イケブクロターミナルにおける歓談
【夜魔の王】によって反転し、赤黒い太陽と青白い月が交互に昇る異空間と化した
まっとうな明るさを失い、常に夜が続いているようなありさまになった大都市には、王の従僕たる異形【夜魔の眷属】が徘徊するようになった。
そんな
例外は、魔性に魂が汚染された十代の少年少女だけとなる。
辛うじて人間の領域にいる者から、濃く魔性と交ざった者までピンとキリ。共通しているのは、魔性に対抗できる力があることと、
少年少女は退魔士となり、この夜の世界を生き抜くため、あるいは
――――以上が、公式でお出しされている大まかなゲームの概要である。
現代伝奇RPG《リバーストーキョー・ナイトメア》。
通称、RTN。
その
舞台モチーフは、現代日本――厳密には旧現代日本――の東京23区。魔性の力に魂が汚染された
異世界系ファンタジーのゲームが主流だった中、現代が舞台、そしてアバターが学生服を着た中高生というRTNは、その物珍しさから世間の注目を集めた。
物珍しさで釣ってくるゲームはクソゲーになりがちだが、プレイヤーをして中二病罹患者御用達ゲームと呼ぶRTNは
どうあがいても題材が
それでもニッチ層にぶっ刺さったRTNは、リリースから一年半経った今でもコアな人気を有している。平日の夜でも結構な数のプレイヤーがこの夜の世界に
俺もまた、そんなプレイヤーの一人。
《ヨシツネ》
レベル:99(MAX)
種族:人間
スタイル:
HP:10000 SAN:500
STR:A(900)+
AGI:S(999)+
CON:A(870)
DEX:S(999)+
POW:B(710)+
LUC:B(750)+
装備品
両手:
防具:
首:
両腕:
手首:
腹部:
両足:
夜の世界で得た
都内のターミナル駅は、一部を除き、プレイヤーの拠点として設定されている。
ここには
ゲーム内で死ねば、プレイヤーは最後に立ち寄ったターミナル駅にリスポーンする。
リアルタイム進行のため、セーブ&ロードは存在しない。だから、この
イケブクロ駅も、そんな拠点の一つ。
ホームにリスポーンしたばかりの俺は、改札を抜けると構内に足を向けた。
駅の中を行きかう人々の大半は、制服姿の
制服の改造、染色は当たり前。いじりすぎてもはや制服じゃないようなのもちらほら。
それに加えて、剣やら槍やら銃やらといった武器、色とりどりの
まるで、十月の月末を連想させる格好のバーゲンセールだ。
仮装の
様々な個性の中で、俺が着ているのは至ってシンプルな白の学ランだ。着崩し方も含めて、服だけ見ればリアルにいそうな感じである。ゲームの中だとこういう格好の方が逆に浮くんだから、マジョリティーの影響というのは思いのほか大きい。
設定でオンにすれば、フィールドBGMが会話の邪魔をしない音量で流れる。
しかし俺は
「……おっ」
「おーい、アーサー! 待たせたな!」
声をかけつつ、壁に寄りかかったそいつに近寄る。
そいつの見た目は、一言で言うなら前時代的な不良だ。
コートかと思うくらい裾を長くした黒い学ランに、全体的にだぼついたズボン。制服の裏地は赤く、頭は金髪のオールバック。まさに昔ながらの不良テンプレートだ。
こいつとは別ゲーからの付き合いなのだが、キャラメイクに自由度があるゲームをやると絶対にガラが悪いキャラをビルドする。プロ
そんなエセ不良のハンドルネームは
本名と通称ではイントネーションが違うなどという細かいこだわりを持つ男は、呼びかけられたことで俺に気づいたらしい。手元のコンソールを消すと、改めて俺に顔を向ける。
動きに合わせて、二挺の拳銃を収めた腰のホルスターが揺れた。
「おっす、アーサー」
「よお、ヨシツネ。今日のデートは終わったのか?」
もう一度声をかければ、アーサーも気さくに応じる。
「もっとイチャイチャしたかったんだけどなあ。
「エネミーとの戦闘をボディランゲージって言うの、お前くらいだよ」
「体を張ったコミュニケーションなんだから間違ってないだろ」
「キモい」
呆れた顔で言われた。人の必死な
とはいえ、軽口なのはわかっているので別に腹も立たない。仲が良い間柄だからこそ、これくらいのやりとりは禍根の残らない冗談になる。
エネミーMobに惚れこむ俺に、大抵のプレイヤーは変人を見るような眼差しを向ける。面白半分で近づいてくる奴もまた多く、フレンドになるのはアーサーのように別ゲーから仲が良かった友人――アーサーは親友と呼ぶ。気恥ずかしい呼び方だが、好意を向けられるのは嬉しい――か、チームを組んだ時に気が合った奴となっていく。
もっともこれは、俺が
ルー・ガルーのエンカ日とゲーム内イベントがかち合ったら、迷わず前者を優先する。
それがヨシツネというプレイヤーのゲームライフである。
そんな感じなので、RTNはかれこれ一年プレイしているが、フレンド数は辛うじて二桁。ちなみにアーサーは、かなり厳選しているらしいのに俺の五倍はいる。さすが配信者。
……もうちょっと真面目に交流しようかな、
「で、今日は何すんだよ、アーサー」
「明後日、他の配信者とのコラボでのシンボルエネミーの討伐生配信をするんだよね。実装した時にプライベートで狩ったけど、久々だから予行練習しときたくてさ。一緒に凸って❤」
予定を聞けば、アーサーはしれっと無茶ぶりをしてきた。
二人で
「ちなみにどいつ?」
「
「推奨レベル90じゃねえか。そのレベル台だとカンスト二人でも辛いだろ」
「いかにも面白そうだなって顔で言っても説得力ないなあ」
ばれたか。小さく舌を出して肯定した。
想定人数を揃えてロジカルに挑む高難易度も楽しいが、どちらかといえば少人数でぎゃあぎゃあ騒ぎながらごり押しする方が好きなのである。
「この手の無茶ぶりに二つ返事で乗ってくれるのはお前くらいだよ、ヨシツネ」
「おだてても何も出ねーぞー」
そう言って肩をすくめるが、内心まんざらでもない。頼られるのは嬉しいもんだ。
「エンカ範囲広いけど、なんか当ては?」
「討伐に誘ってきた人が行動パターン掴んだっぽいから、それで当たってく」
「やったぜ」
うろうろするデュラハンさんをしらみつぶしに探す必要はないようだ。
徘徊型の
「そういや、なんで実装当時は声かけなかったんだ? 配信じゃないなら参加したのに」
「ヒント、他のチームメンバーと予定合うのが満月の日」
「OK、把握」
「よーし、新技をデュラハンくんにお見舞いしてやるかぁ。ついさっき
「だっさ。これはルーちゃんも失望ですわ」
「おっ、デュラハンくんの前に巻き藁になるか? ん?」
「真顔で武器に手をかけるのやめてくれない?」
馬鹿なやりとりをしながら、俺たちは他の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます