夏休み、僕は一生忘れられない恋をした
時雨煮雨
第1話 再会
『ヤッホー久しぶり。突然ごめんね? 今週の土曜日って予定空いてるかな? 久しぶりに会わない?』
夏休み、大学生の僕は一人暮らしをしているアパート一室、そのベットの上でスマホゲームをしていると、トークアプリのメッセージが来たことを知らせる通知が僕──
「うわぁ!? せっかくフルコンできそうだったのに!」
その通知は、運悪く音ゲーをしていた画面をほとんど見えなくし、プレイ中の曲の最難関パートの譜面を覆い隠し、今までノーミスで積み上げたコンボ数を無惨に消しさる。
「はぁ……大体話してる人の通知は切ってるはずなんだけど……は?」
アプリを開くと、最上部に表示されているメッセージ。
そこに書いてあった名前は──
小鳥遊さんは、僕の初恋の人であり……今でも好きな人の名前でもあった。
「見間違い……? いや、ここ明らかに本人のトークルームだし……」
でも、最後にトークをしたのは確か……三年前。最後のトークは未読無視されていたのは覚えているけれど……今ではスマホを変えたせいでトーク履歴が消え、その内容はあまり思い出せない。
『久しぶり、土曜日は予定空いてるよ』
そんなことを考えながら、僕はカレンダーのスケジュール表を見て、空欄なのを確認すると返信した。
『よかった! じゃあ、待ち合わせの時間とか決めようか!』
すぐに既読がついて返信がくる。
そこで僕は気がついた。
「あれ? 普通に会う約束とかしてるけど、何気に二人きりで会うのって初めてじゃないっけ……?」
そう考えると、今から心臓がバクバクと激しく鳴り止まなくなったのだった。
そして、あっという間に土曜日になってしまった。
ほんと、あっという間だった。寝て起きての繰り返し。たったそれだけでもうこの日になってしまったのだから。
しかし、僕は昨日楽しみすぎて寝付けなく、今日は寝不足だ。
そんな僕は現在、指定された集合場所の前で唖然として立ち尽くしている。
ここは、僕が住んでいる県の中で一番大きな総合病院。その一室の目の前。
数日前にきたメールをもう一度確かめてみる。
確かに、メールでこの場所が待ち合わせと書いていた。
「まさか、小鳥遊さんが入院してるなんて」
病院の一室が集合場所の時点で気付いているべきだった。
だけど、僕は病室の扉に書かれている部屋番号。その横に書かれている名前を見るまで気づかなかった。
それほど、小鳥遊さんからの「会いたい」という言葉に浮かれていたのだ。
「どこか……身体が悪いってことだよね」
そう思うと、これから小鳥遊さんに会うことがとても怖くなってくる。
でも、もう少しで約束の時間だ。会うと言った以上、いつかは開けないといけない扉。
それを、息を飲んで僕は恐る恐る引き戸に手をかけ──
その扉は、何も力を入れず勝手に空いた。
「あら? あなたもしかして……︎︎沙季が最近よく話してくれる裕也くん?」
その扉から出てきたのは小鳥遊さんそっくりの女の人。
お姉さん……だろうか? 見た目は若く見える。
でも、それよりよく小鳥遊さんが話すって一体……。
「は、はい。そうですけど……」
僕がそういうと、お姉さん? は今開けた病室の扉をゆっくりと閉めた。
そして、病室の目の前にあるソファに座り、隣を進めてくる。
僕は左手首の時計を見て、まだ約束の時間まで少しだけあるのを確認して座った。
「やっぱり!」
そう言ってお姉さんは笑顔で手を叩き喜ぶ。
「えっと……小鳥遊のお姉さん? は僕に何か用事ってあるんですか?」
僕がそう尋ねると、お姉さんは吹き出し、笑った。
「ふふふ……ゴホン…えっと、ごめんなさいね急に。私、一応沙季の母親なんだけど……お姉さんって……」
「えぇ⁉︎ た、小鳥遊さんのお母さん⁉︎」
小鳥遊さんのお姉さんだと思っていた人がお母さんだったなんて……。
とてもそんな歳には見えないけど。
「ふふ、私、よく若く見えるなんて言われるけど、あの子のお姉さんに見えるなんて今まで一度もなかったから嬉しいわ」
「そ、そうなんですね……えっと、それはよかったです」
「でも、それって私童顔ってことなのよね……嬉しいような、なんかね?」
小鳥遊のお母さんが首を傾げる。
僕はそれに苦笑し、腕時計を見る。
「それより、えっと、なんで僕呼び止められたんですかね?」
時計を見ると、約束の時間が迫ってきていることに気がつく。
そして、小鳥遊のお母さんの要件を何かを聞くべく話を振った。
「特に用はなかったんだけどね、あの子がよく話してくれるもんだからどんな子かなって。急にごめんなさいね?」
「い、いえ……あ、そういえば、小鳥遊さんってなんでこの病院に入院を?」
何か言われると思った僕は、特に用がなかったことにすこい安堵する。
そして、先ほど浮かんだ疑問を小鳥遊のお母さんに聞いてみた。
「えっと……それはごめんなさい……沙季から自分で話すって言われてるの……だから、あの子に聞いて頂戴……ね?」
質問の答えに、小鳥遊のお母さんは少し悲しそうな表情をし、病室に目を向ける。
「わかりました」
