第11話
「お嬢様方!このまま主の岬の本部まで行きますよ!」
チヒロは主の岬の裏手の車庫からシトロエンを出した。表門からでは目立ちすぎる、裏門を突破しようと急いでハンドルを切った。
「チヒロ!あれは一体何なの?!」
「今の時点では…何も分かりません…!…とにかく体勢を立て直さなければ!」
「ジュージ…ジュージが…!」
コトリの横の後部座席ではイサキは恐慌状態に陥ったように両手を震わせていた。
「イサキ落ち着いて!ジュージさんはきっと大丈夫だから…!」
道なき道を乗り上げ踏み倒し、裏門前に出るとロータリーには一人の男が立っていた。
白衣に赤いメッシュの入った白髪。少年の様でもあり老獪にも見える、異様な存在感を持った男だった。
敵か味方か、判別がつかない。このままでは轢いてしまう。だが一瞬の逡巡の後、チヒロはアクセルを踏み加速させた。
「チヒロ!?」
「お嬢様!止めないでください!」
男は悠然と銃を構えた。後部座席からコトリの悲鳴が上がる。
「舐めるな!」
シトロエンのフロントガラスは防弾。防ぐ術があろうはずもない。チヒロはアクセルを床まで踏み切った。
すると、車体とぶつかる直前、男は横に転がるように避けると同時、車の片側の二つのタイヤに数発銃弾を撃ち込んだ。当然、急速に車体はコントロールを失い出す。
(そんな…芸当が…!?)
車両はまるで狙い澄ましたかのように脇道の並木の一つに激突した。
「チヒロ!?チヒロ!?」
「う……」
コトリが見るとチヒロは額から血を流している。意識は朦朧としているようだった。イサキも衝撃で気を失っている。バックミラーに写る男はゆっくりとした足取りでこちらへ向かってきていた。
「だ、ダメぇ!!!」
コトリは後部座席から飛び出すと、男の前で両手を広げ、チヒロとイサキを庇うように立ちはだかった。その小さな手足は恐怖でガクガクと震えていた。
「……」
男は無言のまま微かに目を見開いたように見えた。そして男は何を思ったのか銃をそのまま懐にしまった。コトリは男のその行動を見て震える唇からどうにか言葉を発する。
「あ…あなたは…一体…何者…?」
「キミタリ…キミタリ・
そして今度は男が懐から取り出したものは麻酔銃だった。
「俺は君たちの闘争を終わらせに来たんだ」
プシュ、と音がして、そこでコトリは崩れ落ちた。
と、キミタリの足元で弾が跳ねる音がした。
「…!」
建物の中からライフルで狙われていることを察知したキミタリは射角からおおよその判断で建物の上階目掛けてスモークグレネードのピンを抜いて投げた。
スモークグレネードを撃ち落とそうとサニーフィールド神父が半身を乗り出した時、咄嗟にキミタリと目が合う。
撃ち落とされたスモークグレネードは不運にも車の近くに落下した。煙の中にはコトリとイサキがいるため下手に射撃することも出来ない。
煙の中から抜け出たキミタリは気を失ったコトリとイサキを盾にしたまままんまと裏門から走って出て行った。サニーフィールド神父はその後ろ姿に照準を合わせながらもなすすべなく見送るしか出来なかった。
「…くそっ…!」
サニーフィールド神父は悔恨から壁に拳を打ち付けた。
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