宮廷ネクロマンサー、アンデッド嫌いの聖女に追放される~「人間は裏切るから戻ってきて!」と土下座されるがもう遅い。吸血鬼の姫にめちゃくちゃ溺愛され、不死王と崇拝されてしまっているので~
エクソシストを一瞬で退け、めちゃくちゃ感謝される
エクソシストを一瞬で退け、めちゃくちゃ感謝される
「ふぅ……」
色々と考える事はあったが、俺の今後の根城はこの不死城という事になるらしい。
急激な転身だった。宮廷ネクロマンサーから無職になり、吸血鬼の姫を助けた事で不死者を率いる王としてアンデッド達を導く事になったのだ。
俺は今不死城の大浴場に入っている。物思いに耽っていた。急激な環境の変化に思考が追いついていない。
「ん?」
湯煙の中から人影が見えた。次第のその姿は俺の瞳に鮮明に映し出される。若干胸当たりのボリュームは控えめではあったが、人間離れした作り物のような美しい裸体であった。
言うまでも無かった。その人物とは誰か。
「……エリザ、なぜお前がここに?」
「はい! 敬愛なるジル様のお背中をお流しに来ました!」
胸を張って言われる。俺は溜息を吐いた。
「恥ずかしいとか、そういう感覚はないのか?」
「恥ずかしい? 何がですか?」
「いや、まあいい。そんな質問をした俺が馬鹿だった」
エリザは吸血鬼である。そして俺は人間だ。そもそも種族が根本的に違うのだ。価値観も異なるだろう。人間だって全裸のような恰好で生活する民族だって存在する。好んで露出する性癖を持った人間もいるが。まあ、それは大抵の場合男であるが。
どうする。こうまで俺を慕ってくれている女の子。吸血鬼とはいえ、邪険に扱うわけにもいかない。かといって手を出すわけにもいかない。
無論、こうまで慕われているのだ。手を出したところで何とも言われないだろう。
だが俺にとってエリザは使役するアンデッドと同じで子供のような存在である。
子供に手を出すのは親として憚られた。
「ジル様のお背中をお流ししたいのですが、よろしいでしょうか?」
「え? ああ。うーん。そうだな」
断る事も彼女を傷つけそうだった。やむなく俺はその提案を受け入れる事になる。
エリザに背中を流して貰っている最中の事だった。突如、不死城が慌ただしくなった。廊下から声が聞こえてくる。
「何者かがこの国に攻めてきたぞ!」
「聖王国のエクソシストだ!」
「ん? ……」
「ジル様」
「どうやら呑気に風呂に入っているわけにもいかなそうだな」
俺は風呂を上がり、服を着た。
「ここが悪しき者達が住む不死者の国ですか」
「ヴァンパイアハンターから情報を聞き出しました。何でも国王暗殺の指名手配犯であるジルは吸血鬼を助け、この国へと向かったとの事」
「そのようですな」
「何の用だ?」
俺は男達数名の前に姿を現す。司祭のような恰好をした男達。エクソシスト(悪魔払い)だ。
「くっくっく。やはり現れましたか。ジル・ロードニクス。我々は聖王国リカスティアより派遣されたエクソシストです。聖女アリシア様の任を受け、あなたを処刑にきました」
濡れ衣だ! 俺は国王の暗殺なんてしていない! やったのはアリシアの方だ!
そう主張したところで何になる? 潔白を証明する手段など俺にはない。
それにこいつ等は単にアリシアの命令を受けて動いているだけだ。俺が潔白か、そうでないかなど関係がない。俺は処分できればこいつ等にとってはそれで良いのだ。
「……ジル様」
「下がっていろ。エリザ」
俺はエリザを下がらせ、前に出た。
「人間の分際で邪悪なアンデッドに肩入れするなど言語道断! 邪悪なネクロマンサー! 正義の光の前に断罪されなさい!」
「俺には余程お前達の方が邪悪で醜悪な存在に見えるけどな!」
「黙れ! ネクロマンサー! 正義の光により滅せられるがいい! ホーリーレイン!」
三人による光魔法の同時斉唱だ。聖属性の光の矢が雨のように襲いかかる。ホーリーアローの上位発展版のような魔法だった。
「ジル様!」
「死霊術(ネクロマンス)サモン・アンデッド! スケルトンウォール!」
一瞬にして大量発生させたスケルトンの壁。天高く聳える骸骨の群れが俺達を守る盾となった。
「ぐっ。ぬうっ! 忌まわしきアンデッドめ! 我らの聖なる光を防ぐとは」
「今度はこっちの番だ! 死霊術(ネクロマンス)サモン・アンデッド! エルダーリッチ!」
召喚されたのは骸骨のようなアンデッド。エルダーリッチだ。先ほど召喚したスケルトンのような雑多な存在ではなく、より上位のアンデッド。
ローブに身を包んだ魔法使いのようなアンデッドだ。骸骨の魔法使いである。
「放て! エルダーリッチ!」
エルダーリッチは魔法を放つ。放ったのは炎属性の魔法だ。
巨大な火球がエクソシスト達を襲う。巨大な火柱が立った。
「ぐおおおおおおっ! 何という威力だ!」
「忌まわしきネクロマンサーめっ!」
「待ちなさい。これ以上の交戦は危険です。王国ハルギニア、そして聖女アリシアにそこまでする義理立てはありませぬ」
「それはそうですな。我々は出来るだけの事をしました」
「ええ。後は聖女アリシアの問題でしょう。我々はあくまで聖王様のご命令で動いているのです。聖王様も命を賭してでも闘えとまではおっしゃってはいませんでした」
「命あっての物種。その通りです」
「ふふっ。命拾いしましたね。邪悪なネクロマンサー」
「どこの口が言うんだ。逃げるなら逃げろ。そして二度とこの不死者の国に来るな」
「では! 逃げましょうぞ!」
タッタッタ。エクソシスト数名は脱兎の如く逃げていった。
「ありがとうございます。ジル様。あなたのおかげで不死国は救われました」
「ああ。気にするな。俺はこの国を導く王になるって約束しただろ。だから国民を守るのも当然の事だ」
「ジル様……流石私のお慕い申し上げているお方。そして我々が崇拝するこの国の王です」
エリザは恍惚とした表情になっていた。こうして俺は聖王国のエクソシストを退けたのである。
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