「あと、あの子のこと、どうかこれからもよろしくしてあげてね」
そう言って、小鳥遊のお母さんは立ち上がり、その場を去っていった。
その後ろ姿を見送り、僕は小鳥遊の部屋のドア前へと移動する。
そして、深呼吸をしてから僕は引き戸を開けた。
「あっ! やっときた! 久しぶり!」
扉を開けた僕はその先にいた小鳥遊さんと目が合い。小鳥遊さんは僕に気がつくと、読んでいた雑誌を横に置いて僕に手を振ってくる。
その姿に、想像と違った姿が見れて少し安堵した。
「なんで……入院なんてしてるの?」
だが、久しぶりの再会。もっと他に言うことがあると思った。だけど、僕は今一番の疑問を小鳥遊さんにぶつけた。
そして、小鳥遊さんは少し困ったように苦笑いをした。
「あはは……少し風邪が悪化してね……。あ、でもでも! もう治ったから大丈夫だよ!」
手を顔の前で忙しなく動かす小鳥遊さん。そんな動きに、僕は思わず笑った。
「そ、そうなんだね。それはよかった」
とりあえず、小鳥遊さんが重い病気とかではないと言うことがわかって安心する。
「うん! もうなんともないから気にしないで?」
「わかった。ところで……今日はなんで僕を呼び出したの?」
小鳥遊さんについての心配が解決し、ようやく本題に入る。今日呼ばれたのはどうも僕だけ。
他に人がいることを予想したけどそんな気配は今の小鳥遊さんからはしない。
最初はデートかと思ったけど、ここは病院。そんなことはない。
そして、僕だけが呼ばれた理由を、僕は知らない。
「あーうん。気になるよね……えーと、ただ、会いたかっただけじゃ……ダメかな?」
なんだその可愛い表情は。そして、なんだその聞いて欲しくない的な言葉は。
そんな表情でそんなこと言われると、すごく気になる。
「うん。なんでなのか知りたいかな?」
近くにあった椅子をベッドの前に置くと、それに腰をかける。
「えっと……あ、明日さ私退院なんだけど、退院したあと二人で遊びに行けないかなーって」
小鳥遊さんは目を泳がせながらそう言う。
それは数日前のメールでもできると思うんだけど。
でも、小鳥遊さんに会えたから本当は僕にとってどうでもいいんだろうけど。
「まぁ、言いたくないなら別に言わなくてもいいけどね」
本当は隠し事なんてしないで欲しいけど、僕と小鳥遊さんは恋人とかそう言う本当のことを言うような親しい関係ではないはずだ。
そんな関係の僕に、なんでも言うわけがない。
「そっか、ありがと……ちゃんと。いつか言うから──ごめんね」
「うん」
そして、微妙な雰囲気が二人の周りを包む。
何か話題がないものかと探してみるが、こんな時に何を話したらいいのか全く思いつかない。
「明日ってその……遊べる?」
小鳥遊さんが恐る恐る俺にそう聞いてくる。
確か、さっき退院するって言っていたはず。
「何も予定ないから大丈夫だよ」
「やった! 身体は全然大丈夫だし、それじゃ、明日ここ行こ!」
そう言って小鳥遊さんが取り出したのは、日本の千葉にあるのに『何故か東京の名を冠する』日本最大級のテーマパーク。そのペアチケットだ。
ペアチケットと言うことは、誰かと行くためだけに用意したはず。
なのに、それを僕と遊びに行くと言うだけで使ってしまうのだろうか。
「うん、いいね……」
用意してあった二枚のチケット。
僕はそれを誰と行く時に買ったやつなのかが気になって仕方がなかった。
「じゃあ、明日退院して家に帰ったら連絡するね。病院出るのが大体十二時くらいだから……待ち合わせは一時くらいかな? 駅で待ち合わせね!」
小鳥遊さんは早口でそう喋る。
その顔は、早く明日にならないかなぁなどと呟くくらいとても嬉しそうな表情だ。
そしてその表情を見ると、僕は勘違いしてしまう。『僕のことを、好きなのではないか?』と。
「うん、わかった。楽しみにしてる」
「うん、楽しみにしててね!」
僕はそう言って、僕の心の内側に潜む思いを隠しながら微笑んだ。
それから、僕と小鳥遊さんは明日の計画を立てたり、今までのことを話したりと、楽しく話していると、看護師の人が検査の時間だと部屋を訪ねてやってきた。
「あれ? もうそんな時間?」
小鳥遊さんはそう言って壁にかけられている可愛らしい時計に目を向ける。
僕もそれと同じく時計に目を向けると、どうやら僕がきてから一時間以上経っていた。
「結構話してたみたいだね」
僕がそう言って小鳥遊さんに目を向ける。
「あはは、そうだね。なんか……時間経つの早いなぁ」
困ったように小鳥遊さんは頬をかいた。
「じゃあ、僕もう帰るよ」
床に置いた鞄を持ち立ち上がり、出口の方へと歩を進める。
本当は聞きたかったこととかたくさんあったんだけど時間がないから明日聞こう。
未読無視されたままのメッセージだって気になるし……。
「うん、また明日ね」
病室の扉をあけ、敷居をまたぐ。
後ろから声が聞こえると、振り返って軽く手を振った。
「うん、また明日」
そう言いながら、僕は静かに扉をしめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます