それはまあ時々は」
「〈VRPG ニューワールド〉は夢の中でプレイするオンラインゲームなのです」
冴木はニヤリと笑みを浮かべた。
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