第3話
「こんにちは!
「…あ゛?」
閉会後、人もいなくなった会場の喫煙スペースでハーブとウィステリオは二人でサニーフィールドを待っていたところ、わざわざ表れたのはイチヨウ・ミタニの側近の二人の黒服の女たちだった。
「何やねんお前?」
「おい、マコ。無駄話はよしな」
「少しだけだよ!初めまして、私は
「…敵に塩を送るような趣味はないで、散れ散れ」
ハーブは煙草の煙をくゆらせながら追い払うように片手を振った。
「いきなり敵だなんてあんまりだよ~ハーブ神父。お噂はかねがね。“異端狩り”のエキスパートにしてサニーフィールド・カンザキの切り札…」
「人を腹黒神父の所有物みたいに言うなや!?けったくそ悪いわ!」
「あれ?ちがうの?まあいいや。私ね、強い人って大好きなんだあ。それもあなたみたいな見るからに自信満々な人が…」
「マコ、そこまでだよ」
「きゃっ!」
後ろに控えていた巨女は片手でマコをひょいと抱き上げた。2mはあろうかという巨体。女性離れした膂力だった。
「言っとくけど今あんたらと喧嘩するつもりなんてないからね、邪魔したよ」
「おう、そうしとけそうしとけ。一昨日来いやゴリラ女」
そのまま立ち去るかのように思われたが、巨女の挙動はそこでぴたりと止まった。
「おい…今なんて言った?」
「…今あんさんが聞こえたとおりやろうな?」
ハーブ神父は挑発するように口の端を歪ませた。
「…へえ…」
ゴリン、と鉄骨が擦り合わされるような音がした。それは巨女が拳を握った音だった。
「前言撤回さね」
「…あ?」
突如鳴り響く破裂するような重い打撃音。
巨女が振り向きざまにハーブに右フックを見舞ったのだ。
咄嗟にクロスアームでブロックしたハーブだったが、直立のまま後方5mは身体が吹っ飛ぶ。巨体に見合わないおそるべき速度の打撃。ハーブの両腕からミシミシと骨が軋む音が聞こえてきそうなほどだった。
「チィッ…!?」
「ハーブ神父!?」
「そこまでだよ」
と、そこに片手にスマートフォンを持ったサニーフィールド神父が現れた。
「ここで戦うのは双方にとって利益を生まない…君たちも君たちのボスも分かるはずだね?」
「…フン」
巨女はマコを抱えたまま踵を返した。
「次会う時まで精々首洗って待ってるんだね。あたしの名前はデカイ、覚えときな」
デカイと名乗った巨女は地響きすらしそうな巨体を揺らして去っていった。
「…ちっ、礼なら言わんで…」
「ハーブ、それにウィステリオ、遅れてすまなかった。少し法王代理と話しこんでいてね」
「い、いえ…」
「さて…それにしても先ほどのミス・イチヨウの件…どうしたものかな?」
サニーフィールドはイサキ・パディランドのセキュリティについては出来得る限りのことはしたつもりだった。主の岬の教区内の中でも有数の情報機密性を備えた学校へ転入手続きを行い、登下校時も機密性には特段配慮した。念のため校長にも寄付という形で金を握らせた。念には念を入れたつもりだ。
だが、それでも情報が漏洩したとなると…
「もう少し護衛を強化した方がいいのかもしれないな、イサキくんには窮屈な思いをさせるだろうが」
「…痩せた考えやな…キツネに洗いざらい調べさせればええやろ」
「はは…いとも簡単に言うものだ…よほどキツネくんを信用しているようだね?」
「ちゃうわ、あんなモグリ。ただの腐れ縁や」
ハーブ神父とサニーフィールド神父の話を聞きながらウィステリオはデカイとマコの後ろ姿を見送っていた。
少しずつ何かが動き始めている。それはウィステリオにも否応なく感じられた。
・ ・ ・
「デカイちゃんばっかりずるーい」
マコはデカイの左肩にちょこんと座ったまま頬を膨らませた。
「ボスには言うんじゃないよ?あとでどやされちまう」
「あの人、とっても強そうだったね。デカイちゃんのパンチで死ななかったし!」
「はん、腕っぷしは大したことないさね」
「そりゃまあデカイちゃんと比べたらね…」
マコは妖艶な笑みを浮かべた。
「壊しがいがありそうでとっても素敵」
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